Chapter 3: 二人ともろくでなし
Editor: Pactera-novel
彰人は笑った。
「あれから何年経ったかな。父さんは彼女に上品な奥様の在り方を教えるどころか、逆に彼女に振り回されている。賢い妻を娶るべきだったのに、結局は間違った人を選んだのですね」
福田恭介は不快そうに反論した。
「誰と結婚するかは私の自由だ。当時、お婆上がお前に岡本詩織と結婚するよう言った時、お前は喜んでいたし、私も何も言わなかった。高橋奈緒は私が正式に迎えた妻だ。彼女のことを尊重してほしい」
彰人は眉を上げた。
「彼女は俺の妻を尊重しないのに？」
恭介は言葉に詰まり、目の光が暗くなった。
「彰人、お前は福田家の跡取りだが、それでも私はお前の父親だ。私がいなければ、お前もいないのだぞ」
彰人の眼差しが少し暗くなった。
詩織は彼が躊躇したと感じた。
彰人が彼女のために父子関係を犠牲にするはずがない、何しろ彼らは血の繋がった家族なのだから。
彼女は嘲笑うように口角を上げてベッドから降りようとしたが、彼に押さえつけられた。
「医者は動いていいとは言ってないぞ？」
詩織は疑問に満ちた表情を浮かべた。
恭介は眉をしかめた。
彰人は淡々と続けた。
「父さん、妻は何も悪くなかった」
詩織の胸が少し動いたが、すぐに考え直した。
高橋は周到に計画して福田家に嫁ぎ、夫を通じてお金持ちの妻になろうとしたが、お婆様が直接孫に継承権を与えてしまった。それで彼女の福田家での立場が微妙になり、詩織をいじめることでしか威厳を示せない。
しかし自分が高橋に頭を下げれば、それは福田家の未来の権力者が高橋に屈服することを意味する。
だから彰人が彼女に謝罪を許さないのは、実は自分の面子を守っているだけなのだ。
以前は彼を愛していた時には余計な妄想でいい方向に捉えるが、今やその妄想が剥がれ落ち、何を見ても現実が目に痛いほど鮮明に映る。
「彰人、謝罪すれば解決するような、取るに足らない些細なことだぞ。どうして家族の仲を壊すまで頑固になるんだ？」
「父さんが自分の妻をちゃんと管理しておけば、家族仲は自然とよくなる」
父子が頑固に対峙している時、本家の執事が突然やって来た。
「恭彦様、福田社長、お婆様がお二人に本家へ戻るようにとのことです」
この話がお婆上の耳に入ると、もう収拾がつかなくなる。
恭介が何か言おうとした時、執事は彼に向かって頭を下げた。
「恭彦様、奥様はすでに本家へお連れしました」
「なんだって？彼女はまだ経過観察中で、脳震とうの可能性は否定できない状態だぞ。どうして退院させたんだ！」
恭介は急いで出て行った。
「若奥様も体調が許せば、一緒に本家へいらっしゃるとよいでしょう」
執事は付け加えた。
詩織はこの結婚についてある計画を考えておいたから、ちょうど大奥様の様子を探りたかった。
「わかった、行くわ」
彼女がベッドから起き上がろうとしたが、彰人に抱き寄せられた。
「またわがままするのか？今度はICUに戻されるぞ？」
詩織は今、彼に自分の計画を知られるわけにはいかない。
「お婆さまに高橋の一方的な言い訳だけ聞かせるわけにはいかないわ」
「俺がいる限り、そんなことはさせない」
詩織は冷笑した。
「どうせまた私が死に際に立ち会ってから、福田社長が助けに来るんでしょ」
彼女の心は、どうしても納得できない。
彰人はため息をつき、彼女に答えなかったが、上着を彼女の肩にかける動作で、彼女の同行を同意した意思を示した。
詩織の目が熱くなった。
もし彼女を単なる物としか見ていないなら、なぜこんなに優しくするのだろう？
こんな感情は人を傷つける。
途中、二人は何も話さなかった。
本家に着くと。
恭介夫婦の姿はなく、大奥様が一人で客間にいた。
詩織の身に着けた上着を見て、大奥様の目の鋭さが一瞬で和らいだ。
「詩織、書斎へ行こう」
彰人は何も言わず、ついていこうとした。
大奥様は足を止めた。
「あなたは呼んでないわ。外で待っていなさい」
彰人は笑って説明した。
「俺が行かないと、彼女が勝手なことでチクるから」
福田大奥様は彼が妻を心配していることを理解し、笑みを浮かべた。
「安心しなさい。ここであなた以外に、あなたの妻をいじめられる人はいないわ」
最終的に、彼は部屋の外で待たされた。
大奥様は若い頃キャリアウーマンで、今は72歳だが耳も目も冴えており、話し方もはっきりしている。
詩織が座るとすぐ、彼女は事前に用意してあったヨモギのお茶を彼女の前に出した。
