どうやら本当に喉が渇いてきたようだ。葉山翔平は自分の手に持ったままのブドウ二粒を見て、適当に服に擦ってから口に放り込んだ。
すぐに酸味と甘みが混じったブドウの果汁が口いっぱいに広がった。
「うわ……めっちゃ甘い……」
そう言いながら、翔平はブドウを食べつつキッチンへと歩いて行った。
キッチンでは、白い膝丈のワンピースを着た小野美咲が、「小さなリンゴ」という歌を口ずさみながらブドウを洗っていた。
背後から聞こえてくる翔平の足音に、美咲は笑顔で振り返り言った。「急がないで、まだ洗い終わってないから。先にリビングで座っていて、すぐ終わるから!」
美咲はそう言いながら、手の動きを自然と少し早めた。
近づいてきた翔平は、手伝おうとする気配もなく、むしろドア枠に斜めに寄りかかり、目を輝かせて後ろから美咲の姿を眺めていた。
美咲の魅力的な姿を見つめながら、翔平は心の中で思わず賞賛した。
美咲さんのあの雪のように白い脚なら、教師をやめてレッグモデルになったとしても十分やっていけるだろうな!
そう考えると、目の前の美咲を見つめる翔平の心はますます感慨深くなった。
だが、先ほど見た夢のことを思い出し、美咲をじっと見つめる翔平の眼差しは決意に満ちたものに変わった。
「くそっ、ダメだ。絶対に美咲さんが将来他の男と結婚するなんて許さない。結婚するなら俺としなきゃ!」
心にそんな固い決意を抱いたとたん、翔平の表情が変わった。
しばらくして、彼はニヤニヤしながら遠回しに尋ねた。「美咲さん、今って大学生の恋愛多いんでしょ。結婚して子供まで産んじゃう人もいるって聞くけど」
「美咲さんみたいな美人なら、大学で恋愛してるんじゃないの?どうして彼氏を家に連れてこないの?」
ブドウを洗っていた美咲は、背後の翔平の言葉を聞いて思わず吹き出し、軽く笑いながら言った。「会いたいの?いいわよ、今度連れてきてあげる!」
「うわっ……マジかよ!」
元々翔平はただ試しに聞いてみただけだった。まさか美咲が本当に大学で彼氏ができているとは思わなかった。
一瞬にして、翔平はなんだか心が砕けるような感覚に陥った。
くそっ、「姉守り作戦」はまだ始まってもいないのに、もう終わってしまったのか。
そこで翔平は酸っぱそうな顔で言った。「やっぱりいいや。会ったら自分を抑えられなくて、殴っちゃいそうだから」
翔平の言葉が終わらないうちに、美咲は思わず吹き出して笑い始めた。
そして美咲は洗い終えたブドウの盆を持って近づくと、細い指で翔平の額を軽く突き、顔には少し意地悪な笑みを浮かべた。
「嘘よ!このバカ!」
そう言って、美咲はまたくすくすと笑いながら続けた。「大学はあなたが思っているほど暇じゃないのよ。恋愛している時間なんてないわ!」
「それに大学の恋愛なんて、結局は空回りするだけ。時間の無駄だし、青春の無駄よ。恋愛する時間があったら、図書館でもっと本を読んだ方がいいわ!」
「ほら、翔平、リビングに行って扇風機の風に当たりながらブドウを食べましょ!」
美咲はそう言いながら、躊躇わずに翔平の手を取り、リビングのソファに向かって引っ張っていった。
その時になってようやく、翔平はハッとして我に返った。
美咲が大学でまだ彼氏を作っていないと聞いて、翔平の心は言いようのない興奮と喜びでいっぱいになった。
「本当に?美咲さん、本当に大学でまだ恋愛してないの?」
「バカね、姉さんがあなたに嘘をつく理由ある?」
翔平の興奮した表情を見て、美咲は唇を尖らせ、手を伸ばして翔平の耳をつまみ、わざと不満そうに怒ったふりをして言った。「ふん、この小悪魔、心の中で姉さんのことを誰も相手にしてくれないって笑ってるでしょ!」
興奮気味だった翔平は、美咲が突然自分の耳をつまんでくるとは思いもよらなかった。
美咲はそれほど力を入れていなかったが、翔平はわざと痛がるふりをして大げさに叫び始めた。
「美咲さん、離して!」
「痛い、めちゃくちゃ痛いよ!」
「さっき本当に心の中で笑ってなんかいなかったよ!」
「うん、それならいいわ」
翔平が謝って降参するのを見て、美咲はようやく満足げに手を放し、果物盆を置いて、どっかりとソファに腰を下ろした。
翔平が座ると、美咲は突然口を開いた。「翔平、もし姉さんがこれから先ずっと嫁げなかったらどうしよう?」
翔平はこの言葉を聞いて、心の中で密かに喜んだ。「もしかして美咲さん、俺の気持ちを試しているのか?」
そこで翔平はわざと困ったふりをして不本意そうに言った。「もしそうなったら、仕方ないから、ちょっと損だけど、無理して引き取ってあげるよ」
「そう?無理してだなんて?姉さんはそんなにダメな女なの?」
翔平のツンとした態度を見て、美咲の顔に悪戯っぽい笑みが浮かび、ゆっくりと手を伸ばした。
対面にいた翔平はそれを見て、すぐに表情を変え、慌てて言った。「そんなはずないじゃん!美咲さんみたいな美人が嫁げないなんてあるわけない。世界中の男が目が見えなくならない限りは!」
そして翔平は真剣な顔で胸を叩きながら保証するように言った。「たとえ美咲さんが本当に嫁げなくても、心配しなくていいよ。俺がいるじゃん?」
「美咲さんが俺と結婚すれば、家と家の間の壁を壊して一つの家にしちゃえばいい。そうすれば、俺たち二つの家族はずっと一緒だよ!」
もともと不満げに思っていた美咲は、翔平の真剣な様子を見て、思わず吹き出して笑った。
「いいわよ。その言葉、覚えておくからね。もし姉さんが本当に嫁げなかったら、本気であなたに頼るわよ!」
そして美咲は壁の扇風機のスイッチを指さしながら、翔平に言った。「翔平、早く扇風機つけて、姉さん暑くて死にそう!」
美咲はそう言いながら、自分の胸元を猛烈に扇ぎ、少しでも涼しくなろうとした。
もう片方の手でブドウを一粒取り、口に入れた。
「うん……すごく甘い!」
「叔母さんが今日買ったブドウ、本当においしいわ!」
「翔平、早く食べてみて、すっごく美味しいよ!」
翔平は扇風機をつけると、美咲の言葉を聞き、可愛らしい彼女の様子を見て、顔に悪戯っぽい笑みを浮かべた。
心の中でいろいろと考えながらも、翔平は美咲の横に座った。