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0.46% 悪役ですが、死んで成り上がる / Chapter 1: 死に向かって生きる
悪役ですが、死んで成り上がる 悪役ですが、死んで成り上がる

悪役ですが、死んで成り上がる

Author: アヒルと鶴が頭を振る

© WebNovel

Chapter 1: 死に向かって生きる

Editor: Pactera-novel

「初めて、転生というやつが出来た。おまけにとんでもない貴族の御曹司ができた。

嬉しいことが二つ重なって。その二つの嬉しさが、また、たくさんの嬉しさを連れてきてくれて。

夢のように幸せな時間を手に入れたはずなのに…

どうしてこうなるんだろう」

馬鹿みたいに明るい公爵城に、まるで他人事のように冴え渡った月光が降り注ぐ。

タロ・タリスは寝室の窓辺に立っていた。上質なシルクの寝間着をまとい、手にはフィドラ魔法学校からの入学許可証。その視線は、満月に向かって遠ざかっていく褐色のフクロウを追っている。

ああ、来るべきものが、来てしまった。

冬の寒風が窓の隙間から忍び込み、整った顔を撫ぜ、しなやかな金髪を揺らす。だぶついた寝間着がそれに合わせて軽く翻った。

骨身に沁みる寒気にも、タロはまるで気づかない様子で、思考の海に沈んでいく。

前世は経済的自立を目指す、しがない社畜だった。いつものようにボスの新車のために徹夜で身を粉にしていたとき、不意に襲ってきた睡魔に負けて、ほんの少しうたた寝をした。

それで、転生した。

どこぞのウェブ小説に出てくるような孤児院の出身だ。タロにとって、未練もなければ、しがらみもない。特に問題はなかった。

自分がどれほど悲惨で、救いのない境遇に置かれているのかを、ゆっくりと、しかし確実に理解するまでは。

今のフルネームは、タロ・タリス。帝国大公爵の一人息子。

本来なら、転移者にとってこれほどの身分は、ガチャでSSRを引くようなものだ。

問題は、ここがゲームの世界で、与えられた役回りが、よりにもよって悪役だったことだ。

ゲームに存在する百を超えるルートの、そのほとんどで無残な死を迎える、そんな悪役。

ご丁寧にも、タロの幾十もの死に様をまとめた動画が、『タロお兄ちゃんの死亡芸術』なんてタイトルで投稿され、数百万再生を稼いでいる始末だ。

例外もある。公式が定めた真のエンディング。そこでは、終盤に邪神に体を乗っ取られ、ラスボスと化す。生きることも、死ぬことさえも許されない、最悪の結末が待っている。

手の中の封筒に視線を落とす。乳白色の地に、隅には金色の箔押し模様。指先に、上質な紙の感触が伝わってくる。

封蝋には、フィドラ魔法学校の紋章。ここが、ゲームの物語が始まる場所。

いっそ全てを投げ出して、この学校に行かずに、定められた運命から逃げ出すことも考えなかったわけではない。

残念ながら、ゲームのシナリオに関する彼の知識は、あまりにも乏しかった。

プレイする前に、ヒロインたちがことごとく酷い目に遭うというネタバレを食らってしまい、この社会現象とまで言われた大ヒットゲームに興味を失せ、ダウンロードすらしなかったのだ。

シナリオ通りに学院へ入学しなければ、待っているのはさらなる未知だけだ。

それに、まだ完全に詰んだわけじゃない。タロにも、多くの転移者に授かれた恩恵が与えられていた。

システム。

もっとも、現状では基本的なステータスと所持品を表示するだけの、ただのポンコツ表示パネルでしかなかったが。

彼は、無造作に自身のパーソナルパネルをスワイプする。

【名前:タロ・タリス】

【年齢:十四歳】

【種族:人間】

【位階:シルバー】

【精神:不詳】

【実力:ダークアイアン上級】

【道徳:柔軟】

シルバーの位階はタリスの血がもたらした天賦の才であり、これによってタロはシルバー位階以下の魔法の呪文を常人よりも速く習得することができる。

だが、ダークアイアン上級という、一般人より毛が生えた程度の実力評価では、タロに一片の安心感も与えてはくれない。

それにこの道徳だ。少し前までは「鑑定中」だったはずなのに……。自分の、一点の曇りもない品格はシステムにも計り知れないということか、などと思っていた。

柔軟ってなんだよ、それ。産まれてこの方、道に落ちている物は拾わず、横断歩道では必ずおばあさんを助け、いかなる時も道徳の最低ラインを死守してきた新時代の模範青年が、なんでこんな評価をされなきゃならないんだ。

