治療期間、私は夜遅くまで本を読んで過ごした。とにかく、この世界を理解するための情報を集めなければならなかった。
何日も読み続けた末、ようやくこの世界についての断片的な情報を得ることができた。
この世界は、以前いた世界とは大きく異なっていた。ここには、私の元の世界には存在しないものがあった。
この世界は、ゲームや小説に出てくるような「ファンタジー世界」だった。剣と魔法が存在する、そんな世界だ。
さらに、この世界では、私の元の世界とは異なる言語が使われていた。文字も、地球で使われていたラテンアルファベットとは全く違う。
もし本物のマイケルの記憶が少しでも残っていなかったら、この世界の文字を理解したり読んだりすることさえできなかっただろう。
そうなっていたら、すべてがもっと困難になっていたに違いない。
そして、ゲームや小説とは違って、この世界の魔法についてはまだほとんどわかっていないようだ。魔法が存在する世界なのに、魔法を使うためにはさらに情報を理解しなければならないらしい。
どうすればこのことを知ることができるのか? どうやってこの世界についての本を手に入れられるのか?
そもそも、母はどこからこれらの本を手に入れたのだろう? 母が持っている本の数はそれほど多くはないが、役に立つものがいくつかあった。
その中には、『薬草のレシピ集』や『ハーブの種類』のような本もあった。
母の話によると、彼女は以前からさまざまな植物に興味を持っていたらしい。ハーブを集めたり、いくつかの種類の薬を作ったりするのが趣味だった。
ゲームの世界にあるような「ハーブ」や「ポーション」に近いものかもしれない。
だが、母が植物に興味を持った理由は、趣味や薬作りだけではない。医療的な目的で薬を開発したいという思いもあったようだ。
そういえば、私たちが首都からこの田舎町に引っ越してきたのは1年前のことだった。
この村の問題は、村に医者がいないことだった。だからこそ、母はこの辺境の村で治療師として働くために、薬の開発に興味を持ち始めたのだ。
この場所についてだが、今私が住んでいる国は「シルヴァスカ王国」という、中央大陸の山岳地帯にある国だ。
非常に平和で、争いから遠く離れた、守りに最適な場所だ。
しかし、この場所の欠点は、内陸部にあるため、主要な交易路から外れていることだ。そのため、外の世界との行き来が少し不便になっている。
それでも、この村の人々はとても善良で親切だ。
村人たちは、母を「この辺境の村で唯一の治療師」として尊敬している。母がこの村で治療師をしてくれていることに、心から感謝しているようだ。
それとは別に、私が母に魔法について尋ねたとき、母はあまり満足のいく答えを返してくれなかった。
実は母は、魔法を使うことにあまり詳しくないらしい。彼女は魔法に興味がなく、「少し役に立たない」と思っているようだ!
少しがっかりしたが、私は特に気にしなかった。
魔法についての情報は、まだたくさん集められるはずだ。そして、すべては本に書かれているに違いない。
母の本棚には魔法に関する本はなかったが、一つだけ、私にとって新しい情報が得られそうな本があった!
その本によると、魔法は何世紀にもわたってこの世界で使われてきたらしい。
その本には魔法の使い方は書かれていなかったが、魔法の創造についての歴史が少し記されていた。
「魔法は、世界が最低の状態にあったときに、偶然生まれた」と書かれていた。
「最低の状態」とは何を意味するのか、よくわからない。しかし、魔法はおそらく「新しい科学」のようなものなのだろう。
魔法は大きく2種類に分けられる。「黒魔法」と「白魔法」だ。
さらに、3つ目の種類として「聖魔法」と呼ばれるものもある。
これら3種類の魔法は体系化されており、学び、創造し、使うことができる。
本当に興味深い話だ……。
……………
………
一方、そのころ……
「伯母さん、見てください、ミカンはこの前気絶してからちょっと変ですよ! もう1週間以上経つのに、ミカンは本を読むことばかりに時間を費やしています!」
ローズは心配そうにそう言った。
ミカンの部屋をそっと覗きながら、ローズとミカンの母は彼の様子を観察していた。
あの日の出来事以来、ローズはミカンの中にある「違和感」に気づき始めていた。
以前は文字を読むのもたどたどしかったミカンが、突然、本を読みこなせるようになり、真剣に読書に没頭している――
ローズにとってこれは本当に奇妙なことだった。だって、以前のミカンは読書が好きではなかったのだから。
「ふむ……別に悪いことじゃないわ。あの子は本当に変わろうとしているのよ……。伯母さんは、あの子が本を読むのに夢中になってくれて、とても嬉しいわ。これはきっと、『奇跡』なのよ」
ローズの心配とは対照的に、ミカンの母は息子が熱心に本を読むようになったことを喜んでいるようだった。
彼女にとって、この変化は「奇跡」だった。だって、以前のミカンは読書が嫌いだったのだから。
頭を怪我する前のミカンは、絵本や挿絵の多い本以外はほとんど読まなかった。
優しく微笑みながら、ミカンの母は、ミカンの変化を心配する必要はないと考えていた。
「ローズの心配もわかるわ……ミカンが急に変わったから、不思議に思うんでしょ?……でも、たとえ少し変わっても、ミカンはミカンよ。私の息子だし、ローズの友達でもあるの」
ミカンの母はローズに、ミカンはあくまでミカンなのだと伝えた。たとえ少し変わっても、彼はエレナの息子なのだと。
「…………」
「エレナ伯母さんがそう言うなら……ローズもそう信じます。ただ、ミカンが変わってしまったら、ローズのことを忘れてしまうんじゃないかと怖かっただけです」
ローズの心配は少し違うところにあった。
ミカンの急激な変化は、ローズを不安にさせた。もしミカンが変わってしまったら、もう自分の友達でなくなってしまうのではないか?
