修也は、数多くの女性が憧れる最高の夫候補だった。お金と権力があり、見た目もよく、前の体の持ち主が彼と結婚したがったのは無理はない。
しかし今でも、彼女のその男についての記憶は、役所で見た一瞬の姿だけにとどまっている。
琴音がまだ考えをまとめているところで、ノックの音が適切なタイミングで鳴り響いた。
ドアを開けると、和行の妖艶な顔が突然視界に入ってきた。
その時、彼は不機嫌そうな表情をし、悪態をついて急かした。「食事だ、急げ」
琴音はすぐには返事をせず、自分を指差して、「私は誰だ?」と聞いた。
この女、病気か?自分が誰だかも分からないのか?
「聞いてるの、早く答えて」
彼女の突然の叫び声に、和行は一瞬戸惑った。「小島、小島琴音」
「それから?」
「次兄の妻」
もっとも、次兄は認めてないけどな。
琴音は彼の目に一瞬よぎった嘲笑を見逃さなかった。冷酷な笑みを浮かべて言った。「名門の子弟たるもの、基本的な礼儀や言葉遣いはわきまえておくものよ。今後は『義姉さん』と呼びなさい」
そう言うと、悠然と階下へ歩き始めた。
和行はその場に立ちすくんだ。彼は……
また琴音の威圧に飲まれたのか?
テーブルは非常に大きく、たくさんの美味しい料理が並べられていた。
琴音は個人の教養を重んじる山賊で、必要な礼儀作法は欠かさなかった。
和行が席に着くと、琴音が非常に優雅に食事をしている姿が目に入った。
その動作はゆったりとして気品に満ち、ドラマに出てくる中宮のようで、見ている者をうっとりとさせる。
「おい、君は武術が得意なのか?」
しばらく琴音からの返事がなく、和行は眉をひそめ、ますますこの女が傲慢だと感じた。
「聞いてるんだよ!」
スープを一口飲み、テーブルの上のナプキンで口元を拭いてから、琴音はようやくのんびりと口を開いた。「食事中はものを言わぬものよ。その程度の常識も持ち合わせていないの?」そう言って、彼女は目を向けた。「それに、私はあなたの義姉よ。弟を殴ったところで、とがめられるいわれはないわ」
「……」
こんな傲慢な女は、絶対に野村家に残して次兄を困らせてはならない。
和行が密かに琴音を追い出す計画を練っていると、外から突然女性の金切り声が聞こえてきた。
琴音にイライラしていた和行は、箸をテーブルに叩きつけた。「誰だ、命知らずで野村邸に乗り込んできたのは」
執事が慌てた様子で走ってきて、不安気に和行を見た。「和、和行様、門の外にまた女性が来て、あなたの子供を妊娠したから責任を取れと言っています。さもないと……」
和行は顔色を変えた。「さもないとどうする?」
「メディアにこの件をばらまくと」
おや?
琴音はフルーツジュースを一口飲んで、腕を組んで椅子に寄りかかった。「意外ね。和行様は家のためにこんなに考えて、早々と子孫を残していたなんて」
人の弱みに付け込んで、この腹黒い女!
和行は歯の間から言葉を絞り出すようにして言った。「子供は俺のじゃない」
「あなたの子かどうか、会えばわかるでしょ?」そう言いながら、ソファに向かって歩き出した。「清水さん、未来の義妹を中に通してください」
「小島!琴音!」
琴音は和行を無視し、入り口で躊躇する執事に冷たい視線を向けた。「どうやら野村家の次男の妻である私の言葉には、何の権威もないようね」
「琴音、何のつもり?あの女は明らかに金目当てだ。俺がそんな簡単に外で種を残すような男に見える?」
「あなたはそうじゃないの?」琴音は反問した。
和行は自尊心を傷つけられた。
来た者はモデル風で、スタイルが良く、セクシーな格好をしていた。和行を見ると、いきなり哀れっぽく泣き始めた。「和行様、あなたの家のような大家族が私のような身分の女を軽蔑するのは分かっているけど、子供は無実なの!あの使用人たちは、私に手荒な真似までしようとしたのよ!」