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章節 11: 第11話:エルフの村(2)

「まったく、族長も人が悪い」

 俺と魔物狩りをすることになったシジリィはすぐに準備を整えてきた。革製らしい青色の胸当てに、優美な見た目の弓。それと、ロープや袋の収まった小さな鞄を背中に背負っている。

 対して俺の方は背中にリュック。こちらは倒した魔物や使えそうなものがあったら使う予定だ。

 エルフ達に見送られ、俺達は村の外の森に入った。木々の密度が高く、鬱蒼とする中を歩く。とりあえず、日暮れまでやってみて、と族長は気軽に言っていた。

「それで、あんたはちゃんと魔物を狩れるの? 森の中にいる生き物を見つけるのは大変なのよ?」

 怒りつつも、話せない俺にわざわざ確認してくれる。案外、いい奴なのかもしれない。

 今回は狩りか、飛び道具。機関銃だとやりすぎるから、ライフルがいいな。

『右手をライフル型に変形します。万能魔導、行使』

 すぐさまインフォが右手を作り変えてくれた。銃身の細長いライフルだ。大きなスコープまでついている。

「モノアイで拡大できるのに、スコープっているのか?」

『こちらの方が倍率が高いです。有用かと』

 なら良し。突然腕の形が変わったのを見て驚いているシジリィに右手を見せて示す。

「そ、そう。それがお前の弓なのね? まあ、期待しないでおくわ」

 銃の存在を知らないなりに、上手く解釈してくれたようだ。

「話せないけど意志の疎通は出来るのね。じゃ、説明するわ。今、森で暴れているのはルビーウルフ。知っている?」

『ルビーのような赤い瞳をした狼です。毛皮も赤く、先端にいくほど色が薄くなります。魔物としては中型。三頭から五頭程度の群れで行動。魔法は使いませんが、身体能力が高いです。色の割には森の中では目立ちません』

 結構怖そうな魔物だな。俺はシジリィに頷いて見せる。

「知ってるようで何よりだわ。あいつら、目立つ見た目のくせに隠れるのが上手いの。探すのも大変だし、いざ狩るのも大変なのよ」

 ま、あたしなら一人でなんとかなるんだけど、と自信を覗かせる言葉を付け加えつつ教えてくれる。

 族長の言う通り、腕は確かなんだろうな。

「インフォ、周囲の反応でルビーウルフの位置はわかるか?」

『魔力反応を探知します』

 視界に丸いレーダー図が現れると同時、体から探知の魔力が発動したのがわかった。自分で魔法を使ったおかげか、何となく感覚が掴めてきている。

「なんだ、なにをしたの?」

 驚いて立ち止まったシジリィに説明を……できないな。とりあえず、周囲をキョロキョロしてみた。

「ふぅん。魔法で探すっていうのね」

 凄い、伝わった。もしかして、この子は察しが良いのかもしれない。

『北東に八百メートル地点にそれらしい反応があります。数は四』

 どれどれ、とそちらを見ると自然と視界が拡大されていく。木々が邪魔だなと思ったら、視界がサーモグラフィーみたいに切り替わった。

『魔力解析モードの視界です。この場合有用かと』

「さすがはインフォだな。よく見える」

 生き物の体温ではなく、魔力を見るモードだ。おかげで、拡大した視覚にルビーウルフの影がよく見える。犬より大きく、攻撃的なシルエットだ。口元が尖ってるのは牙かな?

