受付の言葉が終わるか終わらないかのうちに、
オフィスのドアが開いた。
漣の秘書が眉をひそめてドアを開けた。「長谷川さんはただいま会議中です。ご用件があれば、私が承ります」
秘書の言葉を聞いて、受付を担当していた美女は少し残念そうに表情を曇らせた。「そうですか…。実は先ほど、坊ちゃまがロビーにいらっしゃったので、お連れしたんです」
そう言うと、彼女はそっと後ろを振り返った。
気づけば、空の姿はもう消えていた。
秘書はさらに眉をひそめた。「坊ちゃまは、どちらにいらっしゃいますか?」
「坊ちゃまは、さっきまで私のすぐ後ろにいたんです。でも、急にいなくなってしまって…」受付嬢の顔には、次第に焦りの色がにじみ始めていた。もし長谷川さんの秘書に嘘をついたと疑われたら、自分が処罰を受けることになるかもしれない——そんな不安が彼女の表情を強張らせていた。
彼女の言葉が終わるか終わらないかのうちに、
本物の坊ちゃま——律の姿が、エレベーターホールの方から現れた。
パパの秘書が自分について話しているのを耳にして、律はそちらの方へ目を向けた。
坊ちゃまを見つけると、
受付の表情はようやくほっと緩んだ。深く息を吸い込み、すぐに口を開く。「坊ちゃま、驚きましたよ。また出て行ってしまったのかと思って…」
律は今、目の前の女性の言葉に応じる気持ちになれず、落胆した表情を浮かべたまま、受付と秘書を素通りして、大きな足取りで漣のオフィスへと入っていった。
坊ちゃまの姿を見て、秘書の表情もようやく和らいだ。彼はその受付係をじっと見つめて、言った。「今後、何かあれば必ず直接私に連絡してください。長谷川さんが許可なくあなたが上がってきたことを知ったら、その結果がどうなるかはわかっているでしょう」
美人受付の顔に青ざめた色が広がった。
彼女はこのような結果をまったく予想していなかった。
秘書は受付を追い返し、坊ちゃまを連れてオフィスへ戻った。
廊下は再び静けさを取り戻した。
二つの小さな影が角から顔を覗かせた。
節子は驚いた目で、さっきオフィスに入った小さな男の子を見つめた。「お兄ちゃん、さっきの子、お兄ちゃんにそっくりだよ!」
空は自分に似ている節子をちらりと見て言った。「彼は節子にもよく似ているよ」
「でも、私と彼は五、六分くらい似てる感じだけど、彼とお兄ちゃんはほとんど同じに見えるよ!」節子は抑えきれない衝撃を胸に、大きくて丸い目を空に向けてまばたいた。「お兄ちゃん、ママにはもう一人子どもがいるのかな?でも、どうしてママは一度も話してくれなかったんだろう?」
空は妹の質問に答えず、そのまま律が入ったオフィスへと歩き出した。
節子は兄の後ろに続き、声をひそめて言った。「お兄ちゃん、パパを探しに来たんじゃないの?今、どこに行くの?」
「オフィスだ」
空はその三文字を冷たく投げ捨てるように言うと、振り返ることなくオフィスの方へ歩き去った。
オフィスのドアの前に立ち、
空は深呼吸をした。
小さな手がドアに触れ、中へ入ろうとしていた。
節子は兄の後ろについて、小さな顔に緊張が走り始めた。
彼らは今、空にそっくりなあの小さな男の子が誰なのか、まったく分からなかった。
もし、彼もママの子どもだったら…
空はドアノブをしっかりと握り、ゆっくりと回した。
オフィスのドアが
開いた。
オフィス内で音を聞いた秘書はすぐに立ち上がり、ドアの方を見た。
視界の中に、
人の半分ほどの高さの小さな影が、冷たい表情を浮かべてドアの前に立っていた。
この小さな影を見て、秘書は驚きのあまり目を見開いた。「坊ちゃま?」
秘書は視線を落とし、隣にいる律を見た。
今、律の顔には好奇心が満ち、ドアの方を見つめていた。
