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23.8% 谷底へ突き落とされ、婚約者に捨てられた私 / Chapter 5: 第5話:決別の宣言

章節 5: 第5話:決別の宣言

第5話:決別の宣言

入院して三日が経った。

彩花の足の傷は、実習看護師による杜撰な治療で悪化の一途を辿っていた。包帯の交換も適当で、消毒も不十分。痛み止めも与えられず、彩花は激痛に耐える日々を送っていた。

「これじゃダメだ」

響が病室に入ってきて、彩花の足を見て眉をひそめた。包帯は血で滲み、異臭まで漂っている。

「俺がやる」

響は医療用具を取り出し、自ら彩花の手当てを始めた。包帯を外すと、傷口は膿んで腫れ上がっていた。

「痛いか?」

響の声は優しかった。以前のような、彩花を大切にしていた頃の響の声だった。

彩花は小さく頷いた。響の手つきは丁寧で、傷口を清拭しながら新しい包帯を巻いていく。

「彩花」

響が話しかけた。いつものように甘えてこない彩花の態度に苛立ちながらも、歩み寄りを期待していた。

「もう少し素直になれよ。俺だって、お前のことを……」

「響」

彩花が静かに響を遮った。その声には、諦念が込められていた。

「これまで迷惑かけて、ごめんなさい」

響の手が止まった。

「婚約が邪魔なら、おじいちゃんに話して取り消してもらう」

彩花は響を直視せず、窓の外を見つめながら静かに告げた。これ以上響に迷惑をかけたくない。その思いから、関係の解消を申し出たのだ。

響の顔が一変した。

「何だって?」

「私、もう疲れた。響の重荷になるくらいなら——」

「いい加減にしろ!」

響が怒鳴った。彩花の言葉を、自分への駆け引きだと一方的に解釈したのだ。プライドを傷つけられた怒りが、胸の奥で燃え上がる。

「お前のそういうとこ、ほんとに面倒なんだよ!」

響は薬瓶を床に放り投げた。ガラスが砕ける音が病室に響く。

「俺の気を引こうとして、そんな芝居打ってるのか!」

響はドアを叩きつけて出て行った。彩花は一人、砕けた薬瓶を見つめていた。

翌日、響の祖父が病室を訪れた。

「彩花」

その声を聞いた瞬間、彩花の目に涙が浮かんだ。祖父は彩花にとって、実の家族以上に大切な存在だった。遭難中も、彼のことを考えていたほどに。

「おじいちゃん……」

彩花は安堵と愛情に包まれた。心配をかけまいと気丈に振る舞おうとしたが、祖父は彼女の足の酷い傷を一目見て激怒した。

「ここの医者は役立たずか!」

祖父は杖を床に突き立てた。その音が病室に響く。

「うちの可愛い孫嫁にこんな仕打ちをして!」

若い頃に商界で鳴らした祖父の威厳ある一喝が、廊下にまで響いた。その場にいた医師・朽葉が震え上がる。

「あ、あの……雪咲が治療に協力的でなくて……」

朽葉が嘘の弁明をしようとした瞬間、祖父の杖が彼の肩を打った。

「黙れ!」

騒ぎを聞きつけた咎音が駆けつけてきた。

「また彩花が何か言って、おじいちゃんを怒らせたんですか?」

咎音は嘘をつき、彩花に責任を転嫁しようとした。しかし——

パシン!

祖父の平手打ちが咎音の頬を打った。

「お前とお前の兄のこと、見抜けないとでも思ったか?」

祖父の声は低く、怒りに震えていた。咎音たちの企みを全て見抜いていることを宣言したのだ。

「おじいちゃん!」

響が駆けつけてきた。咎音は泣きながら響に抱きついた。

「響兄……おじいちゃんが急に……」

完璧な被害者の演技だった。響は咎音を抱きしめ、祖父を睨みつけた。

「何をしてるんですか!咎音に何の罪があるって言うんです!」

祖父と響の視線がぶつかり合う。

響は咎音をより強く抱きしめた。

「あいつがお前と比べものになるか?俺が守ってやる。誰にも手は出させない」

その宣言が、病室の空気を凍りつかせた。

彩花との関係を完全に断ち切り、咎音の側に立つことを明確にした瞬間だった。

祖父と孫の直接対決が、今始まろうとしていた。


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