「いや!」
美月は急に目を見開き、白い額には汗が浮かんでいた。自分の身に着けているウェディングドレスを見下ろし、安堵のため息をついた。
なんだ、悪夢を見ていただけか。
「美月、大丈夫?どうしてそんなに汗をかいているの?」智樹が外から入ってきて、彼女の額の汗を見て、ティッシュを取り出し、身をかがめて優しく汗を拭いてあげた。
美月は彼の目に溢れる優しさを見て、心の不安が少しずつ消えていった。
智樹はこんなに自分を愛してくれているのに、どうして自分を傷つけることをするだろうか!この夢はあまりにも荒唐無稽だ!
「大丈夫、ちょっとうとうとして、悪夢を見ただけ……」
美月の言葉は途切れた。彼女の視線が彼のシャツの襟元に落ち、表情が凍りついた。
彼は今日白いシャツを着ていて、襟の内側に口紅の跡があった。身をかがめなければ、まず見えないだろう。
頭の中に先ほどの夢のシーンが浮かび、全身に悪寒が走った。
「今日は疲れているだろうけど、もう少しの辛抱だ。式が終わったら、すぐに休ませてあげる」智樹は身をかがめて、彼女の額に優しくキスをした。
美月は詰まった喉から苦しそうに「うん」と一言だけ絞り出した。
「少し休んでいて。先に出てお客さんを迎えてくる」智樹の彼女への眼差しは優しく、深い愛情に満ちていた。
彼が出ようとしたとき、美月は突然口を開いた。「智樹、私のスマホのバッテリーがないんだけど、あなたのスマホ借りてもいい?SNSに投稿したいの」
智樹はいつものように躊躇なくスマホを彼女に渡し、彼女の頭を撫でてから、笑顔で部屋を出ていった。
休憩室のドアが閉まると、美月の視線はスマホに落ちた。深呼吸をして、「あなたを信じていないわけじゃない、ただ安心したいだけ」と呟いた。
智樹のスマホのパスワードは二人の記念日だった。ロックを解除すると、壁紙は二人のウェディング写真で、LINEを開くと自分との会話が一番上にあった。
雨音は智樹の友人で、自分は撮影現場で彼女と知り合い、彼女を通じて智樹と出会った。そして智樹に3ヶ月間熱烈に追いかけられて…
LINEのチャット履歴を上から下まで探しても雨音は見つからず、連絡先リストを開いて上から下へと探し、ようやく一番下で雨音を見つけてタップした…
チャット履歴は空白だった。
雨音のタイムラインを開くと、彼女が最近投稿した内容が目に入った:「私はいつもここで待っている」
画像にはシャツと赤いドレスが一緒に置かれていた。
普通の人には気づかないかもしれないが、美月はそのシャツが智樹が今着ているものだと一目で分かった。
彼ら、昨夜一緒にいたのだ。
なのに昨夜電話したとき、彼は友達と飲んでいると言ったはず。
なぜ嘘をついたの?
頭の中で夢の光景が勝手によみがえってきた。
結婚後5年間、智樹と雨音の間には頻繁に噂が流れていた。二人は「ただの友達」と説明していたが、彼は雨音から電話があれば何をおいても駆けつけていた。自分が交通事故で流産し、手術台で処置を受けなければならない時でさえも。
友達なのに、チャット履歴が一つもないの?
それとも、わざとチャット履歴を消しているの?!
美月は震える手でバッグから自己のスマホを取り出し、電話をかけた。「消去されたLINEのチャット履歴を復元できる?」
相手はあくびをして答えた。「そんな子供だましのことで電話してくるなんて、美月、恋愛で頭がおかしくなった…」
言葉が終わる前に、美月は震える声で遮った。「できるの?できないの?」
相手は一瞬黙り、すぐに言った。「ソフトを送るわ。スマホにインストールして、それでLINEを開けばいいだけ…」
美月は電話を切った。すぐにソフトが送られてきて、彼女は智樹のスマホに転送し、インストールしてLINEを開き、チャット履歴を復元した。
見るに堪えない会話の数々を目にしたとき、彼女の目に溜まっていた涙がついに溢れ出した。
智樹は、本当に浮気した。
「美月…」智樹は彼女を迎えに来たのだった、式が始まるところだった。
彼女が泣き崩れているのを見て、胸に不安が湧き上がった。「何があったんだ?」
漆黒の瞳で彼女を見つめ、心配の色が満ちていた。
美月は彼の方を向き、涙に濡れた瞳には怒りと嫌悪が満ちていた!