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「ふん!金もないくせにこんな高級な場所で店舗を見に来て、あたしたちの口の無駄遣いよ」
「ほんとよね、毎日貧乏人がいろいろ聞きに来て、聞いただけで音沙汰なし、成績が可哀想だわ」
「でもあの女性、すごく美人で気品があると思わない?あんなにラフな服装じゃなかったら、モデルだと思ったわ」
黒羽市宏栄プラザ賃貸センター、ここは市内で最も繁華な場所の一つだ。制服を着た女性従業員たちが去っていく背中を見ながら絶え間なく話していた。
温井桐子(ぬくい とうこ)はあまり遠くに行かず、彼女たちの会話がぼんやりと聞こえ、自分のことを話していると分かった。彼女は微笑んだ。
桐子はバッグを背負い、強い日差しのため、目を半分閉じて怠そうに人混みを歩いていた。穏やかさが度を越しているほどだった。
焼けるような太陽は大地を美味しい食べ物のように焼き続け、通りの人々は傘を差していたが、彼女だけは何も持たず、まるで異質な存在のようだった。
「こんにちは、レモンティーをください」
桐子はCCミルクティーの店の前で立ち止まり、静かな声で注文した。その声は清らかな泉のようで、この夏の日にさざ波を立てていた。
店員は男性で、桐子を見た瞬間明らかに驚き、我に返ると顔が真っ赤になった。
「かしこまりました、少々お待ちください」
桐子は気にする様子もなく、スマホを取り出してWeChatで支払いをしようとしたとき、突然電話がかかってきた。眉を上げて、応答ボタンを押した。
「桐子、どこにいるの?」電話の向こうから明るく快い女性の声が聞こえてきたが、少し元気がなかった。
「宏栄プラザにいるよ」桐子はすぐに電話を切れそうにないとわかり、片手でバッグを開けて財布から現金を出して支払うことにした。
「あら、まだ場所見つからないの」
「うん」桐子は淡々と返事をした。山口佳奈(やまぐち かな)の今日の様子がどうも良くなさそうだと感じ、「どうしたの?」と尋ねた。
「最近うちの会社がプロジェクトの宣伝カタログを撮影することになってね、でもうちの社長が神様でも怒るほど細かくて、もう黒羽市の写真家をほとんど頼んだのに、まだ満足する写真が撮れないのよ」佳奈は憤慨して言った。
桐子はその愚痴をきいているうちに、眉間に笑みが浮かんだ。幼い頃からの友人はいつも優秀で、仕事能力が高く、今は会社の広報部副マネージャーをしている。彼女をここまで追い詰める人がいるなんて想像しにくかった。
「それで?」桐子はすでにこの電話の目的を薄々感じていた。
「温井お嬢さん、そんなに頭がいいのに分からないの?」
「カメラ持ってないよ」桐子は断る気でいた。
「うちの会社にあるから。住所はメールで送るね。じゃあ、忙しいからこれで」
「……」
そして、プツプツという音と共に電話は切れた。
桐子が断ろうとした言葉は喉に刺さった魚の骨のように出てこなかった。彼女は笑うべきか泣くべきか悩んだ。プロの写真家でもダメなのに、素人の彼女が撮った写真が大丈夫なのだろうか?
しかし彼女はあまり深く考えず、佳奈の好きなミルクティーをもう一杯注文し、タクシーを拾って向かった。
……
桐子は幸運にも渋滞に遭わず、約10分ほどで佳奈が教えた住所に着いた。
車を降り、目の前にそびえる30階以上もある高層ビルを見上げた。出入りするビジネススーツの男女を眺め、時折投げかけられる奇妙な視線を受けても、気にせずミルクティーを持ってさっそうと中に入っていった。
通常、会社の立地が良いほどその会社の実力も強いということだ。佳奈によれば、このビルの30階以上は全て彼女の会社が占有しているという。