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Chapter 13: 第13話:工房でつくるもの

 エリアナ村へは翌朝帰還した。アンスルが「早めがいいでしょう」と言ったがその通りだった。

 出迎えたエミリを始めとした村の面々は涙ぐんでいた。

 領主と最大戦力、たった一日とはいえそれがいなくなるのは、精神的に堪えたのだろう。まだ、彼らの心の傷は癒えていない。

 そんな村人達だが、帰ってから数日でこれまでにないほど穏やかな表情をするようになった。

 シジリィを伴って帰り、エルフ達との友好関係を構築できたのが大きい。

 その上で、結構な量の食糧や野菜の種を手に入れることもできた。

 今後の見通しができるというのは、想像以上に安心感を与えるものだ。

「畑の方を見てきたわ。思ったよりも、元気そうね。土の状態が良いから、冬の収穫ができると思う」

「ありがとうございます。シジリィさん。畑仕事の面倒まで見て貰ってしまって」

「いいのよ。族長から使命を与えられたのだもの。やることはやるわ。……まあ、ちょっと畑が広すぎるけどね」

「全てを使う必要はありませんから」

 執務室でアンスルとシジリィがそんな話をしている。横のエミリはずっと計算だ。彼女はひたすら数字と向き合っている。

 エリアナ村の広大な農地を見たシジリィは大変驚いた。一瞬、俺の方を凄い目で見た後、農業指導を申し出た。

 この世界のエルフは、植物全般の世話が得意らしい。赤枯草を混ぜ込んだ農地の扱いも心得ているそうだ。

 シジリィ指導の元、麦やエルフの野菜の種を撒いた。村の規模的に農地全てを利用できないので、区画を区切って簡単な石壁を作っておいた。多少は防壁としての役目も果たせるだろう。

 ちなみにこの農地、全て領主の土地である。村人達は小作人となる。上手くいくかどうかわからない開拓地の土地を与えても仕方ないので、数年はこの形で様子を見るそうだ。

 村人達が領主から土地を分け与えられるくらい安定させられると良いと思う。

「他に何かできることはある?」

「そうですね……」

 シジリィの労働意欲が思った以上に高い。アンスルと気が合ったが良かったのか、非常に協力的だ。

 種まきも終わり、ちょっと時間ができた。少し、席を外して作業をさせてもらおうかな。

「あら、ヴェル。何かすることがあるの?」

 アンスルがすぐに察してくれた。頷いて返す。

「ヴェル殿も休憩するといいのでは? ずっと石壁を作ったりと働いていたもの」

「そうね。今日は屋敷から動かないから大丈夫よ」

 許可が出たので、早速屋敷の地下の遺跡へと向かった。

 ●

 俺の目覚めた地下遺跡は、ただの遺跡じゃない。ロボが眠っているだけじゃなく、色々と使える設備が残されていた。

 その一つが、工房だ。魔法の力で色々と作ることが出来るらしい。

 六畳くらいの広さに、CTスキャンでもできそうな装置の置かれた部屋に俺はいた。

「ようやくこいつを使えるな」

『はい。これは貴方の世界でいう3Dプリンターを高度にしたようなものになります。魔法の道具や、追加パーツを製造できます』

「つまり、発声機関も作れる?」

『可能です。保管されていた資材はわずかですが』

 工房で何か作るには資材が必要。主に鉱石とか、金属とか、ようは原材料ということだ。最初に倉庫を確認した所、青白く輝くインゴットが残されていた。インフォによると、魔法で精製された鉄らしい。

「声だけど、一度見送ろうと思う。……下手にベラベラ喋らないほうが、神秘性というか威圧感みたいのが残せるし、アンスルの守護者って立場でいやすい気がするんだ」

 考えた末の結論だった。俺が喋れるようになって、横からアンスルの方針に口出しできるようになるとどうなるか。

 この姿は出来ることが多い。現代知識と合わせて新方針を打ち出し、実行していく俺。しかも意志疎通ができる。

 そうすると一番怖いのは、人心がアンスルではなく俺に移ることだ。

 これは、自分を過大評価してるわけじゃない。

 村が小さい今の時点では、統治能力よりも開拓能力の高い俺のほうが頼られてしまうだろう。

 そのことはきっと、不幸を呼ぶ。最初は上手くいっても、そのうち破綻する。俺に為政者なんて出来るとは思えない。

 何より、アンスルを守ることができない。意味がない。

『貴方の推測は十分現実的であると思います』

 俺の意図を読み取ってくれたらしく、インフォの意見も同様だった。

「とりあえず、声は先送りだ。別のものを作ろう」

『了解しました。何をお造りしますか?』

「ハンドガン。魔力を撃ち出すやつがいい。できれば本人認証と、分解されたら壊れるようにしたい」

『個人の魔力解析による生体認証が可能です。分解したら破損するようにする意図を聞いても?』

「解析されて量産されたくないんだ。銃が広まると、良くないことになる」

 武器の進化はそのまま死者の増加に繋がる。これから作る銃がこの世界に広まった場合、それは人にも向けられるだろう。あまり、望ましいことだとは思えない。

「それに、銃をアンスル専用にすれば、領主として箔がつかないかなと思ってさ」

 エリアナ村の領主は古代兵器が作った特製の武器を持っている。そう広まるのは、なかなか悪くないと思う。それに、アンスル自身の身を守ることにも繋がるだろう。

『了解しました。威力はどうしますか?』

「可変がいいんじゃないかな。非殺傷もできる感じで」

『では、注いだ魔力で威力が変わる上に、魔法の影響を受けるものにしては?』

「いいね。回復魔法とか飛ばせると良さそうだ」

 近づかないと使えないみたいなんだよな、回復魔法。射程の概念が生まれると便利そうだ。

『方針決定。製造の許可をお願いします』

「許可する。デザインなんかはインフォに任せるよ」

 指示を出すと、すぐに工房全体が輝き出した。目の前の機械だけでなく、部屋全体がもの作りのための機構だったようだ。

『完成です。ご確認ください』

 時間にして十分ほどで、スキャナーのような機械の中にアンスル用の武器が完成していた。

 SFっぽい見た目をした、ごつめのハンドガンだ。少し小さく見えるのは、彼女の手のサイズに合わせたからだろう。色は白と青で派手めだが、それはそれで味があると俺は思う。

「重さがわからないな……。扱いやすいのか?」

『軽量化の魔法も付与しております。女性でも気軽に扱えるかと』

「さすが、配慮が行き届いてるな」

『貴方のサポートが私の仕事ですから』

 とりあえず、使ってもらおうか。威力を知りたい。

 初めてプレゼントするものが銃というのはどうなんだろうか。一瞬そんなことを考えたけど、これは必要なものだから問題はない……はずだ。

 喜んでもらえるといいんだけど。


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