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2.57% 異世界美食魔法使い / Chapter 9: 第9章 異質な異世界グルメ

Chapter 9: 第9章 異質な異世界グルメ

Editor: Inschain-JA

朝もやが深く立ち込める鶴山に、ようやく陽光が差し込んできた頃、エイヴリルは台所でせっせと動き回っていた。

確かに、ボブがクレオの素質を高く買ってくれているおかげで、追い出される心配はないにしても、居候の身である以上、何か手伝えることをとエイヴリルは思ったのだ。

それに、昨夜はアンドレのあの問いかけ、「美食に対する自分の想いとは何か」を、一晩中考えても答えが出なかった。だからこそ、台所に立ってみれば、ひょっとしたら答えが見つかるかもしれない……そう考えたのだった。

彼女は野菜畑へと向かう。畑はきちんと区画分けされていたので、彼女が作ろうと思っている人参粥に必要な人参も、すぐに見つけ出せた。こうした作業は子供の頃、田舎の祖母の家で手伝った経験があったので、お手のものだ。

次に、氷窟から肉を取り出した。人参粥を作ろうと思ったのには、いくつか理由があった。彼女もクレオも、空腹に耐える日々が続き、何食も抜くことが当たり前だったせいで、胃の調子が悪くなった。人参粥は健脾和胃し、降気を促す作用があると言われる。これこそ、「美食で健康を取り戻す」ってやつだわ、と彼女は思った。

台所にある、見慣れない調理器具の数々に、彼女は首をかしげる。

人参を洗おうとした時だ。確かに流し台はある。しかし、どうやらここでは人参を洗うのに水を使うのではなく、人参をひとつの錬金道具の中に入れ、箱のような蓋をパタンと閉める。すると、サラサラ…と水が流れるような音が聞こえてきた。

数分後、蓋がまるでオルゴールのように自動でパカッと開いた。中を見ると、皮まで見事に剥かれた人参が現れているではないか。

「……はあ?」

エイヴリルの顔がひきつった。なんだこれ? 人参の沐浴サービスか? 呆れ返りつつも、確かにこれは便利だと認めざるを得なかった。

錬金術師たち、なかなか役に立つ存在だな。

次は人参を千切りにする番だ。しかし、彼女は包丁らしき調理器具をどうしても見つけられない。

台所中をほとんどひっくり返すほど探し回り、大きな機械を調べようとしたとき、アンドレが彼女を止めた。

「おいおい、あれは蒸し器だぞ? 何を探しているんだ?」アンドレは、相手が一体何を探しているのか、訝しげに尋ねた。

彼は料理人だった。ここに来るたびに自ら台所に立つので、調理器具はすべて完璧に揃っている。

さっき、エイヴリルの様子は、まるでここにはない何かを探しているようだった。アンドレの好奇心がむくむくと湧き上がる。

「包丁です!」エイヴリルは当然だと言わんばかりに答えた。人参を切りたいのは見ればわかるだろうに、なぜアンドレがそんなに驚くんだろう

「包……丁?」アンドレは目をまん丸くした。包丁は人を斬るためのものであって、料理に使うものだなんて……生まれてこの方、初めて聞いたぞ。

「そうですよ。私はこの人参を切りたいんです」エイヴリルは少し混乱していた。

「え? ああ、そうか、この人参を切るんだな?」アンドレはようやく理解した様子だった。しかし、それにしても……この小娘、台所は初めてなのか? 人参を切るには魔導千切りグローブを使うって、知らないのか?

「魔導千切りグローブを使うことを知らないの?」アンドレは信じられない様子だった。相手の手慣れた動きを見て、彼女が料理に慣れていると思っていたのに、こんな基本的な調理器具を知らないなんて。

「あ、あの、わ、私は...」エイヴリルはどう説明すればいいのかわからなかった。もじもじしているうちに、苦し紛れに言い訳を思いついた。「わ、私の家の事情……ちょっと、経済的に余裕がなくて……」

嘘をつくのが申し訳なく、エイヴリルは少しうつむいた。アンドレの目には、恥ずかしくて言い出しづらい事情があるのだと映った。

「……なるほどな。まあ、教えてやろう」アンドレはこの小娘に同情した。才能はありそうなのに、惜しいことをしているなあ。

しかし、エイヴリルは、どうしても自力で朝食を作りたかった。「い、いいえ! 大丈夫です! 自分でやらせてください! 実は……料理を通じて何かを感じ取りたいんです」と彼女は手を振って断った。

アンドレもエイヴリルの意味を理解し、これ以上は止めなかった。ただ、少し離れて見守ることにした。

「それじゃあ……ナイフを貸してもらえませんか?」彼女はやはり、この世界の錬金道具よりも、慣れた「包丁」に近いものの方がやりやすかった。

「ほれ」アンドレは異界収納指輪の中を適当に探り、鋭い刃先がピカリと光る一振りの短剣を取り出して、エイヴリルにポンと投げ渡した。

彼女はその短剣が時折放つ鈍い光に特に気を留めなかったし、アンドレが何の気なしに出すような品なら、彼自身もさして気にかけていないだろう。アンドレにとっては、自分にふさわしいものでなければ、どんなに名器でも大した価値はないのだ。

エイヴリルは手にした短剣を見つめ、ふと昔のことを思い出した。重い中華包丁を握りしめ、不慣れな手つきで食材を刻んでいた小さな自分。そばで見守る母親が、ハラハラしていた姿が目に浮かぶ。

彼女は笑みを浮かべた。あの頃は、本当に楽しかった。特に初めて料理を習った時は、失敗の連続だった。母親が呆れながら言った言葉を今でも覚えている。「綾香の失敗パターンの多さは、料理のレパートリーより多いんじゃないか?」

エイヴリルは短剣を握りしめた。慣れているとは言えなかったが、異世界の錬金道具よりはマシだ。

これをナイフ代わりに、人参を千切りにしていく。小さな両手で人参をしっかり押さえ、細心の注意を払って細く細く刻んでいく。次に、もち米を取り出し、研いで洗い、そばの器に置いた。

鍋に水を数杯汲み入れ、もち米を投入する。そして鍋の横にある細長い赤い棒を、燃料として積まれた薪へとサッと向けた。すると、ボッ! と勢いよく炎が燃え上がった。

「……はあ」エイヴリルは目の前の光景に、ただただ呆然とするしかなかった。こ、ここは慣れるしかないわね……と心に決める。

エイプリルはこの光景を見て、ただ冷静に受け入めるしかなかった。慣れるしかないようだ。

刻んだ人参を、水面にサラサラと均等に散らし、煮立たせる。沸騰したら火加減を弱め、薪を足すのをやめた。火勢は次第に弱まり、粥が程よく煮えた頃、彼女は地元の香辛料と植物油、塩、そしてあらかじめ和えておいた香の物をパラパラと加えた。

そして、棚から、とても精巧な作りのかわいらしい小鉢を数枚取り出し、お玉で粥をすくい分ける。

外で、クレオが待ちきれない様子で台所に飛び込んできて、熱心に小鉢を数枚受け取り、運び出していく。

一方のアンドレの視線は、粥の鍋から全く離れていない。クレオの後ろに、外へと出ていく。

エイヴリルも笑いながら後に続いた。自分が作った料理が喜ばれるのは、本当に嬉しい気持ちでいっぱいになるものだ!


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