山崎明美は力が抜けて、その場にへたりと座り込んだ。
小林健斗の笑みがぱったり消え、立ち上がると言った。
「白石執事、お客様をお見送りして!」
……
白石執事が説得した結果、山崎明美はついに帰っていった。
秘書の山口拓也は小林健斗の背後半メートルの位置に立ち、尋ねた。
「小林社長、宮本グループの資金繰りはすでに破綻していますが、まだ救いますか?」
「山崎明美にチャンスを与えたが、彼女自身がそれを拒んだのだ」
「では、我々は……」
小林健斗は一片の感情も込めずに言った。
「宮本グループを空売りしろ」
「承知いたしました」
山口拓也が立ち去ろうとしたが、突然何かを思い出したように引き返してきた。
「小林社長、先ほど病院から電話がありまして、葉山さんの妊娠が確認されました……」
小林健斗はそれを聞くと、かすかにため息をついた。
……
西村家。
葉山楓は魂の抜けた状態で扉を押し開けた。思いがけず、西村樹が家にいた。
リビングには西村樹の叔母である西村千尋(ニシムラ・チヒロ)もいた。
葉山楓を見るなり、西村千尋は鼻で笑った。
葉山楓の出自を快く思わない西村千尋は、生まれながらのお嬢様として、ずっと彼女を疎ましく思っていた。
以前は、この家で居場所を確保するため、葉山楓はわざわざこの叔母に取り入ろうとしていたが、今となっては……
彼女は西村樹の前に来て、無表情に言った。
「話があるの」
西村樹は煩わしそうにしつつも、立ち上がって葉山楓の後に続いて階段を上った。
葉山楓が階段を上がりきらぬうちに、背後で西村千尋の声が聞こえた。
「ふん、帰ってきたとたんに不機嫌な顔を見せるなんて。知らない人は、西村家がこの葉山という女に牛耳られていると思うでしょうね。お父さんは一体何を考えていたのかしら。あれだけの名家のお嬢様たちがいるのに、占い師のいい加減な話を信じて、樹にこんな女を……」
葉山楓の足取りが一瞬止まったがそのまま階上へ向かった。
部屋に戻ると、間もなく西村樹も入ってきた。
西村樹はまだ何が起きたのか知らなかったが、顔を上げた瞬間、葉山楓の平手打ちが飛んできた。
パンッという乾いた音とともに、西村樹は呆然とした。
反応すると、西村樹は葉山楓の手首を掴み、彼女を乱暴に近くの壁に押しつけ、怒鳴った。
「お前、頭がおかしくなったのか?俺を殴るなんて」
以前なら、葉山楓はもちろんそんなことはしなかっただろう。むしろあらゆる手段を尽くし、西村樹の機嫌を取っていただろう。
長年、卑屈に耐えてきた末、この瞬間、彼女は諦めた。
「西村樹、どうして私をここまで侮辱するの?」
葉山楓の真っ赤になった目を見て、西村樹はやや後ろめたさを覚えた。
葉山楓の涙が頬を伝い落ち、彼女は声を詰まらせて言った。
「私のことが好きじゃなくていい。この結婚が不満でもいい。でもどうしてそこまでする必要があるの?誰でもよかったのに、どうして葉山純じゃなきゃいけなかったの。西村樹、私がどれだけ恨んでるか分かる?」
葉山楓は彼を押しのけ、もうこれ以上ここにいられなかった。
「あなたが人を指示して、そうさせたくせに!」と葉山楓は訴えた。
西村樹の後ろめたさは一瞬で消え、冷笑した。
「もう全部知ってたんだな……ならば隠すこともない。知ってるか、葉山楓。お前は本当に気持ち悪い。見るだけで吐き気がする」
葉山楓は誰かに喉を掴まれたような感覚に陥り、心が粉々に砕けた。
沈黙の後、葉山楓はついに言った。
「私たち……離婚しましょう」