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15.78% 許した夫に、奈落へ落とされた / Chapter 3: 第3話:最後の決断

章節 3: 第3話:最後の決断

第3話:最後の決断

[氷月詩の視点]

「赤ちゃんのお父さんは、いらっしゃいますか?」

医師の質問が、静寂な診察室に響いた。

「お父さんなんて、いません」

力なく答える。

本当に、いない。

蓮は私が階段から落ちて血を流している時も、刹那の手の傷を心配していた。救急車が呼ばれている時も、私の嘘だと決めつけて電話を切った。

お父さんなんて、最初からいなかった。

妊娠が分かってから三ヶ月間、検診に付き添ってくれたことは一度もない。エコー写真を見せても、忙しいからと目も向けなかった。

赤ちゃんを失った今、これ以上傷つけられる理由なんてない。

七年間。

七年間、私は何をしていたんだろう。

「入院の手続きをお願いします」

医師から差し出された入院票を受け取る。

竜ヶ崎詩。

この名前も、もうすぐ変わる。

離婚しよう。

今度こそ、本当に。

----

病院の廊下を、蓮が刹那を庇うように歩いてくる。刹那の手には大げさな包帯が巻かれていた。

「蓮くん、痛いの……」

「大丈夫、すぐに診てもらおう」

蓮の声は優しい。私には一度も向けられたことのない、優しさに満ちた声。

----

[氷月詩の視点]

廊下でばったり出くわした。

蓮の顔が険しくなる。

「お前、ここまで追ってきたのか?刹那は手を怪我してるんだぞ」

追ってきた?

私が?

「詩さん、刹那に謝れ。それから、刹那の着替えと日用品を買ってこい。入院することになったんだ」

入院?

あの程度の傷で?

じゃあ——お腹の子供を失った私は、どうすればいい?

声にならない。

言葉が出てこない。

蓮は私の沈黙を無視して、刹那を気遣い続けている。

「痛みは大丈夫か?」

「うん……でも、蓮くんがいてくれるから」

思い出す。

一回目。結婚式の前日、刹那と一緒にいるところを目撃した時。

二回目。新婚旅行をキャンセルして、刹那のコンサートに行った時。

三回目。私の誕生日を忘れて、刹那の舞台を見に行った時。

四回目。妊娠を報告した日、刹那から電話がかかってきて、そのまま出かけていった時。

そして五回目。

今日。

「チャンスは五回まで」

私たちの約束。

蓮が私を裏切るたびに、私は許してきた。でも、五回目で終わりだと決めていた。

五回目は、もう来た。

何も言わずに、その場を去ろうとする。

「君、その手に持ってるのは……何だ?」

蓮の声が背中に刺さった。

入院票を握りしめた手が、震えている。

振り返ると、蓮の目が私の手に注がれていた。


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