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25% 血涙の鎮魂歌~裏切られた愛の終幕~ / Chapter 5: 第5話:数珠と偽りの恩人

章節 5: 第5話:数珠と偽りの恩人

第5話:数珠と偽りの恩人

病院の白い天井が視界に入った。

刹那がゆっくりと目を開けると、枕元に暁が座っているのが見えた。彼の顔には心配の色が浮かんでいる。

「気がついたか」

暁の声は優しかった。まるで昨日のプールサイドでの出来事など忘れてしまったかのように。

「アシスタントから聞いたよ。俺が君の回復を祈って、長年身につけていた数珠を託したそうだな」

暁は手首に巻かれた古い数珠を指差した。

「それに禁煙、禁酒、菜食も誓ったんだ」

刹那は数珠を外そうとした。

「返すわ。あなたのものでしょう」

しかし暁は彼女の手を取り、数珠を再び手首に巻き直した。

「君がつけていてくれ。昔、君が俺の回復を祈ってくれたように」

その言葉で、刹那の記憶が蘇った。

暁の足が不自由だった頃。二人で月詠院を訪れた日のこと。

境内の石段を車椅子で上がれず、刹那が暁を背負って本殿まで運んだ。汗だくになりながら、彼の健康を必死に祈った。

あの時の暁の目には、確かに自分だけが映っていた。

でも今は違う。蝶子がいる。

もうあんな日々は二度と来ない。

刹那は退院の手続きについて尋ねるため、病室を出た。廊下を歩いていると、暁と響の会話が聞こえてきた。

「暁、刹那との結婚式は盛大にやるんだろうな?」

響の声だった。

「ああ、月末には式を挙げる予定だ」

暁が答える。

「そういえば奇遇だな。敵対する龍胆家の人間も『氷室(ひむろ)刹那』という同姓同名の女性と近々結婚するらしい」

響の言葉に、刹那の足が止まった。

咳払いをして、二人の前に姿を現す。

「お疲れ様」

刹那は素っ気なく挨拶した。

退院後、自宅に戻った刹那のスマホに通知が届いた。

SNSの友達申請。送信者は「橋宗司(そうじ)」。

縁談相手だと察した刹那は、申請を承認した。

すぐにメッセージが届く。びっしりと書かれた結納品のリスト。そして「明後日、お母様とご一緒に空港へお迎えに上がります」という文面。

刹那は簡潔に返信した。

「結納品は十分です。ありがとうございます」

翌日。

暁が刹那のために独身パーティーを開いた。会場には多くの客が集まっている。

「刹那、君へのプレゼントだ」

暁は新しいスーパーカーのキーを差し出した。

「ありがとう」

刹那が受け取ろうとした時、暁は振り返って蝶子を呼んだ。

「蝶子ちゃん、君にもプレゼントがある」

暁は別のキーを取り出した。

「これは刹那のおさがりだが、全国限定版のランボルギーニ・スーパースポーツカーだ」

会場がざわめいた。刹那に贈られた車は、ごく普通で、やや高価なだけのスポーツカー。対して蝶子への「おさがり」は、遥かに価値の高い限定版。

客たちがひそひそと囁き始めた。

「暁さんが蝶子さんを特別扱いするのは、彼女が有名なレーサー『ゼロ』だからよ」

「命の恩人だから大切にしているのね」

「『ゼロ』って確か、暁さんを事故から救った人でしょう?」

刹那の手が震えた。

彼女はわずかに眉をひそめた。「ゼロ」?それは、私ではないか?


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