私はバルコニーで執事が持ってきたばかりの花茶を飲みながら、佐藤美咲の愚痴を聞いていた。
「うぅぅ...彼には初恋の人がいたなんて...うぅぅ...」
私は実は少し信じられなかった。だって高橋誠司はあんなにも冷淡で恋愛に無関心な人なのに。
「美咲、どうやってそれを確認したの?」
美咲は鼻をグスッと啜った。
「知ってる?彼の家の階下に小部屋があって、ずっと私を入れさせてくれなかったの。男の子の秘密の部屋かと思ってたのに!でも!でもそこには綺麗な女の子の写真が飾ってあったの!」
「えっ?どうやって入ったの?」
「そんな変なところに注目しないでよ!」美咲はさらに悲しそうに泣き出した。「家の犬のワンちゃんが、どうしてもドアを引っ掻いて入っちゃって...中には誠司の大切なものがあるから、犬を連れ出そうと思って入ったの...」
「それでその女の子の写真を見たの?」
「うん!でもそれが一番絶望的じゃなかったの。一番絶望的だったのは、その写真はきれいなのに、額縁が古くて、縛ってた古い紐が突然切れちゃって...反射的に受け止めようとしたけど、間に合わなくて、最悪なことに、その瞬間を高橋誠司に見られちゃったの!
「彼は感情のかけらもない声で出ていけって言ったの。昨夜まで愛し合ってたのに、どうしてこんな風に変わっちゃったの?すぐに分かったわ。だから逆に聞いたの、なんで私と結婚したのかって。
「まだマシだったわ、私を代わりにしたとかは言わなかった...でも似たようなものよ。私だけが四年間彼を追い続けたからだって。
「結局私しかいなかったってこと?違うわ、選り好みした末に私しか残らなかっただけ!
「初恋の人がいるなんて知ってたら、私、佐藤美咲は絶対に高橋誠司に指一本触れなかった!死んでも!離婚する!離婚してやる!」
私は突然、あのヨットの事故を思い出した。私と彼女を溺れさせ、ここへ連れてきた事故を。
「美咲、私は戻りたい。」
これは無責任な考えだった。
でも私は彼女に聞いてしまった。「あなたはどう?」