第一章:浄化(ジョウカ)
> 「フリア、君をまたどこで探せばいいんだ?」
エンヴァー・エラリーは、銀色のフレームに収められた写真を見つめながら、静かに呟いた。
その女性は鋭い眼差しで彼を見返しており、黒いスカーフで髪を包み、その美しさは──この世のものではなかった。
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この世界では、人々は単なる「必要」を超えたものを追い求める。
それは「幻想」──それを人々は「お金」と呼ぶが、実際それは現代の魔法に他ならない。
そして、すべての魔法には代償が伴う。
霧に包まれた都市の中で、普通の目では見えないものを見通す者たちがいる。
彼らは「ヘルゼーア(Hellseer)」──人間の肉体に潜む霊的存在と直接接触できる霊視者たちだ。
それらの存在は人間の行動から生まれる──
腐った憎しみから、癒されることのない傷から。
それらは寄生し、次第に人間の魂を蝕んでいく。
だが、その中に一人──違う者がいた。
エンヴァー・エラリー。
彼はそれらの「悪霊」を殺すことはなかった。
彼は「浄化(Purificazione)」を行う──古の儀式であり、ほとんど忘れ去られた技法。
彼は「見えない病」を癒す者でもある。
医学では解明できない病、だが自身の内なる世界で迷い、苦しむ者にはそれがどれほど深刻であるかがわかる。
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その日、エンヴァーの家の庭にはジャスミンの香りが優しく漂っていた。
十箱の車がジャスミンの花を運び、庭の周りに丁寧に並べられた。
その目的は一つ──出された霊が逃げられないようにするためだった。
エンヴァーは花の間を静かに歩いていた。
その隣で、アシスタントのマルヴァは疲れ果て、目がかすみ、喉が渇き、疲れを感じていた。
「どうした? そんな風に俺を見て。」
エンヴァーの声は冷静で、少しも振り返らなかった。
「言っただろ? 仕事が終わったら食べても飲んでもいいって。」
マルヴァはため息をつくと、静かに続けて言った。
エンヴァーに逆らうことは、すなわち罰を受けることだと彼女は理解していた。
命令されたことは、どんなことでも完遂しなければならない。そして、手抜きは許されない。
残った力を振り絞って、マルヴァはジャスミンの花を整え続けた。
エンヴァーはテラスに座り、薄く微笑みながらそれを見ていた。
「どうしてあんなに遅いんだろう? 一輪も触っていないのに。」
心の中でマルヴァが呟いた。
突然──
「俺はお前の考えがわかる。」
エンヴァーはマルヴァの背後に立ち、彼女を驚かせた。
「何度も逃げようとしたな。でも戻ってきた。失敗しただろう? ここは物理的な限界だけじゃない、精神的な境界があるんだ。」
マルヴァは黙って下を向いた。それが真実であることを知っていた。
「霊たちは外にいる。お前の匂いを嗅ぎつけて、まだ一歩も踏み出せない。」
エンヴァーが続けて言った。
「もしお前が俺に頼まれてここにいるんじゃなかったら、とっくにここを出て行っていただろうに。」
マルヴァは小さな声で呟いた。
エンヴァーは答えなかった。
彼は冷徹な男ではなかったが、何故かマルヴァの存在が自分の気をそらすようなものに感じられた。
彼女の不安を見ていると、何故かその不安が自分の内面の痛みを忘れさせてくれるようだった。
「早く終わらせろ。俺の近くで死んでほしくないし、お前の遺体を埋めるのも面倒だ。」
その言葉を聞いたマルヴァは反論したい気持ちが湧いたが、結局それが無意味だと感じた。
エンヴァーの言葉は常に命令のように響く。
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その後、作業は終わった。
マルヴァはすぐにキッチンに入り、冷蔵庫を開けて見つけた飲み物を一気に飲み干した。
だが、その味は異常だった。
顔色が悪くなり、唇が青白くなり、吐き気を催し、何も出てこなかった。
そして──暗闇。
彼女の体は床に倒れ、エンヴァーが部屋に入ってきたが、ただ無表情で見ているだけだった。
そして、彼は静かに歩み寄る。
「まだ生きていたか。薬は害はない。ただ一時的に呼吸ができなくなるだけだ。」
彼は軽く言い、そしてそのまま去っていった。
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エンヴァーは自分の部屋で、再び同じ写真を前に座っていた。
彼の手がガラスの表面に触れる。
「フリア……」
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[数ヶ月前...]
エンヴァーは街の最高の山の頂へと車を走らせていた。目的は──青龍の鱗を手に入れること、それが治癒薬の材料となる。
だが、五体の霊的存在が彼の前に現れた──黒いハロウィンの風船のような形をした、静かに浮かぶ存在だった。
それらは触れもしなければ、ただじっと待っていた。
エンヴァーは呪文を唱え、車を急加速させた。後ろを振り返ると──それらは消えていた。
しかし、そう思っていただけだった。
突然、車全体が巨大な風船のように閉じ込められた。
霊たちは一つの闇の存在へと一体化していた。
空気の圧力が胸を締め付ける。それらは彼を狙っていない──車を狙っている。
エンヴァーは息を呑む。しかし、意識を失いかけたその時、空から光が差し込んできた。
目を開けたとき──
青龍が彼の目の前に立っていた。
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続き
皆さん、ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。
この物語『Hellseer ― 穢れを祓う者(けがれをはらうもの)』は、人の心の闇と浄化をテーマに描いています。
主人公・エンヴェルの静かで深い旅は、きっと読む方の心にも何かを残してくれると信じています。
日本の文化や風景に合うように、世界観や言葉選びにも気を配りました。少しでも皆さんの心に響く物語になっていれば幸いです。
次の章では、さらに不思議で哀しい出会いが待っています。
どうぞ、最後まで見届けていただけると嬉しいです。
それでは、また次の章でお会いしましょう。
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― 作者:Fausta_Vova