「重傷で入院しているのに、彰人がそばにいなかったのは彼の間違いだったわね。でも男というのは一つの原石のようなものよ。それを磨き上げるのは妻の腕次第よ」
病室での二人の口論が全て大奥様の耳に入っていたことに、詩織は少しも驚かなかった。
大奥様のような人と話すのに遠回りする必要はない。
「おばあさま、四年前、彼が愛してはいけない人を愛してしまったから、その二人を引き裂くために私を選んだのですか？」
大奥様の目は鋭く、表情は測り難かった。
「誰がそんなデタラメを言ったの？」
四年前、彼女は高橋奈緒が彰人の結婚に口を出すのを阻止するため、医療費に悩む詩織を病院で「偶然」出会い、多額の金銭で結婚を成立させた。
だが誰も予想していなかったのは、いつも鼻高々だった彰人が詩織に一目惚れしてしまうことだった。
特に結婚後、彼の詩織への寵愛は周知の事実となり、大奥様自身も自分が良縁を成就させたと思っていた。
しかし予想外のことに、わずか四年で異変が起きるとは。
「彰人があなたと結婚する前に彼女がいたことも、婚約者がいたこともないわ。この数年間の彼のあなたへの愛は、私もちゃんと見ていたわ。夫婦の間で大切なのは信頼よ」
詩織は彼女が自分の質問をかわしていることを察した。
「でももし……彼が演技をしていたとしたら？」
大奥様の表情が急に険しくなった。
「そんなことはありえない！私がいる限り、福田家の風紀を乱すことは許さないわ！」
しかしあの彰人のことだ。喜怒哀楽を表に出さず、腹の底が見えない男だ。
彼が何かしようとすれば、誰に止められるというのか？
詩織は目を伏せ、黙り込んだ。
福田大奥様は彼女の性格をよく知っている。
この子は穏やかに見えるが、骨の髄まで頑固な気質を持っている。
彼女の心配を取り除かなければ、孫のそばに安心して留まることはないだろう。
そして、大奥様は立ち上がり、執事に電話をかけた。
「みんな入ってもらいなさい」
書斎のドアが開き、恭介夫婦と彰人がすでにドアの前に立っている。
恭介が中に入りながら言った。
「母上、その程度のことで、こんな夜中までご心配をかけるんですか……」
「あんたの妻を跪かせなさい！」
大奥様は厳しく彼の言葉を遮った。
高橋はすぐに恭介の腕をつかみ、夫に庇いを求めた。
「母上、子供たちの前ですよ。私たちの面子を立ててください」
恭介は説得した。
大奥様は彼を斜めに見た。
「詩織が病室で治療を受けている時に、あんたの妻が男を連れて押し入ったわ。その時、子供たちの面子を立てた？」
恭介は大奥様が詩織の味方をしようとしていることを察し、急いで戦術を変え、妻を批判し始めた。
「奈緒、跪くんだ。考えなしに行動したお前が悪いんだ！詩織が彰人にとって大切な人だとわかっていながら、他人の挑発に乗って。今日は母上の怒りが収まるまで跪き続けろ！」
しかし高橋は夫の罪を軽くする言い方に変える作戦を理解できなかった。
彼女は泣きながら跪き、非常に不満そうに言った。
「彰人が詩織のようなあばずれを、本気で好きになるはずないわ！彼が本当に好きなのは、うちの優しくて愛らしい美雪のことよ」
恭介は彼女の言葉に驚いた。
「美雪と彰人は血のつながりはないかもしれないが、義理の兄妹も兄妹だ。よくもそんな無茶苦茶なことを口にできたな？」
高橋は自分が失言したことに気付かず、なおも言い続けた。
「嘘じゃないわ。美雪がうつ病で自殺しようとした時、彰人はオールボーまで飛んで行って、日夜看病したけど、なかなか効かなかった。だからきっと美雪を連れ戻すつもりよ。彼が詩織と結婚したのも、うちの美雪のためじゃなかったの？彼らは…」
「正気を失ったのか！それ以上何も言うな！」
恭介はすぐに彼女の口を塞いだ。
しかし彼女の発言は、十分なことを伝えた。
彰人は強気な性格で、本来なら説明したくはなかったが、高橋の言葉は彼にとって大きな陥れだった。
彼は詩織を見て説明しようとしたが、詩織は彼に一目もくれず、大奥様に頭を下げて言った。
「おばあさま、もしあなたが止められないような事情なら、私を……」
自由にしてほしいという言葉は口から出なかった。「ガシャン」という音と共に、大奥様は険しい表情でナイフを彼女の前に投げた。
「この二人ともろくでなしだね。これを取って、彼女の舌を切ってから、あなたの夫を去勢しなさい！」
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