私の視線を感じ、篠原景吾の目に突然光が宿った。彼は隣にいる橘詩織を押しのけ、足早に私のもとへ駆け寄ってきた。
私と深町時也が手を握り合っているのを見て、彼の口元に苦い笑みが浮かんだ。
「星蘭……あの夜の後、俺は一度も詩織に触れていない、俺は……」
「もういい、景吾。そんなこと私には関係ないわ」
彼は以前、詩織のために私を散々傷つけてきた。今や私は彼との縁を完全に切っているというのに、今さら私の前で忠誠心を見せるつもりらしい。
ふん、男というものは。
私が立ち去ろうとすると、彼は私の腕を掴んできた。
「いや、これだけは知っておいてほしい……」
「覚えているか?数年前の音楽祭、俺が初めて舞台に立った時、音響機器に不具合が起きて……」
私は訝しげに彼を見た。
覚えているわけがない。
前世の因縁は、あの時から始まったのだから。
あの時、私はバックステージにいて、耳だけを頼りに手動で調整し、崩壊寸前の公演を救った。
そしてあの時、舞台上で緊張で震えながらも歌い続けた少年に、私は一目惚れした。
でも彼は私に何の反応も示さず、それどころか、その後「偶然」バックステージに水を届けに来た詩織に、あれこれ気を配るようになった。
「星蘭、先日……偶然、当時のバックステージスタッフの会話録音を聞いたんだ……」
「俺はずっと彼女が運良く俺を助けてくれたと思ってた。間違ってた。今やっと分かったよ……あの時俺を救ったのはお前だったんだ!橘詩織はただお前の手柄を横取りしただけだった!」
景吾の顔には、後悔と苦しみが満ちていた。
この数日間、彼は私たちの間の過去を何度も振り返り、彼が見過ごしてきた一つ一つの細部が、今では鈍い刃物のように彼の心を何度も切り裂いていた。
長年私を悩ませていた謎が解けたのに、私の心には何の波風も立たなかった。
これらすべては、もう私にとって何の意味もない。
「それで?景吾」私は腕を引き抜き、冷ややかに彼を見た。「まさか、あの時誰があなたを救ったかで、その人を愛するなんて言うつもりじゃないでしょうね?」
「だとしたら、あなたの愛って、随分と単純で安っぽいわね」
景吾はまだ何か言いたげだったが、私は彼を置き去りにした。もう彼は私の足取りについて来れなかった。