「二人の坊ちゃま?」と
秘書が驚いて口を開く前に、節子は素早く前に出て、黒市で高額で買った電気ショック装置を使い、直接秘書を気絶させた。
オフィス内には、
この三人の子どもたちだけが残っていた。
節子は二人の男の子の間に立ち、きれいな大きな目で空を見たり律を見たりしながら、思わず舌打ちした。「本当にそっくり!」
空も今、律と見つめ合っていた。
この二人の招かれざる客に対して、律の表情も驚きで満ちていた。彼は好奇心を抱き、自分と同じ顔を持つ彼らを観察しながら、手話で挨拶した。「君たちは僕の弟と妹?」
空は「?」の表情を浮かべた。
節子も疑問符だらけの顔をした。「お兄ちゃん、彼、もしかして口がきけないの?」
兄妹二人が手話を理解していないのを見て、律は自分のタブレットを取り出し、一行の文字を打って目の前の兄妹に見せた。「こんにちは、僕は長谷川律です。君たちは僕の弟と妹?」
空は黙ったまま返事をせず、
節子の好奇心はますます強くなった。
パパは彼女に初めて会ったとき、彼女だと気づかなかった。
目の前のこの男の子を見て、彼は一目で彼女が自分の妹だと確信した。
節子はまばたきをして律を見つめた。「いつ生まれたの?もしかしたら、私がお姉ちゃんかもしれないよ」
律は再びタブレットに一行打ち込んだ。「僕は一月二日生まれ。君は?」
一月二日?
そうか、彼女は確かに妹だった。少し落胆した後、節子は素直に答えた。「私は一月五日生まれだよ、お兄ちゃん」
ずっと話していなかった空は、自分に双子の兄がいるという事実を受け入れた後、
ようやくパパについての情報を尋ね始めた。
この四年間、
パパがずっとママの行方を探し続けていたことを知ったあと、
神谷兄妹の顔にも、ようやく興奮の色が浮かんだ。
節子はもう我慢できず、すぐにパパに、彼らのママがすでに日本に来ていることを伝えようとしていた。
「やっぱりパパはママを見捨てないって知ってた!今すぐパパを探して、この良い知らせを伝えに行くよ!」節子は興奮して仕方がなかった。
しかしすぐに、
空が冷や水を浴びせた。「急がないで。彼らがなぜ当時一緒にいなかったのか理由がわかるまでは、軽はずみな行動は避けたほうがいい。もしママがパパに会いたくなくて、そのためにまた日本を離れることになったら、困るだろう」
節子は黙り込み、少し落ち込んだ表情を浮かべた。
彼女はよく知っていた。ママは、彼らのパパに会いたくないのだ。
「わかった。お兄ちゃんの言うことを聞くよ。じゃあ、これからどうするの?」
「今やるべきことは、パパとママが当時別れた理由を調査することだ」空は冷静なまま電子時計の時間を確認し、自分にそっくりな律を見上げた。「調査が終わるまでは、パパとママに僕たちが会ったことを話さないほうがいいと思うけど、いいかな?」
律はうなずき、すぐにタブレットに一行打ち込んだ。「ママに会いたい。連れて行ってくれる?」
空がためらっているのを見て、律はすぐにタブレットに付け加えた。「ママに気づかれないようにするって約束するから、お願い」
兄の期待に満ちた表情を見て、節子は少し心を痛め、律のために言った。「お兄ちゃん、律お兄ちゃんを一緒に帰らせてあげようよ。ママに気づかれないようにすればいいじゃない」
律はすぐに医療用の子ども用マスクを取り出し、自分でしっかりと着けると、またタブレットに文字を打ち込んだ。「マスクをつければ、ママは僕だとわからないはず」
やはり兄弟は心が通じ合う。空がすでに承諾するかどうか迷っているとき、
律は急いでタブレットにもう一行打ち込んだ。「僕たちは身分を交換しよう。君がパパのそばで調査すれば、もっと便利だと思うけど、どう?」