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Chapter 8: 第8話

リリィの命乞いの為に、ブエルに両手を上げ降参する俺に、ブエルは嘲笑交じりに俺の目を串刺しにして差し出せと言う

震える手で床に刺さった木の矢を掴み、引き抜くと鋭利な矢じりを自分の右目に向ける・・・

「さぁ覚悟を見せて頂きましょうか?御曹司、あなたの溺愛する穢れたメス豚への愛情を・・・・アハハハハ、さぁブッ刺せよ!この負け犬がぁぁぁ!!」

自分の目に異物を突き刺す恐怖と想像する痛みに気がおかしくなりそうになりながらも、リリィの命がこの震える手に掛かってるいる事への重責に頭の中がグチャグチャになる

すでに、奴隷を救い出そうとか理不尽な事に立ち向かうと言った青臭い正義感は吹き飛び、ただただ思考を押し殺しブエルに煽られるままに、震える手で握った矢を視界の先の捉え

「うぉぉぉぉぉぉ!!」

やぶれかぶれ・・・雄たけびと共に自身の右目へと押し込む

【破ぜるが良い、プロテア(木の精霊)よ】

目に突き刺さる瞬間に、手にした木製の矢が粉々に砕け自分の右拳だけが右目にぶつかる

「っ!?」

勢いをつけ自身の右目を狙っていた為、右目を強く殴打し鈍痛が走る

「!?はぁ?なんだ!?何が起こった!!?」

自分の拳で右目を打ち付け、目を押さえながら声のした方を振り返り左目で確認すると

「リ、リリィ!?」

左目に映ったリリィは、ドアの前で立ち上がっており、美しい金髪が毛先から徐々に黒く変色していく・・・いや其れだけではない白かったワンピースも黒く染まって行く

「み、右肩の入れ墨が!?」

リリィの右肩に有った黒い蛇の入れ墨が、蠢き出し蛇が皮膚の上を這うようにリリィの首筋へと消えて行く・・・・そして右腕に刺さっていた矢も砂が崩れる様に粉となって消えて行った

「!?こ、このぉぉぉ呪われた忌子、穢れたメス豚がぁぁぁ!」

異様な状況に、冷静さを失ったブエルはボーガンをリリィに向かって構えると

「くたばれぇぇぇぇ!!」

パシュ、パシュ、パシュ、パシュ、パシュ

何発ものボーガンの弓矢をリリィ目掛け撃ち放った

「くっ!?リリィィ」

立ち上がり、リリィの壁になろうと手を伸ばし駆け出すが間に合わない

しかし・・・・・

「なっ!?」

ボーガンの矢は一発もリリィの元へと届く事無く、数センチ先で粉々になり誇りの様に霧散していく

「ば、化け物ぉぉ!!」

パシュ、パシュ、パシュ、カシッ、カシッ。カシッ

「!?矢が!?切れた!?」

まだ弾数に余裕が有ったはずのホルダーだが、ブエルが何度トリガーを引いても発射される事は無く、それどころか手にしたボーガンごと、粉々になり霧散した

「!?ボーガンが!?消えた!?」

霧散していくボーガンの破片を手で掴もうと、滑稽にも空中を掴もうとしているブエル

【新たに芽吹け、プロテア】

リリィがそう口にすると、粉々になったボーガンの破片から急に木々が生え一気に成長する

「がハッ!?」

無数に生えた木々は、鋭い槍の様になりブエルの四肢を貫き空中に大の字に磔にする

「いでぇぇえぇ!俺の手がぁぁ足がぁぁ痛ぇぇぇぇ!!抜いてくれぇぇぇ!!」

自由を奪われ、両掌と両足の甲を貫かれた痛みで涎を垂れ流し、悲鳴をあげるブエル

【貴様、我がご主人様に危害を加える等・・・万死を超える苦痛を与えねばならぬな・・・】

黒髪と黒いワンピースを着た姿となったリリィ・・・いやそれだけでは無い、小柄で美しい美少女だったリリィは、妖艶で魅惑的な美女に成長しており、元々豊満だった胸はワンピースがはちきれんばかりに大きく成長していた

「リリィ・・・なのか?」

【左様に御座います、ご主人様・・・ご主人様に不敬な言葉を吐くだけでも許しがたい愚行なのに、ご主人様の身を傷つける等、生まれて来た事を後悔する程の苦痛を与えてくれましょう】

あれほど愛らしかった黄金の瞳は、怪しく七色に輝き白く透き通るような腕をブエルに向けると・・・・

【開き拓せ プロテア】

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

ブエルの四肢を貫いていた、木の槍は大きく左右に倒れ無残にもブエルの四肢を引きちぎる

周囲にブエルの引きちぎられた四肢の血が吹き散り部屋中を真っ赤に染めて行く

バタン!!!

