Chapter 7: 006章 偽物、美女を送り届ける！
その時、個室に漂う雰囲気には、うっすらと火薬の匂いが立ち込めていた。
誰かが立ち上がり、場を和ませようとした。
「せっかく久しぶりに会ったんだ、さあ、一杯やろうぜ！」
「そうだそうだ！乾杯！」
そして、皆がそれぞれ立ち上がり、杯を上げ、酒を飲んだ。
一杯飲み干すと、個室の雰囲気はやや和らいだ。
同窓生たちは互いに雑談を始め、時折笑い声が起こった。
言うまでもなく、古賀松太郎は確かに優れた社交能力を持っていた。
すぐに、彼は個室の中心的存在となった。
松太郎は角に座り、終始黙り込んでいる林田徹をちらりと見て、目をくるりと回しながら言った。「徹、なんでずっと黙ってるんだ？」
松太郎の口調は、極めて軽快で落ち着いていた。
その様子は...まるで、徹が公の場で彼と鈴木叔母さんの醜聞を暴いたことなど、すっかり忘れたかのようだった。
少し間を置いて、彼は続けた。「そういえば、徹、高校卒業してすぐ就職したよな。かなり稼いでるんじゃない？どんな車買ったの？」
「徹の給料なんて数千円だろ。何の車買えるんだよ？自分の生活すら成り立たないんじゃないか」鈴木浩紀が嘲笑った。
高校時代、徹は背が高くてイケメンだったし、勉強もすごく出来て、まさにクラスの人気者だった。
そのため、クラスの多くの女子が彼に憧れを抱いていた。
それに対し、浩紀はとても嫉妬していた。
今、彼は徹がこんなに落ちぶれているのを見て、嘲笑した後、まるで貴族を足元に踏みにじる乞食のような快感を覚えた。
「えっ？給料数千円だって？！」松太郎はわざと驚いたような声を出した。
こうしたことに対し、徹は一切相手にしなかった。
幼稚だ！
彼から見れば、これらすべてはあまりにも幼稚すぎた！
しかし、彼が無視したからといって、他人が諦めるわけではなかった。
松太郎は驚いたように言った。「おや！徹、腕時計してるじゃん？見た目も悪くないな！ちょっと見せてよ！」
徹は淡々と言った。「ただの時計だよ。見せるほどのものじゃない」
「そう言うなよ、みんな同級生じゃないか。ちょっと見せてよ、話題にするだけさ！」
「安心しろよ、壊したりしないから。万が一壊したら、新しいのを保証するよ」松太郎は言った。
「そうだよ、見るだけだって」浩紀も言った。
深田亮平も少し興味があるようで、続けて勧めた。「徹、みんなに見せてあげたら？」
徹は亮平に良い印象を持っていたので、彼もそう言うのを聞いて、ヴァシュロン・コンスタンタンのツアー・ド・リルをテーブルの上に置いた。
松太郎は両手で何度か投げ上げながら言った。「なかなか重いな」
浩紀は言った。「これ何のブランド？見た目は確かにいいね！」
「俺の友達の高木波人は時計の専門家だから、彼に送れば分かるよ」松太郎は徹に尋ねることなく、すぐに写真を撮って友人に送信した。
彼はこれで自分の人脈の広さを誇示し、徹をさらに嘲笑うつもりだった。
残念ながら、波人はすぐに返信しなかった。
松太郎は言った。「ちょっと待ってみよう、彼は今忙しいのかもしれない」
亮平はヴァシュロン・コンスタンタンのツアー・ド・リルを見た瞬間、とても感動して思わず尋ねた。「徹、この時計いくらで買ったの？」
「お金は使ってない」徹は言った。
この言葉は、彼は嘘をついていなかった。
なぜなら、この時計はお年玉の中から手に入れたものだったからだ。
「お金使ってない？徹、その時計ってもしかして何か買った時のおまけじゃないの？」浩紀は嘲笑した。
松太郎は言った。「そうか、おまけなんだ。徹、早く言えばよかったのに！わざわざ友達に写真送らなくても良かったのに。おまけの時計なんて大体が高級品の偽物だからさ」
「あいつ偽物が一番嫌いなんだ。この写真見たら、きっと怒るだろうな」
松太郎はそう言って、時計をテーブルに放り投げた。
まるで、この時計をもう少し長く持っていたら、手が汚れるかのような態度だった。
そして、松太郎は教訓のような口調で言った。「徹、悪く思うなよ、みんな旧友なんだから、偽物の時計で格好つけても意味ないよ」
「同級生の誰か聞いてみろよ、誰が偽物で見栄張ったりするか？」
実際、その場にいる同級生の中には、密かに偽物を買ったことがある人もいた。
しかし、彼らは絶対に認めないだろう。
これは面子の問題だ！
