第4話:公開処刑の宣言
[詩織の視点]
晃牙がマイクを手に取った。
その瞬間、私の心臓が止まりそうになった。彼の表情に浮かんでいるのは、悪意に満ちた笑みだった。
「皆様、申し訳ございません」
晃牙の声が会場に響く。
「詩織さんがどうしても結婚したいと仰るので、ここで皆様にお願いがあります」
私は身体が硬直するのを感じた。まさか、彼は何をするつもりなのか。
「鬼塚家のご令嬢、詩織さん、ただいまより結婚相手を募集します!男なら誰でも参加資格があります」
会場がどよめいた。
私の顔が一気に熱くなった。恥ずかしさで頭がくらくらする。唇を噛み締めて、必死に涙をこらえた。
「実は詩織さん、俺には何年も言い寄ってきていたんです」
晃牙の声が続く。
「でも俺は夜瑠一筋なので、お断りしてきました。それでも諦めずに結婚したがっているので、どなたか優しい男性はいらっしゃいませんか?」
会場が爆笑に包まれた。
私の長年の想いが、公衆の面前で嘲笑の種にされている。胸が締め付けられて、息ができなかった。
「詩織お姉ちゃん、可哀想」
夜瑠の声が聞こえた。でも、その目は楽しそうに輝いていた。
突然、晃牙が一人の男を連れてきた。
40代後半から50代に見える、父よりも年上の男だった。黄ばんだ歯をむき出しにして、いやらしい笑みを浮かべている。
「詩織さん、こちらの方が手を挙げてくださいました」
拓海と智也が私の両腕を掴んで、その男の前に突き出した。
男の視線が私の身体を舐め回すように見つめる。吐き気がして、何も言えなかった。
「これでも私たちがあなたのために厳選したのよ。何が不満なの?」
夜瑠が偽善的な笑顔で言った。
「やめて」
私は震え声で呟いた。
「これは私の結婚式よ。あなたたちは口出しする権利なんかないわ!」
そうだ。昨日、私は入籍したのだ。
私はウェディングバッグから結婚証明書を取り出した。
「みて、私と夫の結婚証明書よ」
証明書を高く掲げる。
晃牙の顔が一瞬青ざめた。でも、すぐに証明書の写真を見て、表情が変わった。
「おい、これ...」
彼は証明書を奪い取った。
「どこで偽造したんだ?合成写真にしてもあまりにも不自然だぞ。これは月城(つきしろ)グループの月城社長だ。昨日、わざわざ頭を下げて会って貰おうとしたのにその時彼は結婚したばかりで、妻と一緒にいるって言ってたぞ!彼がお前の夫だって?笑わせるな」
私の頭が混乱した。
昨日、夫は電話で忙しそうだった。まさか...別の女性と?
「嘘よ」
私は必死に首を振った。
「彼は私の夫よ。昨日、確かに入籍したの」
でも、会場の視線が冷たくなっていくのがわかった。
正臣が私を力づくでステージから引きずり下ろそうとした。
「やめろ!これ以上恥を晒すな!」
「離して!」
私は抵抗した。晃牙、智也、拓海が私を掴んで揉みくちゃにする。
バランスを崩して、階段から落ちそうになった。
その瞬間、強い腕が私を抱きとめた。
清潔で心地よい松の香りに包まれる。
「ごめん、遅くなった」
静かな声が私の耳元で響いた。