その時、部屋のドアが開き数十人の用心棒がブエルの部屋へと突入した来た

「!?ブエル様」「お館様!?」

無残な姿になり床に転がるブエルの姿に驚く用心棒達・・・・

「てめぇぇ!!」「よくも!!」

半数以上は、恐怖で逃げ出したが忠誠なのか、ただの蛮勇か何名かがリリィに向かって剣を抜き切りかかる

【芽吹け プロテア】

飛び掛かって来る用心棒達は、リリィの周囲に生えた木々の槍に心臓を貫かれ、口から吐血し絶命した

「リ、リリィ・・・その姿は!?」

あまりの変貌ぶりと、凄惨な状況に恐怖し戸惑う俺に膝をつき頭を下げるリリィ

【失礼いたしました、私の名はリリィ=グロリアーナで御座います、ガーク様】

「グロリアーナ!?、ま、まさか・・・翼蛇神グロリアーナなのか!?」

黒髪のリリィは俺の言葉に一瞬だけ驚いた様な表情を見せるが、すぐに笑顔になり再び頭を下げる

【流石は、我が主と認めし御方・・・そこまでご存じで御座いましたか、仰る通り私めはリリィと契約せし、森の精霊神にしてティターニアのもう一つの姿、翼蛇神グロリアーナで御座います・・・】

「つ、つまり・・・リリィじゃ無い」

【いいえ、それは違いますリリィの意思は、ちゃんと御座います、今のこの姿は私自身が禁じたこの力を使いたいと、心から願った時に現れる姿に御座います】

【つまり、私もリリィ本人なので御座います、ご主人様の危機に際しこの力を使いたいと私が願い実行したまでに御座います】

あまりの変貌ぶりに、にわかに信じられず唖然としていると

「うぅぅぅ・・・だじげで・・・じにだくない・・だじけで・・」

背後で藻掻いているブエルが、こちらに向かって命乞いをする

【無駄な命乞いはするな・・・下衆】

俺に向けた穏やかな目から一気に凍えるような目に変わるリリィ

「ま、まてリリィ」

【しかし、この下衆はご主人様の事を・・・】

今にもブエルの息の根を止めようとするリリィを制し

「ブエル、お前に聞きたいことが有る・・・お前は隷属の紋章を解除する方法について何か知らないか?」

「いでぇぇ、死にたくねぇ、助けてくれぇ~」

質問についての回答をする事無く懇願するブエル

「リリィ・・・この男を助けれるか?」

【!?本気ですか!?】

「あぁ・・・このままじゃ話も出来ない」

【・・・・・ご命令とあれば・・・・】

「頼む・・・」

リリィは少し困惑していたが、俺の言葉に従いブエルに向け手を翳すと

【癒せ光 マルタ(光の精霊)よ】

ブエルを淡い光が包むと、引きちぎられた四肢が光の粒子となり復元される

「痛みが・・・治まった・・・オーウエル殿・・・助かったありがとう」

元通りになった四肢を確認しながら俺に向かって礼を口にするブエル

「礼は不要だ・・・先ほどの質問だ、隷属の紋章を解除する方法をしっているか?」

「・・・・そんな方法は無い、隷属の紋章は書き換える事は出来ても、消すことは出来ない神の御業だ・・・そこの奴隷を解放するつもりか?」

「質問してるのは俺だ・・・まぁ良い、リリィだけじゃない俺はすべての奴隷を解放したいんだ」

俺の言葉に驚くブエルは、すぐに口元を歪ませ不敵な笑みを見せる

「そんな事が本当に可能だと思うのか?この国・・・いや全人族を敵に回す事になるぞ?」

「そんな事は関係ない、俺は不当な扱いを受ける彼女らに、本来あるはずの幸せな未来を取り戻したいだけだ」

「アハハハハ、本当に世間知らずのお坊ちゃんだぁぁアハハハハ」

馬鹿にした様に笑いだすブエルを無視し、俺は言葉を続ける

「何とでも言えば良いさ・・・とりあえずお前には隷属契約している奴隷を解除してもらう・・・いいな?」

「ちっ・・・仕方ない、命を救われた身だ、従おう・・・・」

そう口にし復元の終わった両足で踏ん張りゆっくりと立ち上がるブエル

「リリィ、助かった・・・思う所もある相手だったろうに・・・すまなかったな・・・」

【いえ・・主様のご随意に・・・・】

リリィに向き直り、その肩に両手を乗せ労った

その時

「馬鹿がぁぁぁぁ!死ねぇ!!!ガーク!!」

ブエルは、俺が背中を向けた瞬間を狙いすまし、用心棒が使っていた剣を拾い上げ手にすると、大きく振りかぶり俺に向かって振り下ろして来た


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