「篠原叔母さん、健斗さんの部屋を見せてもらえます?」
「もちろんよ」
清美は頷き、遥を隣の部屋へ案内した。
健斗の部屋は全体的に上品なグレーブルーの色調で、整然としている。
彫刻が施された透かし彫りのパーティションが、部屋を小さなリビングスペース、休憩エリア、作業スペースに巧みに区切っている。
デスクの後ろの壁に神様の絵が掛けられている以外は、リビングのように雑多なものがあちこちに置かれてはいない。
遥はさりげなく壁の神様の絵を指さした。「篠原叔母さん、田舎にいた頃、祖母から寝室には神様を祀ってはいけないと聞いたことがあります。
この部屋は書斎として区切られていますが、元は寝室ですよね。
「この絵は別の場所に移した方がいいかもしれません」
清美はこの言葉を聞き、遥を見る瞳にさらに愛情が増した。
この子は風水について詳しいわけではなく、ただ年長者から聞いただけのことを、お世辞も言わず、ありのままに伝え、わずかな知識の中で健斗のことを心から気遣っている。
それに比べれば、志保は甘い言葉で人を喜ばせることしかできない。
「これは以前、お母さんが特別に入れさせたものよ。安心のためって言ってたけど、私は効果なんてないと思っていたわ。すぐに片付けさせるわね」
遥は健斗の部屋を一周して戻った。
清美は彼女が単に好奇心から健斗の部屋を見たかったのだと思い、深く考えずに彼女を部屋まで送り届け、ゆっくり休むようにと言い残して階下へ降りていった。
今日が遥と初めて会う日だが、彼女はこの少女を本当に気に入っている。
容姿も性格も申し分ないだけでなく、すべてを承知の上で松本家に残り、健斗のことを思ってくれる――それだけでも松本家が彼女を大切にする理由は十分にある。
蓮と詩織の夫婦は目が節穴で、ガラスを真珠と思い込み、本物の真珠を軽んじている。
遥が頷く間もなく、階下から美星の大声が響いた。
「遥、この害悪な奴!すぐに松本家から出て行け!」
続いて急ぎ足の足音がし、美星が階段から勢いよく駆け上がってきた。
清美は眉をひそめ、冷たい声で言った。「美星、またなに騒いでるの?
「前のことはまだ決着ついてないのよ。すぐに遥に謝りなさい」
「なんで私が彼女に謝らなきゃいけないのよ」
美星は歯ぎしりしながら遥を睨みつけ、清美の方を向いて怒りをあらわにした。
「この厄介者が悪いんだ。
車に乗った途端、お兄ちゃんをまるで魔法にかけたようにして、私を車から降ろさせた。
「それにお兄ちゃんが死ぬなんて言いやがって。明らかに呪いよ、最低だ」
「私が思うに、車から降ろされたことで遥に不満を持ち、わざとそんな汚い言いがかりをつけているんじゃないかしら」
清美は不機嫌そうに言った。娘は何もかもいいのだが、あまりにも純真すぎる。
「お母さん、どうして彼女を信じて、自分の娘を信じないの?
さっき運転手に聞いたわ。彼が直接私に言ったのよ。
「信じられないなら、今すぐ彼に聞いてみて」
美星は告げ口が成功せず、逆に叱られてすぐ爆発しそうだ。
清美は淡々と答えた。「彼女がそう言ったとしても、それは事実よ。
「そうでなければ、私たちがなぜ彼女に兄の厄除けの嫁入りを頼むの」
彼女は是非をわきまえない人間ではなく、遥が何を言ったとしても、悪意はないと確信している。
「彼女がうちに来たのは助けるためじゃないわ。この田舎者は田舎にいた時からいつも喧嘩ばかりして、テストはいつも最下位だったのよ。
奥村家に来てからも怠け者で、お金を使って物を奪うことしか知らない。
「志保さんとの婚約を奪ったのは松本家のお金が目当てで、お兄ちゃんを殺して私たちの遺産を相続しようとしているの……」
美星の遥を見る目は彼女を引き裂きたいかのようだ。
彼女の怒りの言葉が終わる前に、「パン」という音とともに、清美は手を上げて彼女の頬を強く打った。
表情は冷たく、声は鋭かった。「私が甘やかしすぎたのね。だからこんなに礼儀知らずになったのよ。
もう一度言う、今日から遥は義姉よ、松本家の将来の女主人。
「望もうと望むまいと、受け入れなさい」
彼女は、遥を松本家に迎え入れることは遥にとって辛いことだと分かっていた。松本家でさらに辛い思いをするのは絶対に許せない。
美星は火照った頬を押さえ、遥を強く睨みつけた。
彼女は松本家で最年少で唯一の女の子で、これまで皆に甘やかされて育ってきた。
兄たちも清美も一度も厳しい言葉をかけたことがなかった。
今や、遥が入ってきたばかりなのに、次兄は彼女を車から降ろし、清美は彼女のために自分を平手打ちした。
このクソ田舎者め、絶対に許さない!