もし認めたら、自分がうまくいっていないと言っているようなもの。偽物しか買えないなんて？
だから、同級生たちは次々と首を振った。
「偽物の品質は本物と比べて全然違うよ」
「私は偽物なんて使わないよ」
「お金が足りないなら、少し品質の落ちるものを買えばいいじゃない。なんで偽物なんか買うの？」
柳沢文香はさらにグッチのバッグを振りながら言った。「偽物を使う人は、全部貧乏人よ！私の夫なんて、私に絶対偽物買わないもの」
そう言いながら、文香は工藤竜介の腕にしがみついて、上下に擦り付けた。
竜介は腕の柔らかさを感じながら、心の中の怒りも徐々に収まっていった。
……
徹は周囲の言葉を聞きながら、まるで無数のハエがブンブン鳴り響いているかのように感じ、ついに怒りを抑えられなくなった。「俺が気に入ってりゃいいだろ、お前らに何の関係があるんだ？」
言い終わると、彼はヴァシュロン・コンスタンタンのツアー・ド・リルを手に取り、再び手首に巻いた。
途端に、個室内の同級生たちの表情は、みな少し険しくなった。
徹のこの言葉は、彼らすべてを罵ったも同然だった！
亮平は、自分が徹に時計を外すように言わなければ、こんなことにはならなかったと感じた。
そこで彼は仲裁に入った。「みんなだいたい食べ終わったみたいだね、カラオケに行かない？」
「いいね、カラオケに行こう！」
「行くぞ！」
同級生たちは次々と同意した。
徹は言った。「俺は行かないよ」
徹がこの同窓会に参加した大きな理由の一つは、高校時代の親しい友人に会いたかったからだ。
残念ながら、彼らは来ていなかった。
徹がこの食事を最後まで共にしたのは、すでに同級生たちの顔を立てたと言える。
当然、カラオケまでついていくつもりはなかった。
秦野小雨は言った。「私も少し用事があるから、カラオケには行けないわ。楽しんでね」
多くの人は徹が行かないことを喜んでいたが、小雨のような美人も行かないとなると、とても名残惜しく感じた。
そこで、多くの人が引き止めようとした。
これに対して...小雨は家に用事があると言い、すべての誘いを断った。
「送ろうか？」徹はさりげなく尋ねた。
「お願いします」小雨は微笑みながら答えた。
徹は少し驚いた。
実際、彼はただ何気なく尋ねただけだったが、思いがけず小雨が承諾した。
しかし、一度言った以上、撤回するわけにはいかない。
そして、二人は一緒に駐車場へ向かった。
この光景は、同級生たちの目に留まった。
「あの二人...もしかして何かあるの？」
「小雨がどうして彼なんかに目をつけるはずがない」
「二人とも駐車場に向かったけど、徹って車持ってないんじゃない？」
「駐車場にタクシーが入ってきたぞ、あれに乗るつもりじゃないか？」浩紀が言った。
この言葉が出ると、同級生たちの顔には軽蔑の色が浮かんだ。
彼らにとって、小雨のような美人を送るなら、高級車を使うべきだ！
タクシー？恥ずかしいとしか言いようがない。
文香は皮肉を込めて言った。「私の夫が最初に私を家まで送った時、少なくともベンツかBMWだったわ。タクシー？徹もよく恥ずかしくないわね！」
松太郎は徹と小雨の遠ざかる背中を見ながら言った。「俺のBMW5シリーズもあの方向にある」
浩紀は言った。「松太郎、やっぱり君が小雨を送った方がいいんじゃない？」
浩紀も小雨の美しさに魅了されていたが、彼はたった10万円のカローラしか持っていなかったので、小雨を送るなんて提案できなかった。
浩紀は徹を嫌悪していた。
彼は松太郎に小雨を送らせるほうが、徹にチャンスを与えるよりはましだと思った。
「そうだよ、秦野大美人をタクシーで家まで送るなんて許せないよ、そんなことしたら、彼女の家族は私たち同級生が彼女を粗末に扱ったと思うかもしれない」
「その通り！」
皆が口々に同意した。
松太郎は心の中で喜んだ。彼は小雨に垂涎していた。
もし彼女を家まで送る機会を利用して、少し関係を近づけることができれば、あるいは、何かが起こるかもしれない...
そう考えると、松太郎の胸は熱くなった。
彼は唾を飲み込んで言った。「でも、カラオケは...」
「心配しないで、俺たちが個室を取っておくから、君は後から来れば」浩紀は言った。
「それじゃあ...わかった」松太郎はわざと困ったような表情を見せた。
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