この時、伊織がそばに来て、冷たく見下した目でチラッと見て言った。「奈々、身の程をわきまえなさい!天翔グループは、お前のような下賤の者が軽々しく入れる場所ではないわ!」
嫌味を言い終わると、急いで走って行って、「正臣くん、会議終わった?お昼一緒に食べよ!代々木に新しいレストランができたんだって……」
奈々は前方を見つめた。みんなに囲まれた正臣の姿は、まるで月を囲む星みたいで、すぐに角を曲がって見えなくなってしまった。
そして伊織は彼の後を追いかけて、まるで絵に描いたようなお似合いのカップルだった。
奈々が追いかけようとしたけど、無表情な二人のボディガードにガッチリ阻まれて、「佐々木さん、ご協力ください」と言われた。
この瞬間、奈々は拳をギュッと握って、ようやく自分と相手の差をガツンと実感した。
同時に、心に非常に強い不安がグワッと湧いてきた。
だって、ついに一つの事実に気づいてしまった。もし正臣が絶対に会うまいと決めたら、奈々は彼に近づくことすらできないのだ!
どうしよう?
これからどうしたらいいの?
途方に暮れてそこに立ってたら、ちょうど秘書さんが会議室からコーヒーカップ持って出てきた。正臣のカップには、ミルクがまだたっぷり残っていた。
奈々はハッとして、心にポッカリ寂しさが広がった。
何年も正臣は婚約解消を言わなかったのに、彼女が戻ってきた途端、態度が曖昧になった。
彼は絶対結婚したくない。
でも、彼女は彼と結婚せねばならない!
5年前、彼をものにできたのだから、5年後の今だって、絶対にできるはずだ!
そう思ったら、奈々は一気に闘志が再燃して復活!
奈々、ガンバレ!!
……
天翔グループの最上階、社長室は三方が全面ガラス張りで、光がふんだんに差し込み、非常に豪華な内装であった 。室内の調度品は、一つ一つが莫大な価値を持つものばかりだった。
正臣は社長の椅子にドンと座って、無表情で書類に目を通してる。
部屋の空気、非常に重苦しい。
特別秘書が横に立って、息を殺している。
伊織は正臣の顔色をチラチラ見て、いつもは冷たくプライド高い顔が、今はビクビクしながら、探るように聞いた。「正臣さん、さっき奈々が言ってたこと、本当?」
その言葉に、正臣が顔を上げて、細い目にギラッと危ない光が浮かんだ!
伊織はすぐ口を閉じて、ちょっとしたらまた口を開いた。「正臣くん、まだ言ってなかったけど、代々木のフレンチレストラン、行く?行かない?」
その言葉に、ちょっと間があって、「どの部屋?」
伊織はすぐテンション上がって、「VIP999の個室よ!じゃ、正臣くん、待ってるね!」
伊織がウキウキで出てくのを見て、特別秘書が言った。「社長、本日昼の伊藤社長とのお約束ですが、夕方か明日 に変更されてはいかがでしょうか?」
「結構です。」
特別秘書がビックリして、「失礼ですが、さきほど承諾なさっていたと存じましたが……」
ここまで言って、特別秘書がハッと気づいた。大塚さんはただどの部屋か聞いただけで、行くなんて言ってなかった!
つまり……大塚さんはわざと伊織を待たせる気?
きっと、佐伯さんまた泣く羽目になるよ!
特別秘書はすぐ目を伏せて、心の中でため息。誰を怒らせても、社長はマジで怒らせちゃダメ、彼は実に執念深いんだから!
……
奈々は天翔グループのビルから追い出された。
二人のガードがドアの左右にガッチリ立って、入らせない。
奈々は遠くに立って、入り口をジッと見つめながら、心の中でため息。なんか、事態をもっと大きく悪くしちゃったみたい?
今日までは、少なくとも彼に会えたのに、今は……