章節 3: 顔色が青ざめる
編輯: Pactera-novel
「助けて！」
水にむせたような聞き覚えのある叫び声が聞こえた。それは帰国して数日しか経っていない清水家の令嬢、清水詩織の声だとすぐにわかった。
橋本彰人夫妻が急いで庭園に駆けつけると、安奈と詩織が庭園の観賞用魚の池に落ちているのが見えた。二人とも泳げず、もがいていた。使用人たちが慌てて助けを呼んだ。
「誰か早く来てください！若奥様と清水さんが水に落ちました！」
彰人夫妻の顔は曇り、嫌悪に満ちた目でそのおしゃべりな使用人を見た。
ドボンという音とともに、既に一人の男性が水に飛び込んで救助に向かった。周りの人々が反応する間もなく、橋本和也がどこからともなく現れ、同じく水に飛び込んだ。もがいて水を飲んでいる詩織を先に岸に引き上げ、後ろにいる安奈には一瞥もせず、抱きかかえた女性を連れて立ち去った。
詩織がお爺さまの誕生祝いで溺れて意識を失ったため、これは面子に関わる問題だった。命に関わるところだったので、誕生祝いもあわただしく終わることになった。
安奈はすぐに引き上げられ、大きな問題はなかった。びしょ濡れの体を引きずって部屋に戻る途中、通りかかった使用人たちは彼女を見て見ぬふりをし、疫病神のように扱った。この世界で彼女の生死を気にかける人は誰もいないと安奈は心の中でわかっていた。
夜。
安奈の全身が熱で灼けるように熱くなった。ぼんやりとした意識の中で、誰かに引きずり起こされた。和也だった。
冷たい眼差しの男を見つめ、何を聞きたいのかわかっていたが、言葉にできなかった。ただ必死に首を振り、耳障りな声を出しながら手で合図を送った。
「私じゃない、私は彼女を突き落としてない、本当に違うの」と言いたかったが、声にならなかった。
「詩織はまだ目を覚まさない！」
和也は無表情にそう言い捨て、彼女を直接祠堂へと引きずっていった。祠堂の中は明るく照らされ、病から回復したばかりの橋本お爺さまは杖を手に一方に座り、怒りに満ちていた。この疫病神のような女のせいで詩織がまだ目覚めず、橋本家がまたもや恥をかいたのだ！
安奈は詩織のことをよく知っていた。彼女は三年前に和也のプロポーズを断った女性だった。
今、和也は自分を八つ裂きにしたいのだろう。彼の好きな女性が帰国したばかりで水に落ち、自分は無事なのに、あの清水さんはまだ目覚めていないのだから。
「跪け！」
お爺さまの杖が安奈の膝に直撃し、針で刺されるような鋭い痛みが走った。彼女はひざまずかず、依然としてまっすぐに立っていた。
彼女のその姿を見て、顔を青くしながら怒り、隣に立っている和也に視線を向けた。「これがお前が連れてきた女か！」
「役立たずなだけでなく、何度も何度も橋本家の恥をかかせる！」
安奈は依然としてまっすぐに立ち、ひざまずかなかった。
彼女が和也に視線を向けると、彼は彼女の方へ歩いてきた。しかし差し出された手は彼女の肩をまっすぐに押さえつけた。「跪け」
和也の手の力は軽くなく、発熱中の安奈はひざまずいてしまった。自分を弁護しようとした手も下に垂れた。
そうだ、自分は橋本家で飼われた犬に過ぎない、彼が自分を気にかけるはずがない。
安奈は隣に立つ和也を見上げた。彼の瞳は鋭く、固く閉じた唇からはもう二度と言葉を発しなかった。
次に耳元に聞こえてきたのは、お爺さまの雷のような怒声だった。「山崎安奈、なぜ清水さんを水に突き落としたんだ！」
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