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「パパ、泣かないで。杏子が拭いてあげるから痛くなくなるよ」
「ママが毒を入れたのは悪いことだけど、杏子はずっとパパのそばにいて、パパを守るからね」
意識が戻ると、10歳の娘がすぐに二階から降りてきて、私の隣に寄り添い、ティッシュで私の顔の血を拭いてくれていた。
その瞬間、体中の痛みがすべて消えたような気がした。
この7年間、もし杏子が思いやりを持ってくれていなかったら、私はどうやって耐えてこられたのか分からない。
しかし寝室に戻ると、娘が木村美咲にこっそり電話をかけているのが聞こえた。
「ママ、安心して林田おじさんと一緒にいてね。私がもうパパをなだめたから」
「林田おじさんに伝えてね、杏子もママと同じように彼女のことを愛してるって。7年前、もしパパが林田おじさんに腎臓を提供する気があったなら、彼女は死ななかったのに。パパは林田おじさんを殺した犯人なんだって!」
電話の内容に、私はその場に立ち尽くした。
まるで鋭い錐で心臓を刺されたような気分だった。
自分の実の娘がこんな言葉を口にするなんて、想像もしていなかった。
息ができないほど胸が痛んだ。
7年間、娘のために美咲が何度も毒を盛るのを耐え忍んできた。
だが今、私のすべての忍耐は一瞬で崩れ去った。
この家には、私が未練を持つべき人など誰もいなかったのだ。