美佳にこんなにも直接的に嘲られ、男の顔は一瞬歪んだ。
だが、その歪みはすぐに、老獪で軽蔑に満ちた笑みに置き換わった。
「美佳、そんな言い方はよくないよ。野風テクノロジーはお父さんの心血だからこそ、それがお前の手で潰れるのを見たくないんだ」
彼の視線は美佳の美しい顔に落ち、どこか淫らで貪欲な光を帯びていた。
「お前のことを実の娘のように思っている。家の恥という汚名を背負わせられるはずがない。こんな大きな責任は、叔父さんである俺が代わりに負うべきだ」
美佳はこの手の厚かましい人物を数多く見てきた。この中川栄一は最初の人間でもなければ、最後の人間でもないだろう。
話を聞き終えても、彼女は怒らなかった。野風テクノロジーの第二の大株主として、栄一が自分に取って代わろうとする野心を抱いているのは不思議なことではない。
ただ、父が失踪してまだ日も浅いのに、彼が早々に自分を追い落そうとするなんて、あまりにも見苦しい振る舞いだった。
美佳は分かっていた。今は社長の席に座っているとはいえ、まだ24歳の彼女に野風の株主たちが従うはずがないと。
父が健在のころから、栄一は陰で小細工をして父に取って代わろうとしていた。今、父が行方不明になったのだから、彼がすぐにでも地位を奪いたいと思うのは当然だった。
株主たちはもちろん、彼女のような若い娘よりも栄一を信じるだろう。
前の人生でも同じようなことがあったが、あの時は何もする必要がなかった。ただ哲也に不満を訴えれば、彼が全てを解決してくれた。
栄一は最後には何も言い返せなかった。
だが今世は、哲也と距離を置くことを決めている。当然彼に助けを求めることもできない。
美佳は会議室にいる株主たちの顔をゆっくりと見渡し、軽く笑いながら言った。
「皆さんもそう思っているのですか?」
他の取締役たちは栄一ほど厚かましくはなかったが、自分たちの金をリスクにさらすつもりもなかった。
若い娘に大企業の経営を任せるなど、美佳の実力を信頼できるはずがないのだ。
彼らは美佳の質問に答えず、目を栄一に向け、彼が口を開くのを待った。
栄一は野風テクノロジーの第二の大株主だったが、名声も人脈も社内での地位も、隆一には全く及ばなかった。
今や隆一は行方不明で、生死も分からない。
彼は社長の座に座りたくてうずうずしている。若い娘の面子など気にするはずもなかった。
そしてすぐに美佳に向かって言った。
「美佳、情け容赦ないと思わないでくれ。これはみんな苦労して稼いだ金だ。面子のために金を無駄にするわけにはいかないだろう?」
栄一はにこにこと美佳を見つめ、口角が上がると、金の装飾が施された歯がきらりと光った。
「私たちは、ただもっと有能な人間に野風を率いてほしいだけだ。お父さんが持つ株も、お前が得る利益も、何一つ減らすつもりはない……」
「大人しく従えば……」
栄一が得意げに懐柔と脅しを交えた言葉を続けていると、テーブルの上の携帯が突然鳴り出した。
彼が電話に出ると、向こうから男の低い声が聞こえてきた。
何を言われたのかはわからないが、栄一の表情は急に沈み、肥えた顔は怒りに震えていた。