私は篠原智也の側にいて数日が経った。彼は家にも帰らず、会社と江川美咲の間を行き来するだけだった。
美咲は彼に私との離婚を急かしていた。彼は私がすぐ側でこの一部始終を見ていることに気づいていなかった。
一週間が経ち、彼はようやく私に電話をかけてきたが、それは離婚のためだった。
その夜、智也は帰ってきた。美咲のひと言がきっかけだった。
「智也、私はずっとあなたと一緒にいたいの」
彼はリビング全体を見回し、すべての部屋を探し回ったが、私の姿はどこにもなかった。
彼は私に電話をかけ、ボイスメッセージを送った。
「莉奈、オーロラを見に連れて行かなかっただけで、そこまでする?」
もちろん当然よ。だって私はもう見ることができないのだから。
私は彼に返信しなかった。返信できなかった。
智也は携帯を握りしめて私からの返事を待っていた。彼はいらだちながら立ち上がり、リビングを何周も歩き回った。
「莉奈、本気で二度と帰ってくるな」
男は車を走らせて去り、私の魂の一片は彼のそばを漂っていた。
私を見つけられなかったからだろう、彼は美咲のところに行かず、直接会社へ向かった。
真夜中、智也は悪夢を見た。私は彼の額の細かい汗と、突然目を覚ました瞳を見ていた。
何が智也をここまで怯えさせたのか、私は不思議に思った。
「莉奈」
彼が私の名前を呼ぶのを聞いて初めて分かった。男は慌てて電気をつけ、何度も私に電話をかけたが、私は出なかった。
私は男の目に焦りが浮かんでいるのを見ていた。彼は私にふざけるなとボイスメッセージを送ってきたが、私はいつになったら彼が私の死に気づくのか知りたかった。
「美咲は単なる親しい友達だよ」
哀れなことに、この状況でも智也は私に嘘をついている。私は彼らがベッドで絡み合うのを目撃したのに、彼は友達だと言う。
どんな友達がここまで親密になれるのか理解できない。恋人同士ならともかく。
問いただしたいのに、智也には聞こえない。そして私の怨念は徐々に深まっていった。
私が死んでから10日目、病院は警察に私の遺体の処理を依頼した。
智也は警戒心が強く、見知らぬ電話には一切出なかった。オオカミ少年の話を何度も聞いたせいか、彼はとても用心深かった。