清美は叱りつけた。「後ろの祠堂で跪いて反省しなさい。過ちを認めるまで」
遥は目を細めた。祠堂?
古代、祠堂は先祖を祀る場所だった。現代人はほとんど家で祠堂を祀ることはないが、松本家はまだそのような習慣を維持しているようだ。
美星が怒って去った後、清美はため息をついて遥に言った。
「辛い思いをさせてごめんね」
美星にどんな中傷を受けても、自分のために弁解することもなく、少しの不満も示さない。
この子はあまりにも思いやりがあり心が痛む。
清美を見送った後、遥は自分の部屋に戻った。
さっとクローゼットを開けると、そこにはさまざまなプリンセスドレスが半分近くのスペースを埋め尽くしている。
遥はしばらく探し、ようやく隅にシンプルなスポーツウェアを見つけ、風呂に入って着替えた。
テーブル上の携帯を手に取ると、画面には99+の通知が表示されている。
メッセージを開くと、4千万円の着金通知以外はすべて同じ人物からのものだ。
イケメン彼女なしからだ。「大師、大師、いらっしゃいますか?」
「大師、本当に神ですね!
父は大師の言葉を聞いて、今日は南側に行かず、遠回りして北側を通りました。
途中で南側の白雲通りで連続事故があったと聞き、救急車が十数台出動したそうです。
「今日は事故を避けただけでなく、長遠会社との長い間滞っていた取引もついに成功しました」
「以前大師を疑ったことは目が曇っていたからです。今日から大師は私のアイドルです!
「私は大師の最も忠実なファンです!」
「大師、4千万円はすでに振り込みました。
最近お時間ありますか?
「父が直接お礼を言いたいそうで、ついでに家と会社の風水問題がないか見てもらいたいそうです」
「大師、大師!」
……
「大師、返事してください」
遥はタオルで濡れた髪を数回拭き、近くのソファに座って手短に返信した。「最近は時間がない」
相手はすぐに返信してきた。「大師、やっと返事をくれました!
「大丈夫です、それなら家と会社の写真を送りますので、まず見ていただけますか」
そう言うと、すぐに写真が次々と送られてきた。
明らかに準備していたもので、家と会社のすみずみまでほぼ撮影されている。
写真を見るだけでは現場で直接見るほど正確ではないが、概要を把握するには問題ない。
遥は各写真を注意深く見た。
「写真を見る限り大きな問題はないようだ。後で時間ができたら現場を見に行く」
「わかりました、大師。6千万円を振り込みました」
次の瞬間、クリアな入金通知の音が鳴り、まるで一秒でも遅れれば考えが変わるのではないかと恐れているかのようだ。
「大師!アイドル!何か助けが必要なことがあればいつでも連絡してください。24時間いつでも対応します!」
遥が携帯を置く間もなく、再び電話が鳴った。
一見すると、詩織からだ。
すでに奥村家を離れた以上、彼らとはもう何の関係もない。
切断し、ブロックするという一連の動きを完了させた。
ついでに志保と蓮の番号もブラックリストに追加した。
意外なことに、昼食と夕食は彼女と清美の二人だけだった。
この結婚を取りまとめたおばあさまと松本家の他の兄弟姉妹は姿を見せなかった。
おそらく健斗の病気のせいで、家の雰囲気は非常に重苦しい。
使用人たちは皆慎重で、大声で話すことさえ恐れている。
夜の帳が降り、遥は部屋に戻り、窓を開け、頭上を見上げた。
頭上の夜空は黒い布で覆われているかのように、月も星も隠され、真っ黒だ。
すべての光が松本家に差し込むと、まるで闇に吸い込まれてしまうかのようだった。
遥は少し考え、手を上げて印を結び、空に向かって押し出した。
彼女の目には、頭上のもともと黒かった霧が瞬時に散った。
数本の光の柱が町のさまざまな場所で輝き、夜空で交差して集まっている。
何かの陣法のように見える。
ただ、この陣法はどこか不完全なようだった。
視界を遮る屋根の軒を見上げ、一方の手で窓枠を支え、足を上げて外に出ると同時に、ブレスレットから細い糸が飛び出した。
つま先で壁を軽く蹴り、数回の跳躍で屋根に飛び乗った。