しかし、ミカンの母にそう言われて、ローズはようやく納得した。
だって、ミカンは以前と同じようにローズを友達として接していたから。
ローズの心配は現実にはならなかった。ミカンは相変わらず同じだった。ただ、本を読むことに熱心になったり、文字をスラスラ読めるようになったりしただけだ。
「今、ミカンは忙しそうだから、そっとしておきましょう……それに、ローズも遅くまでここにいると、シルト夫人が怒るかもしれないわよ」
ミカンの母はローズに、夜遅くまで家にいないように注意した。ローズの母親であるシルト夫人が怒るかもしれないからだ。
「あっ! 伯母さんの言う通りです……母がローズがこんなに遅くまでここにいたら、きっと怒ります」
ミカンの母の言葉で、ローズはハッと我に返った。
確かに、ローズは夜遅くまでミカンの家にいるべきではなかった。母親が心配するに違いない。
「伯母さんがローズを家まで送っていってあげる。ミカンも少しの間なら一人で大丈夫でしょう」
ミカンの母はローズを家まで送ると申し出た。ミカンは少しの間なら一人でも平気だろうと言いながら。
「ありがとう、エレナ伯母さん」
ローズは感謝の言葉を述べ、家に帰る準備をした。母親を心配させないように、急がなければならない。
ゆっくりと、ローズとミカンの母は家を出た。ミカンの母は、ローズが夜遅くまで外出することを許されていないため、彼女を家まで送ることにした。
……………
……………
一方、魔法の基礎についての本を夢中になって読んでいたミカンは、自分が食事の時間を忘れるほど没頭していたことに気づかなかった。
彼はベッドから起き上がり、食事用のテーブルに座った。
そして、いつものように、母は手に入る材料で作ったシンプルな食事を用意してくれていた。
「むしゃ……むしゃ……」
食事テーブルで、空腹を感じていたミカンは、母が作ってくれた料理を勢いよく食べ始めた。
その料理は、母が毎日作ってくれる「カボチャのスープ」だった。家の庭で育てたカボチャを使ったスープだ。
「…………」
テーブルの上には、カボチャのスープだけではなく、固いパンも置かれていた。スープと一緒に食べるためのものだ。
「ふむ……!? ……あら、珍しいわ。うちの子がカボチャのスープをおいしそうに食べている……普段なら、『またカボチャのスープか~』って泣き言を言うのに、ここ数日は本当に良く食べているわね!」
ミカンの母は、嬉しそうにそう言った。
今回は、母もミカンの変化に驚いているようだった。
普段の夕食では、母はいつもカボチャのスープを作る。
ミカンは通常、夕食がカボチャのスープだと知ると、不満を言っていた。
しかし、変わったのは、ミカンが文句一つ言わず、むしろおいしそうにスープを飲んでいることだった。
「……食べ物はありがたくいただくべきです。これはお母さんが作ってくれた料理ですから、文句を言うわけにはいきません」
母が困惑しているのを見て、ミカンは微笑みながらそう答えた。
食べ物は貴重なものだ。ましてや、母が愛情を込めて作ってくれた料理なのだから、文句を言うべきではない、と。
「まあ……わたしのミカンが……」
息子の口からそんな言葉が出てくるとは思ってもいなかった母は、感動してミカンを強く抱きしめた。
これは、親にとって、子供が自分の努力を理解してくれたことへの喜びの表現だった。
ミカンの心の中……
『もちろん、食べ物に文句は言えない。元のマイケルと比べても、私は食べ物に関してトラウマがある……。
あの頃、妹とお金がなくて、月の半ばにはほとんど何も食べられなかった……。
1日1食、それを2人で分け合って食べるしかなかった……。
元のマイケルも貧乏だったかもしれないけど、少なくとも彼は1日3食食べられたんだ……。
このパンは確かに固いけど、仕方ない。母さんが頑張って作ってくれたんだ。これは愛と努力の証なんだ……。
……貧乏は本当に嫌だ』
心の奥で、ミカンはこの食事を「ぜいたくなもの」だと感じているようだった。
転生する前の自分と比べると、元のマイケルはまだマシな生活を送っていた。
1日3食、お腹いっぱい食べられた。質素ではあっても、彼にとっては貴重な食事だった……。
貧しい者として、生きるためにはこれを受け入れるしかない。
不足だらけの生活は本当に辛い。特に、日々の必要さえ満たせない貧しい者にとっては。
「食べ終わったら、ベッドに戻って休みなさい……。また夜更かしして本を読まないでね。体に悪いわよ」
ミカンの母は、食事が終わったらすぐにベッドに戻るよう注意した。そして、夜更かしして本を読むことを禁じた。健康に良くないからだ。
「は、はい……お母さん」
ミカンは母の言葉に従った。
『あー、バレたか』
母に夜更かしを禁止され、ミカンは少しがっかりしたようだった。
彼の行動は母にバレてしまい、もう夜中まで本を読むことは許されなくなった。
いつもとは少し違う、温かい夕食の時間だった。
ミカンの変化は、母にとって良い影響を与えているようだ。
もう心配することは何もない……
――と思っていたが、その夜中、彼らは「予期せぬ訪問者」を迎えることになる。
—TO BE CONTINUED—