信三は言葉を聞くと、困ったように言った。「お爺さん、こちらがあなたを救った瑞穂だ」
石川お爺さんの表情ががっくりと崩れ、この世のものとは思えぬ美しさの瑞穂を見つめ、次に孫の信三へと視線を移す。見れば見るほど、二人が天から添い遂げさせたかのような絶妙な釣り合いを感じずにはいられなかった。
今は孫の嫁にならなくても、将来も絶対にならないとは限らないだろう。
そう考えると、石川お爺さんの心の中に、花が咲いたような甘美な幸福感が広がっていった。
元々威厳のあるお爺さんだったが、今は顔が花のように笑みで満ちていた。
瑞穂:??
優しいお爺さんの態度に戸惑ってしまった。
瑞穂は、まるで人さらいに遭遇したような既視感を覚えた。
信三は眉をひそめた。一目見ただけで、お爺さんが何かを企んでいることを悟った。
石川お爺さんは人を惹きつける魅力に満ち、口元から目尻まで笑みをたたえて言った。「瑞穂ちゃん、わしを救ってくれてありがとう。わしの命は君が救ってくれたんだから、きちんとお礼をしなければならないね」
瑞穂は落ち着いた態度で答えた。「石川さんはすでに治療費をお支払いくださいました。お気遣いなく、医者として病気を治し命を救うのは私の務めです」
石川お爺さんは病床の枕もとに寄りかかり、気品ある物腰と礼節正しい態度の瑞穂を見つめながら、満足感が胸に満ちてほっこりとした笑みを浮かべた。
「それではいけない、君はわしの命を救ったんだから、きちんとお礼をしなければ。瑞穂ちゃん、恋人はいるのかい?」
瑞穂は石川お爺さんの質問に一瞬表情を固めたが、期待に満ちた眼差しの中で答えた。「いいえ」
石川お爺さんを見ると、瑞穂は自分の師匠を思い出し、だからこそ質問に答えたのだった。
師匠も同じように優しい顔をしていて、瑞穂はふと師匠の面影を慕わしく思った。
信三は瑞穂の困惑を察し、冷たく言った。「お爺さん、もう大丈夫そうだね」
石川お爺さんは不機嫌そうに信三を睨みつけ、また瑞穂に笑顔を向けて言った。「瑞穂ちゃん、わしの孫はどう思う?信三は今年二十五歳で、悪い癖も一切なし。君はわしを救ってくれたんだから、この小僧に身を挺して恩に報いさせてはどうだい?」
瑞穂:…
信三:…
二人が並んで立つと、本当に似合いのカップルに見えた。
瑞穂は苦笑いしながら言った。「石川お爺さん、もうお元気そうなので、私はこれで失礼します」
彼女はまだ実の両親の家に戻っておらず、道中で少し時間を取られていた。
瑞穂は一方的に言い残すと、すぐに立ち去った。
信三は颯爽と歩を進め、長く真っ直ぐな両脚が俊足で距離を詰めた。「瑞穂」
瑞穂は立ち止まり、振り返って男の漆黒で鋭い眼差しと向き合った。
信三はスマホのロックを解除し、電話発信画面を表示したまま瑞穂に差し出した。「祖父の容態が不安定だ。お手数ですが、緊急時でも連絡が取れるようにご連絡先をいただけないか?」
瑞穂はスマホを手に取り、自分の電話番号を入力すると、くるりと背を向けて颯爽と歩き出した。
信三はスマホを握りしめ、鋭い眼差しで瑞穂の後ろ姿を見つめ、彼女がある男の側で立ち止まるまで見守った。
瑞穂が運転手の大野おじさんと二言三言話し、二人で歩き出した。
吉野さんは一瞥して信三に言った。「石川さん、あの人は白石家の運転手のようです」
白石家の運転手がなぜこの凄腕の神医と一緒にいるのだろう?しかも、彼女は白石家の四番目のお嬢さんではないはずだが。
信三は黙ったまま、瑞穂の姿が視界から消えるまで見つめ、スマホの番号を確認してから病室に戻った。
石川お爺さんの機嫌は良くなかった。特に信三が一人で入ってくるのを見て、さらに悪くなった。
