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12.67% Mに捧げる異世界鎮魂歌 / Chapter 9: 第九話 フルプレートアーマー?

章節 9: 第九話 フルプレートアーマー?

「丈二か……」

 

 コランダは崇徳童子の機嫌を損ねるのではないかと恐れていたが予想に反しその表情は晴れやかである。

 

「何をするにも金は必要だ! お前達に苦労かけたな」

 

「おぉ! それでは!」

 

「金は俺が稼ごう」

 

 崇徳童子がこのアジトに来て以来初めての朗報。コランダの表情には自然と笑みがこぼれる。

 

しかし――

 

(稼ぐ? この崇徳童子さんが?)

 

 コランダの表情はすぐに曇ることになる。この世界に産まれて数十日の崇徳童子がどのように金を稼ぐのだろうか? コランダ達と出会い、ハリエットと会話をし、ここ数日は不機嫌そうに本を読んでいただけである。

 

「ち、ちなみにどのように?」

 

「お前達は冒険者として生計を立てているのだろ? 俺もこの世界の冒険者とやらに興味がわいたところだ。それに試したいこともある」

 

 コランダの視線が崇徳童子の足下に向けられる。その先には【冒険者への道】と書かれたハウツー本が投げ捨てられていた。

 

「崇徳童子さんの実力なら問題なくやっていけるでしょう。しかし、二つ問題があります。まずはその姿です。土地の者でないのが一目で分かります。繭から出てきて日も浅いですし、目立ちたくはありません。もう一点は冒険者の取り決めです。細かい取り決めはありませんが崇徳童子さんには我々の言うことを聞いて貰わなくてはなりません……大丈夫ですか?」

 

「ハハハッ! そんなつまらないこと気にしてたのか! 郷に入れば郷にしたがえという言葉を知らないのか? 先人に物事を習う時に相手を敬うのは当然ことじゃないか!」

 

 〜〜〜

 

 街に向かい森を進む。枯れ葉を踏みしめながら歩くのは三人。金を稼ぐ提案をしたコランダ、今までフードを被り極力崇徳童子を避けていた三太、異質なフルプレートアーマーに身を包んだ崇徳童子だ。

 

 繭を変化させ作り上げたフルプレートアーマーは見栄えもよく、機能的であり、何よりも顔を覆うことによって姿も隠せている。しかし、そんな完璧とも言えるフルプレートアーマーに二人は何か思うところがあるようである。

 

(流石は崇徳童子さん、フルプレートアーマーに付く小さい傷まで再現するとは! 流れの冒険者が俺達のパーティに合流したと考えるだろう。しかし、このフォルムはどうにかならなかったのだろうか……)

 

 三太に視線を送ると三太も全く同じことを思っていたようである。顔色の悪い表情で崇徳童子のフルプレートアーマーとコランダを交互に見ている。

 

 二人の視線の先にある崇徳童子を兜から爪先まで視線を落としてゆく。

 

 崇徳童子のフルプレートは見たこともない全身鎧なのだ。盾を幾重に重ねたような全身鎧に顔を型どったような不気味なフェイスマスク。恐らく崇徳童子お手製の繭でできているのだろう。金属の板にも分厚い板に装飾がされているようにも見えなくはない。絶対に正体を隠さなくてならないため、顔に影がかかり表情を隠せるのはいいが何しろ目立つ。

 

 二人が視線を合わせる。

 

(この禍々しさ……これは目立つ)

 

 崇徳童子が身に着けたフルプレートアーマー――正確には当世具足というらしい。崇徳童子がきたという世界の【鬼次郎】が身に着けていた物を模しているのだろう。詳しく聞き出したいが地雷がどこにあるか分からないため尋ねられない。

 

(そもそもフルプレートアーマーは高価なものだ。流れの冒険者にしては珍しい。んっ? 繭だからフルプレートアーマーではないか……いや、作っている姿は見なかった。どこかで調達してきたものか未知の物でできていると考えるべきか)

 

「崇徳童子さん、冒険者登録の名前は考えていただけましたか?」

 

「うーん。なかなか思いつかないんだ。尊敬する鬼次郎さんから名前を借りようかと考えたがそれは恐れ多い」

 

「それでは鬼次郎さんの【鬼】を貰い名前を考えるのはいかがですか?」

 

「鬼か。オニ、おに、鬼神、鬼畜、デーモン……オーガ」

 

 崇徳童子の歩みが止まる。

 

「オーガルトだな。響きも悪くない。俺の名前はオーガルトにしよう」

 

「オーガルトですか……うっうん、悪くないですね」

 

 どこかほっとしたような表情を浮かべるコランダ、三太も同様の表情を浮かべ二人で頷き合っている。

 

「んっ? どうした二人とも? 何かあるのか?」

 

「「いえ! 何でもありません」」

 

 二人とも同じ思いなのか思わず声がはもってしまう。崇徳童子は少し気になる素振りを見せたが、自身の名前が決まったことに笑みを浮かべ軽快に歩みを進めた。

 

(聞いたこともない名前だがあの鎧に比べれば……)

 

 不気味な鎧武者の後方からは尽きることのない二つのため息が漏れるのだった。


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