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11.53% 補聴器を踏み砕かれ、全てを失った私 / Chapter 3: 第3話:踏み砕かれた希望

章節 3: 第3話:踏み砕かれた希望

第3話:踏み砕かれた希望

雫が床に膝をついて紙幣を拾い集める姿を、周囲の客たちが嘲笑の目で見つめていた。

「プライドってものがないのね」綾香の声が頭上から降ってくる。「恥知らずもいいところだわ」

「見てられないな」誰かが吐き捨てるように言った。「金のためなら何でもするのか」

雫は唇を噛みしめた。屈辱が胸を焼いているが、それでも手を止めることはできない。一万円札を一枚、また一枚と拾い続ける。

二十枚。合計二十万円。

治療費六百万円には遠く及ばないが、それでも生きるために必要な金額だった。

「雫」

蓮の声が響いた。見上げると、彼の顔が怒りに歪んでいる。

「あの時手術費を出すことを拒んで、手紙を残していなくなった。今や二十万円のためにプライドも捨てたのか」

雫の手が震えた。

「君は本当に気持ち悪い!」

蓮の言葉が、雫の心を深く抉った。彼は何も知らない。母親の脅迫も、雫が聴力を失った本当の理由も。

最後の紙幣を拾い上げ、雫は立ち上がろうとした。

その時だった。

綾香の足が、さりげなく雫の足首にかかった。

雫の体がバランスを崩し、勢いよく前に倒れる。手を伸ばした先にあったのは、テーブルの上の高級ワインボトル。

ガシャン!

ラフィットの赤ワインが床に砕け散った。ガラスの破片が飛び散り、雫の手のひらを深く切り裂く。

「あっ……」

血が滴り落ちた。しかし、それよりも恐ろしいことが起きていた。

転倒の衝撃で、雫の耳から補聴器が外れて飛んでしまったのだ。

世界が、完全な静寂に包まれた。

雫の顔が青ざめる。手のひらの痛みも忘れて、必死に床を見回した。補聴器がなければ、何も聞こえない。完全に孤立してしまう。

蓮が眉をひそめた。雫が怪我をしても気にする様子がない。それどころか、何かを探すように床を這い回っている。

「何をしているんだ?」

蓮の声は雫には届かない。彼女は血を流しながら、必死に補聴器を探し続けた。

マネージャーが駆け寄ってきた。

「白雪さん! 何をしているんですか!」

雫は振り返らない。聞こえていないのだ。

「無視するのか!」マネージャーの顔が怒りで赤くなった。「ラフィットのワインを割って、客に怪我をさせて、それで無視とは何事だ!」

「解雇だ! 給料も支払わない!」

雫は相変わらず反応しない。テーブルの下を覗き込み、何かを探している。

そして、ついに見つけた。

テーブルの脚の陰に、小さな補聴器が転がっていた。

雫の顔に安堵の色が浮かんだ。これさえあれば、また音の世界に戻れる。

手を伸ばした。

指先が補聴器に触れようとしたその瞬間——

ガリッ。

誰かの靴底が、無慈悲に補聴器を踏み砕いた。


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