石川お爺さんは鼻息荒く孫を睨みつけ、ぶつぶつ言いながら毒づいた。「じろじろ見るな!いくら見つめても、お前は所詮独りぼっちのままだぞ!」
信三:「お爺さん、あなただって一人じゃないか?」
石川お爺さん:…
「このガキが!一人前になったと思ったら、よくもわしを独り身じじいだと笑いものにできるな!」
「お爺さん、事実を言っただけだ」
石川お爺さん:「この生意気な小僧、高橋家との婚約、本当に履行するつもりはないのか?」
信三:「お爺様、今は昔じゃないんだ。胎内にいる時から決めた縁談など、俺の同意を得たのか?あれはあなたが高橋お爺さんとの約束事で、俺には一切関わりないんだ」
石川お爺さんは首を振った。「お前は高橋家の娘に会ったこともないのに、どうして彼女がダメだと分かるんだ?」
信三:「彼女がどんなに素晴らしくても、俺は同意しないよ」
石川お爺さんは顔を青くし、怒って問いただした。「まさか、以前お前を追いかけ回していたあの小娘が好きなのか?」
信三の顔に冷徹な機械のような無表情が走り、声には微塵の感情もなかった。「あの女に価値などあるのか?」
石川お爺さんは机を叩き割りたくなるほどの怒りで、信三の無関心な様子を見ると、震える指先を孫に向けて詰め寄った。「なら一体どういうつもりだ?追いかけてくる娘も嫌なら、高橋家の許婚も嫌だ?ならいったい誰が好みなんだ?さっきの娘のことか?まさかお前…ゲイなんじゃあるまいな!?」
信三は鋭く冷たい眼差しのまま言った。「お爺さん、もう大丈夫そうなので、先に失礼する」
信三は颯爽と足早に立ち去り、石川お爺さんは逆上せんばかりの形相で病院のドアを睨みつけた。
彼は銭形おじさんを呼び、瑞穂が一体どんな人物なのか探るよう頼んだ。もしかしたら孫の嫁として連れ戻せるかもしれない。
…
再び車に乗り、車は白石家に向かって走った。
白石家の別荘は麗水湾の近くにあり、山と水に囲まれ、空気が新鮮で環境も静かだった。
車が別荘の門前に停まると、大野おじさんは丁寧にドアを開けた。「お嬢さん、お帰りなさい」
瑞穂はバッグを背負い、車から降りると、このゴシック様式の別荘を見て驚いた。
実の両親はこんなにお金持ちだったのか?本当に億万長者だ!
瑞穂の視線は玄関に立つ夫婦に向けられた。気品のある中年のハンサムな紳士と、よく手入れされた涙目の美人。夫婦二人が並ぶと、とても目を引く光景だった。
白石洋一と田中心の視線も瑞穂に注がれ、実の娘を見て熱い涙があふれた。
瑞穂の眉目には千里の先を見据える戦略家の確信が宿り、きらめく瞳は宝石のように星々を内包した輝きを放っていた。
落ち着いた態度は、まるで大きな場面に慣れているかのようだった。
玄関先に立った白石洋一と田中心は、興奮して瑞穂に歩み寄った。
心は瑞穂を抱きしめ、涙を流した。「私のかわいそうな娘よ!」
洋一は目を赤くし、瑞穂の顔を見つめ、声を詰まらせた。「帰ってきてくれて良かった、本当に良かった」
実の両親の感情が顔に表れているのを見て、瑞穂は少し居心地の悪さを感じた。
彼女はこれまで母親にこんな風に抱きしめられたことがなかった…こんな優しい声も聞いたことがなかった。
心は瑞穂の柔らかな頬の輪郭を目でなぞりながら、目尻を潤ませた。
瑞穂は心と洋一の容貌の優れた特徴を継承しつつ、それを凌ぐ美しさを備えていた。彫琢されたような顔立ちに、ぶどうのように丸く潤んだ瞳——その肌は雪のように白く、清らかで力強い眼差しはきらめく星々を宿し、静謐な輝きを放っていた。
「瑞穂、さあ、家に入って休みましょう。母さんがお昼ご飯を用意したから、家族みんなでゆっくり食事をしましょう」
心は興奮と喜びで瑞穂の手を取り、洋一は瑞穂のバッグを持って、一緒に家の中へ入っていった。