Chapter 6: このお客様、絶対訳ありのお嬢様だ！
Editor: Pactera-novel
樋口透は素早く冷静さを取り戻し、心を落ち着かせた。
自分の部屋に向かい、マイナンバーカードを取り出し、次にパソコンの前に座った。
「男の体はまだあるってのに、なんでカードの性別まで女になってんだよ。学籍情報も全部『女』になってるし」
ゲームが現実に影響するにしても、こんな風に影響するなんておかしいよ。
どうせもうすぐ死ぬ身だ、それはいい。だが、頼むから普通に死なせてくれ。社会的に殺すのだけは勘弁してくれっての。
彼女は調査を続け、スマホに保存されている元カノとの写真を見た。
「写真の中身は変わってないな。でも、昔の俺、結構髪長かったしな。ちょっとやつれて見えるのと、胸がない以外は、今の姿とまあまあ似てる……か？」
ゲームでの調査内容と同様、現実の性別が女性になった以外は何も変化がなかった。
記憶にも、一切の変動はなかった。
「頭が痛くなってきたな……。まあ、一歩ずつ進むしかないか」
樋口透は再び意識をゲームへと戻した。ゲーム内の彼女のアバターは、相変わらず家のドアの外に突っ立っている。頭上のアイコンには、先ほどと比べて少し文字が増えていた。
【風景を眺めています……】
綾辻依はまだ家の小さな椅子に座っていた。
樋口透は彼女の頭をタップした。
少女は何かを感じ取ったのか、きょろきょろと周りを見回し、その直後、頭上に同じような情報ウィンドウがポップアップした。
【名前：綾辻依】
【性別：女】
【年齢：18】
【身長：154cm；体重：41kg】
【バスト：A++】
【体力：7（上限10）】
【現在の状態：焦燥、不安、恐怖】
【現在の好感度：他人】
さらなる情報は不明で、より多くの好感度が必要だった。
そして、樋口透をさらに驚喜させたのは、ゲーム内のシステムショップがそのまま残っていたことだ！
前回の一周目プレイでは、サイドクエストをクリアして得たゲームポイントを使い、この特殊なショップで様々な超常的なスキルやアイテムを購入できた
透視メガネ、幸運のコイン、時間停止ウォッチ、催眠スプレー……
スキルとアイテムを使ってゲーム内でお金を稼ぎ、困難を乗り越える。
このゲームがシステム上で現実に影響を与えるなら、これらの超常的なアイテムやスキルも現実の自分に作用するのでは！
もし本当に無数のアイテムが選び放題なら、男の体が回復した後、この女の体を別の存在として分離させることだって、可能になるかもしれない。
……なんてことを考えると、女の子になった自分も、ルックスといいスタイルといい、なかなかどうして魅力的じゃないか。
俺が、俺（♀）を攻略する……だと？
樋口透は、ぐっと意識を集中させ、新しいメインクエストとその報酬に目を向けた。
【メインクエスト】：カノジョの綾辻依と共に、四日間を無事に過ごす
【報酬】：ゲームポイント+300、現実世界の身体（女）の持続時間+60分、中級スキル：死の予知
【死の予知】：スキルを発動すると、対象の生物が今後24時間以内に死亡するかどうかを予知できる
これを見た透は、再び目を見開いた。
ゲームポイント300！
中級スキル！
もう一つの体の持続時間については一旦無視するとして、前の二つの報酬には喉から手が出るほど欲しかった。
ゲームポイントはシステムショップの全てに関わり、ルーレットガチャを回すのにも使える。そこで手に入れたものは、おそらく現実に持ち出すことができるはずだ。
スキルについては言うまでもない。間違いなくバグレベルの能力だ。このゲームで、綾辻依の死を回避するためには、まさにうってつけのスキルじゃないか。
鍵となるのは、どうやってこの四日間を無事に乗り切るかだ。
彼女が前に言った通り、一周目では、わずか七日間のうちに、何度も生死を分ける選択を迫られた。