「狙撃可能か?」

『勿論です』

 右手を構え、照準。一番大きいやつの頭部を狙う。

 発射。光の弾丸が真っ直ぐ飛ぶ。

「うわっ! 今のが矢なの?」

 驚くシジリィを尻目に、戦果を確認。影が一個倒れた。残りの三匹が慌てている。

 いいぞ、逃げるなよ。そのまま連射を続ける。

 さすがに動き出すとヘッドショットは難しい。その後、五発ほど撃って、全て動かなくなったのを確認。

 右手を下げて、シジリィを一度見てから、現場に向かって歩き出す。

「終わったの? 一緒に来いってこと?」

 彼女は大人しくついてきた。生真面目なタイプなのかもしれない。あの場で怒ったのも、性格からってことだろうか。

 二十分ほど歩くと、藪に隠れた場所で、四匹のルビーウルフの死体を見つけた。

 全て、体に穴を開けて絶命している。

「……信じられない。お前は森の中でエルフよりも優れた目を持っているの?」

 死体を確認しながら、シジリィが言ってきた。軽く頷いておく。しかし、名前通り、宝石見たいな目をしてるな、ルビーウルフ。

「こいつは毛皮や牙、それとこの目が交易に使える。解体はできる? それが終わったら埋めておきたい」

 どうやら、肉は美味しくないらしい。土の上に放置すれば他の獣が寄ってくるか。埋めるならとすぐそばに土魔法で穴を用意。

「…………」

 狼四頭が入るくらいの穴を即座にあけたら、またシジリィが驚いていた。

「古代魔法の遺物か。大したものだわ。それじゃ、次を探すわよ。ルビーウルフはまだいるし、他の魔物も……」

『魔物の群れを検知。注意してください。シジリィが危険』

 インフォの警告、俺が彼女を突き飛ばしたのは同時だった。

 直前までシジリィが居た場所を、巨大な赤い影が通過。

「つぅ……。……群れのボス!?」

『周辺にルビーウルフを感知。数は十六。恐らく、ボスと群れと思われます」

 森で狩人をしているシジリィはすぐに状況を理解。弓ではなく、腰の短剣を引き抜く。

「両手を接近戦に適した形にしてくれ」

『了解。システム、戦闘モードに移行します』

 両手が銃身が短い銃に変わった。ごつめのハンドガンが生えている感じだ。

 戦闘モードの視界に変わったが、今回は違和感がない。早くも慣れたらしい。

「シジリィを守りながら戦うぞ」

『了解。危険な場合、視界に警告を出します』

 ルビーウルフは俺達を仕留めるため、たえずグルグル周りながら襲いかかってくる。知能が高く、連携に慣れた動きだ。

「グオォッ!」

 ボスの短い咆哮と共に、攻撃が始まった。次々と、飛びかかってくる。殆どがシジリィを狙っている。倒しやすい方からってことか、そうはさせない。

 両手のハンドガンを連射。インフォの補正が効いた射撃は正確で、次々に魔物の体を撃ち抜いていく。

 悲鳴も上げず、ルビーウルフが次々に倒れていく。

「このぉ!」

 シジリィの動きは、素人の俺から見てもわかるくらい見事なものだった。魔物の攻撃をかいくぐり、しっかり短剣を通す。多勢相手にできる限りの動きはしている。

「グオオオ!」

 咆哮と共に、ボスが俺めがけて突っ込んで来る。熊くらいの大きさがあるな。ハンドガンで倒せるのか?

『万能魔法行使。武器を最適な性能に変更』

 インフォが答えてくれた。両手がハンドガンからサブマシンガンになった。

 これならいける。

 即座にフルオートで連射。光り輝く無数の銃弾が、ルビーウルフのボスへと殺到する。

「…………ッ」

 断末魔すらない。全身を撃ち抜かれたボスは、接触すること無く、地面に倒れた。

 ボスの死に群れの残りの空気が変わった。恐慌状態だ。ようやく、自分たちが喧嘩を売った相手の力を理解したらしい。

 無言で逃げの一手に作戦を切り替えるルビーウルフ達。勿論、俺はそれを逃さない。魔物は人間の敵だ。

 サブマシンガンを小刻みに連射し、容赦なく殲滅する。

『システム、通常モードに移行します』

 戦いは五分もかからず終わった。

「……あれを一瞬で……助かった?」

 呆然と、短剣を構えたまま呟くシジリィ。見れば、足や手が切られて血が出ている。無傷で守り切るとはいかなかった。手数が足りないな。

 反省しながら、シジリィに手をかざし、回復魔法を行使する。

「あ、ありがとう。回復魔法もできるのね……」

 よく見たらスカートの辺りが切り裂かれて、下半身が丸見えになりかかってる。これはまずいな。リュックから大きめの袋を取り出して、それを腰回りにつけるようにジェスチャーする。

「えっと、隠せってこと? 紳士? なのね。ありがと」

 感心しながら受け取ってくれた。不格好だけど、森の中で肌をむき出しにするよりいいだろう。俺も目のやり場に困るし。ロボだけど。

 これは魔物を解体してから一度戻った方がいいかな? そう考えて作業に入ろうとしたら、シジリィの声がかかった。

「あの、ありがとう。……ヴェル殿。貴方は命の恩人よ」

 なんか、雰囲気変わったな。


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