タロは心の中で鼻を鳴らした。

気を取り直し、アイテム欄を開く。そこに、彼の真の希望が眠っている。

【魔眼(未覚醒)】

【神秘の門】

魔眼もまたタリス家の血筋に由来するものだが、覚醒前は常人の眼と大差ない。重要なのは、この【神秘の門】だ。

転生してからというもの、タロは時折、夢うつつの狭間で、灰色の霧が渦巻く無限の空間を知覚していた。その空間の真ん中に、一つの扉が聳え立っている。

扉の具体的な姿。色も、形も、大きささえも感知できない。ただ、心の奥底で、漠然と、しかし確信をもって、それが「門」であると理解していた。

当初はシステムと何か関係があるのかと推測したが、後にシステム自身がこれを鑑定対象としているのを見て、この門こそが自分のチート能力なのだと、タロが悟った。

って、いつの間に鑑定終わってたんだ?通知くらい寄越せよな。

【ホストによる通知サービスの設定がありません。】

タロの口元がひくついた。ツッコミたい衝動を、彼はぐっとこらえる。

そして、逸る心を抑えながら、詳細をタップした。

【名称:神秘の門】

【タイプ:特定不能】

【位階:特定不能】

【源泉:ホストの精神】

【効果①:ホストが目を閉じ、この門を心に思い描く時、過去のあらゆる経験と知識を任意に閲覧できる。】

【効果②:この門は至高への道の顕現である。肉体の死を迎えた後、ホストはこの門に入り、無上の神秘の力を獲得する。】

【備考①:その他の効果はホストの成長に伴い、選択的に開放される】

【備考②:自殺者、強盗、親殺し、窃盗、他人を貶める者は、この門に入ることを許されない。】

タロの視線は、効果②に釘付けになっていた。呼吸が重くなる。一度見たものを忘れないという、バグ級の能力のことなど、もはや頭になかった。

「よくやった!よくやったぞ、お前!」

これまでのポンコツという印象は完全に吹き飛んだ。いける。タロは、そう確信した。

システムとの対話を続けるうち、多くのことが明らかになった。

この神秘の力は、彼の本質が完全に受け入れられるものであり、いかなる副作用もないという。

ただし、自殺は厳禁。意図的に死を招くような行為も禁じられている。

これにより、どこかの殺人鬼を挑発して殺してもらい、その場で復活して最強になる、などという安易な考えは打ち砕かれた。

だが、死ぬだけでいいのだろう?百を超える死亡フラグと、数十種類の死に様を持つ、この正真正銘の悪役にとって、シナリオ通りに進めば、それは遅かれ早かれ訪れる運命だ。

備考にあった立ち入り禁止の条件についても、門が見えている限り、資格を失ってはいないということだろう。

それらの条件を見るに、どうやらこの門も、自分と同じく、優れた価値観をお持ちのようだ。

残された最後の問題は、どういうわけか自分に取り憑く、あの邪神という名のラスボスだ。

ネットの掲示板で得た断片的な情報を思い返す。原作で邪神に憑依されるのは、確か4、5年後のことだ。まだ時間はある。

それまでに死んで、天下無敵の神秘の力を手に入れさえすれば、邪神がしゃしゃり出てきたところで、泣いて逃げ出すまで叩きのめしてやれる。

転生してからの戸惑い。現状を把握した後の、先の見えない不安。どうすれば定められた運命を変えられるのか、来る日も来る日も考え続けた。

そして今、ようやく、ほんの少しの安堵を手に入れた。

状況は打開された。前途は洋々だ!

今のタロの気分は、まるで新品のパンツで元旦の朝を迎えた時のように、晴れやかだった。


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