一つのミスで、ゲームオーバーになる。
確か、今夜を乗り切れば、二日目はチュートリアル期間で何事もなく過ぎるはず。
三日目に彼女は一人で外出し、そこで車に轢かれそうになったり、何者かに連れ去られそうになったりする。
四日目には、すでに自分が殺したあのチンピラが小ボスとして人を連れて戻ってくる……
チンピラは先に殺しておいたし、これからは綾辻依をしっかり見守れば、このクエストも簡単だ！
樋口透は他のサイドクエストも確認した。
【綾辻依の信頼度を『友人』まで上げる（現在：他人）】
【報酬：女性の身体の取扱説明書、所持金+20000円】
【クローゼットに自分のための、異なるスタイルの女性服を三種類以上揃える（現在：0/3）】
【報酬：好感度システム解放、鎮痛カプセル*3】
二つのサイドクエストもまあまあだ。これらのクエストは時間とともに進めることができ、一周目と全く同じだ。
「まずは服を買いに行こう、サイドクエストを完了させよう。」
これを研究している間、ゲーム内のキャラクターは十分長く待っていた。
樋口透は再びソファに座り、指を動かすとゲームに戻った。
慣れない視点の高さ、ずっしりとした胸の重み、髪が触れて少しむず痒い首筋。
しかしこの体は活力に満ちていた！
透は腕を伸ばしてみた。「やっぱり柔らかいな。……もうこんな時間だし、さっさと行って帰ってくるか」
彼女は本格的に家を出た。家の中には、いつ逃げ出すかもしれない小さな生き物が一匹いる。手元にあるのはシステムの報酬でもらった6000円だけだったが、彼女は贅沢にもタクシーを拾った。
商店街に着くと、彼女は再び選択に迷った。
クローゼットには、自分の服が三着必要。今着ているものを除けば、あと二着。
綾辻依の着替えも、最低二着は欲しい。
ここは九央市、日本でも有数の大都市だ。正直、チャレンジングなのは否めない。
本気で攻略するなら、手はある。大学のフリマアプリでタイムセール品を狙って、『後輩なんです、急ぎで必要で…』とか言って値切るとか。
だが、中古の、しかも肌着となると……
結局、透は手頃な価格帯で、一通り何でも揃う女性服の店に入ることにした。
「いらっしゃいま〜せ。」
若い店員は樋口透を見て目を輝かせた。「お姉さん、とても綺麗ですね。お洋服をお探しですか？」
「うん」
相手の過剰なほどの歓迎ぶりに、透は少し戸惑いながらも、クールを装って短く返事をした。
店員はさらに続ける。「でしたら、アウターですか？ それともインナーでしょうか。よろしければ、私がコーディネートのお手伝いをしますよ」
「両方」透は付け加えた。「ただ、予算は限られてて、6000円以下。それで……3セット欲しい」
「ちょっと厳しいですけど、セールの、少し生地が薄めのものを選べば何とかなるかと。ちなみに、サイズの方は？」
「サイズは……そうだな。見た感じで、お願いできるか？」
店員の女性は絶句した。
彼女はようやく理解した、なぜ目の前の人から微妙な違和感を感じたのか。
この拘束感は、彼女たちの買い物に付き合う男性たちによく似ていた。
そしてこの方は、間違いなく、名家の箱入りお嬢様！
店員は樋口透を上から下まで見た。
間違いない。この瑞々しい肌、ワインレッドの滑らかな髪。化粧の跡一つないのに、9点以上を叩き出す、すっぴん最強の戦闘力。どう見ても一般人じゃない！
この子はきっと、どこかの名家のお嬢様……あるいは隠し子で、一族の争いに巻き込まれて追い出されたんだわ！
普段の身の回りのことは、全てメイドさんがやっていたから、日常生活もおぼつかない。だから、服の買い方すら分からないんだ！
最高だわ、完全にわかった！
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