章節 8: 指紋、どうやら消し忘れたらしい
編輯: Inschain-JA
星奈はちらりと見て、この人物が三年生八組の体育委員、清水大樹（しみず ひろき）だと分かった。優子に三年間片思いしているやつ。
「ちっ……」
清水大樹が言い終えると、優子はすぐに素直にうつむき、担任の村上茜（むらうえ あかね）に言った。「村上先生、同級生に宿題を写させてはいけないのは分かってます。でも、星奈は私の一番の親友で、叱られるのがかわいそうで、つい……」
三年生八組の担任、村上茜はすぐに柔らかい口調で応える。「これは優子ちゃんだけのせいじゃないわ。本人がちゃんと勉強せず、無理に写そうとしたんだから。先生は、あなたが辛い思いをしているのも知ってるのよ」
へえ……今まで気づかなかったけど、渡辺優子、三年生にしてもうこんなにしっかりしてるのか。厚かましさも心理的な度胸も、比べ物にならないな……！
村上茜は優子を慰め終わると、警察に向き直って言った。「警察の方、私は渡辺優子の担任です。優等生で、性格も素直で優しい子です。社会の不良と関わったりするはずはありません。京極星奈さんの方を連れて、事情を聞いた方がいいと思います」
星奈はこれを聞いて、歯がむずむずするほど腹が立った。弁解しようとしたその時、京極千秋が突然立ち上がった。
「あなた方の学校は本当にひどいわ。うちの星奈は毎日決まった時間に帰宅しているし、宿題も私が見守ってやらせています。他人のを写したことは一度もありません。村上先生、星奈の宿題と渡辺優子さんのは同じですか？」
「い、いや……違います……」
同じはずがない。京極星奈の宿題は、採点するたびに腹が立つくらいだ。
一問一問、正解を避ける天才……いや、間違いなく全問不正解だ。
ふふ……星奈は心の中で暗笑した。以前、優子に教わったおかげで、宿題を写すときはそのままではなく、少し変化をつけなければバレることを学んだのだ。
優子の宿題は基本的に全問正解だから、少し変えれば……完璧だ。
「それに、さっきから学校裏の路地や不良の話をしているのはずっと渡辺優子だけです。うちの星奈は何も知りませんでした。皆、さっき渡辺優子が言ったこと、忘れたのですか？」
「えっと……」村上茜は口を開いたが、言葉に詰まった。
「そうだよ！さっき私、渡辺優子が学校裏の路地に不良が二人いたって言ってたの、聞いたんだから……」
「しっ、黙って……」
「でも私も聞いた。警察が来たとき、あの人たちが誰かは言わなかったのに、渡辺優子が言ったんだ……」
「そうだね、彼女が行ってなければ、どうして知っているの？」
周囲の生徒の議論を聞き、優子の普段の落ち着いた表情は凍りついた。
おばさん（京極千秋）……本当に頼もしい！
星奈は目に涙が滲んだ。これが自分の叔母だ。誰が何を言おうと、自分を信じ、守ってくれる。前世の自分は本当に頭が悪くて、叔母を悲しませるようなことばかりしていたのだ。
千秋は二言三言で優子たちを凍りつかせ、形勢は一気に逆転した。さらに警察に向かって言う。
「警察の方、その練習帳が事件現場にあったのですね。検証は済んでいると思いますが、確認ですが、その上に私の姪、京極星奈の指紋は付いていますか？」
……はっ
星奈の心臓が一瞬止まる。昨日の大変な騒動で頭が混乱していて、優子を陥れることばかり考えていた。あの練習帳の指紋……消すのを忘れてた……
息が急に荒くなる。
その一方で、優子は千秋の言葉に目を輝かせ、まるで命綱を掴んだかのように言った。「そうです！練習帳の指紋を調べれば、私が京極星奈に貸したことが証明できます！」
その確信ぶりを見た多くの人が、星奈を見る目を少し変えた。
星奈の心も喉まで上がってきた。やっぱり失敗した……
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