Chapter 11: 第11章 あなたが堕ろした子供は誰のもの？
「よし！篠原詩織、お前の望みを叶えてやる」
相馬彰人はペンを取り上げ、離婚協議書の署名欄に自分の名前を書いた。
彼のペンさばきは力強く、その署名は私たちが婚姻届を提出した日と同じように、依然として美しかった。
これが私たちの名前が最後に一緒に記されることになるだろう。
彼が署名したのを見て、私の心にあった重荷がようやく下りた。
私はその協議書を手に取り、立ち上がった時にふらついて、もう少しで転びそうになった。
頭がクラクラして、全身に力が入らず、彰人の顔さえぼやけて見えた。
テーブルを支えにして立ち直り、協議書を自分のバッグに詰め込んでから、桐山陽介に電話をして迎えに来てもらった。
これらを全て終えると、もう力が残っていなかった。
テーブルを支えにして一歩一歩外へ向かって数歩歩いた後、振り返って相馬のお爺さんを見た。
彼は心配そうに私を見つめており、しわだらけの顔には悲しみが満ちていた。
「お爺さん、時間があったら会いに来るわ」
そう言って、私は再び前に向き直ったが、バランスを崩して地面に倒れ、手に持っていたバッグも床に落ちた。
さっきの慌ただしさで、バッグのファスナーを閉め忘れていて、中身が床に散らばった。
その中には、私の診察券もあった。
流産手術を受けたばかりの診察券。
それが床に落ちているのを見た瞬間、私の心臓が締め付けられた。手を伸ばして取ろうとしたが、誰かに先に拾われてしまった。
彰人は眉をひそめて「これは何だ？」と言った。
私は手を伸ばして奪おうとした。「返して！あなたには関係ないわ！」
でも遅かった。彰人は診察券を開き、私の手術記録を見てしまった。
彼はほとんど衝撃を受けたように尋ねた。「お前、中絶手術をしたのか？誰の子だ？俺の？」
私は唇を噛み、体はぐらつき、力なく言った。「あなたには関係ないわ。物を返して。彰人、もう私たちには何の関係もないでしょう。あなたには私の物を見る権利はないわ！」
「中絶手術？どういうことだ？」
相馬のお爺さんも近づいてきたが、彰人は私の手首をぐっと掴み、低い声で怒鳴った。「詩織、はっきり言え。お前が下ろしたのは誰の子だ？俺の子なのか！それとも奴の子か！」
彼は入口を指差した。ちょうどそこに陽介が現れた。
私を見ると、陽介はすぐに近寄ってきて、彰人の手から私を引き離し、心配そうに尋ねた。「大丈夫？詩織、平気か？連れて行くよ」
「はっ、だから俺と離婚したかったのか。お前はとっくに奴と出来ていたんだな？」
彰人は診察券を私の前に投げつけた。「篠原詩織、お前はそんなに安っぽい女だったのか？」
「そう、安っぽいわ」
私は顔を上げ、冷静に彼を見つめた。「あなたも下劣じゃない？白石優香とあんな関係なのに、私だってできるわよ」
彰人は言葉を失い、長い沈黙の後、私をじっと見て一言一言はっきりと言った。「教えろ。お前のお腹の子は誰の子だ？」
「あなたの子よ」
私は隠すことを選ばなかった。この時点で、隠す必要もなかった。
「二ヶ月よ」
「なぜ俺たちの子を下ろした！」
彰人は首を振り、珍しく悲しみと怒りが顔に浮かんだ。
「桐山と一緒になるため、俺と完全に縁を切るために、一つの命まで傷つけるのか？」
「傷つけたのはあなたよ、私じゃない」
私は冷笑した。「昨夜、言ったでしょう。お腹が痛いって言ったのに、あなたは気にも留めなかった。違う？あなたの目には優香しか映っていなくて、私なんて全然見えていなかったじゃない！」
「——」
彰人は私を見て、顔に驚きの色が浮かんだ。
「昨夜、お前は優香と喧嘩を——」
「そうよ、あなたの目には、私はいつだって騒ぎを起こしているだけ。私はいつだって白石優香には及ばない。私はいつも悪者で、彼女はいつもあなたの心の中で一番大事な人。だから私が全身血まみれであなたの前に立っても、あなたは気づかなかった！彰人、覚えておいて。この子を殺したのはあなたよ！あなたが私の助けを無視したの。あなたが無関心だったの。あなたが彼を殺したのよ！」
話しているうちに、私は泣き叫び始めた。
悲しくないわけがない。あれは私の子、私の最初の子だった。なのに父親に、私の最愛の男に殺された。どうして悲しくないことがあろう。
私は目を閉じると、涙が一滴また一滴と落ちていった。
心が痛い、死にそうなほど痛かった。
「彰人、もう二度とあなたに会いたくない」
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