Chapter 6: 第6章 あまりにも運がいい
夜。
竹内真雪は入浴を済ませ、ベッドでスマホを弄っていた。
コンコン！
ノックの音が響く。
「真雪、寝てる？」
竹内真雪の母、山本美穂の声だった。
「今から寝るところ。ママ、何かあった？」真雪はスマホを置いた。
この時間にノックするということは、何か用事があるはずだ。
そうでなければ、理由もなく彼女のドアをノックしたりはしないだろう。
「ちょっと出てきて。お父さんとお兄さんと一緒に少し話があるの」美穂は言った。
「わかった」真雪は返事した。
間もなく、彼女は寝室から出てリビングのソファに腰を下ろした。
彼女の向かいには三人が座っていた。
一人は美しい女性で、真雪と少し似た顔立ちをしており、彼女の母親である山本美穂だ。
残りの二人は、真雪の継父である高木大輔と、大輔の息子である高木昭夫だった。
昭夫は彼女より五歳年上で、特に能力があるわけでもなく、大輔が勤める飲食グループで働いている。
大輔は飲食グループの副社長で、昭夫は大輔のコネで営業部門のマネージャーになっていた。
美穂も大輔の勤める飲食グループで働いており、運営部門のマネージャーを務めていた。
真雪は金融を学び、銀行に勤めていた。
「何の話？」真雪は座るなり尋ねた。
「真雪、この二日間、三浦の若だんなと遊びに行ってたけど、進展はどう？」昭夫は少し焦れた様子で尋ねた。
三浦彰人は彼が真雪に紹介した相手で、真雪を彰人と結婚させ、この金持ちの息子と親しくなりたいという考えがあった。
実際、高木家の暮らし向きは悪くなく、別荘に住んでいて、一般人から見れば裕福な家庭だった。
しかし彼らはそれに満足せず、数十億円の資産を持つ富豪と比べれば、まだまだ見劣りすると感じていた。
彰人の父親はまさにそういう数十億円の富豪で、投資会社を経営しており、彰人は間違いなく数十億円の資産を相続する立場にあった。
このような金持ちの息子と親しくなれることは、高木家にとって明らかに多くの利益をもたらすだろう。
これは父子二人の共通の決断であり、美穂も同意していた。
「特に何も。私は彼を普通の友達としか見てないわ」真雪は言った。
「真雪、三浦の若だんなの家は数十億の資産があるんだぞ。彼は俺に明確に言ったんだ、お前のことがとても気に入ってるって。彼の彼女になれば、絶対に結婚してくれるって。数十億の豪邸に嫁げば、一生苦労しないぞ。それなのに単なる友達扱いとは、幸せの中にいながら気づかないとはこのことだな」昭夫は少し不満そうに言った。
「真雪、お母さんも三浦の若だんなはいい人だと思うわ。十分に託せる人よ」美穂も説得を試みた。
彼女は当然、真雪が彰人と結婚することを望んでいた。そうなれば、彼女自身の生活もさらに良くなるだろう。
数十億の金持ち息子の義母になれば、彰人から数千万円のお小遣いをもらうことも難しくないはずだ。
そうなれば、友人たちの前で威張ることもできる。
誰が自分を見くびれるだろうか？
「ママ、わかってるわ」真雪は少しそっけなく答えた。
「真雪、まさかまだ丸山陽斗のことを考えているのか」
「あいつは貧乏人で、一生這い上がれないぞ」
「一生社会の底辺で生きて、必死に働いても一つの家を買うのがやっとで、一生銀行のために働くしかない」
「この社会では、感情だけでは食べていけない。経済力がなければだめだ」
「三浦彰人のような金持ちの息子だけが、お前にふさわしいんだ」
「よく考えろ。もう丸山陽斗のことは忘れろ」
大輔は眉をひそめて言った。
彼は陽斗に会ったことがあった。ただの貧乏人だ。
確かに人当たりは悪くなく、見た目も精悍だが、家庭環境があまりにも貧しい。
ただの田舎町出身者だ。
佐野市にはそんな人間が多すぎるほどいる。
大多数は最終的に尻尾を巻いて故郷へ帰るしかない。
ほんの一部だけが佐野市で家を買うことができる。
それでも、一生銀行のために働くことになる。
この継娘は絶対に陽斗のような男と結婚させるわけにはいかない。それでは家族に何の利益ももたらさない。
三浦彰人のような金持ちの息子と結婚させてこそ、高木家にとって有益なのだ！
実際、真雪と陽斗が別れた理由は、真雪自身の問題もあった。彼女はこのような家庭環境で育ち、すでに物質主義になっていた。
大学時代はそれほど気にしていなかったが、大学卒業後、それが完全に表面化した。
また家庭の問題もあった。目の前にいる三人が毎日彼女の耳元で陽斗の悪口を言い、陽斗には取り柄がないと言って、別れるように促した。
この二つの要因により、真雪は陽斗からプロポーズされた当日に別れを告げたのだ。
大輔の言葉を聞いて、美穂は眉をひそめた。「真雪、まさか本当にまだ陽斗のことを考えているの？復縁しようとしてるの？」
これは彼女が許せないことだった。
真雪と陽斗の交際に最も反対していたのは、彼女だった。
自分の美しい娘がどうして田舎町出身の貧乏人と結婚できるだろうか。
結婚するなら金持ちの息子か、
あるいは一代で成功した富豪でもいい。若くして起業し、成功を収めた実業界の若き俊傑とか。
彼女の考えは大輔と一致していた。
陽斗のような貧乏人は一生社会の底辺でもがき、家を買えたとしても、一生銀行のために働くだけだ。
ひとたび家庭に何か問題が起きれば、経済的に追いつかず、親族からの援助が必要になるかもしれない。
彼女はそのような状況を絶対に許さず、常に真雪に陽斗との別れを促していた。
今、真雪がついに陽斗と別れたことで、彼女の心からの重荷が一つ取れた。
しかし大輔の言葉で、真雪がまだ陽斗を気にかけているかもしれないと聞いて、焦りを感じた。
「ママ、そんなことないわ。私は陽斗と復縁なんてするつもりないわよ。彼はもう妹の真琴と一緒になったのよ！」真雪は言った。
えっ？
美穂と大輔父子は呆気にとられた。
どういうこと？陽斗が真雪の妹の竹内真琴と付き合っているって？
「真雪、一体どういうことか、はっきり説明して！」美穂が最初に我に返り、急いで問いただした。
「私が言った通りよ。陽斗はもう真琴と入籍したの。私と彼はもう無理よ」真雪は言った。
「なんてこった！」昭夫は思わず粗野な言葉を漏らした。
くそっ、この陽斗って奴は本当に運がいいな。
姉と別れたばかりなのに、すぐに妹を引っ掛けるとは。
双子の姉妹、そんな経験をしたなんて。
三浦彰人のような金持ちの息子でさえ、そんな待遇は受けていないだろう。
昭夫は嫉妬で目が赤くなった。
大輔は息子ほど露骨ではなかったが、顔には嫉妬の色が浮かんでいた。
陽斗という貧乏人に一体何がそんなにいいのだろう。
真雪と別れたばかりなのに、すぐに真雪の妹の真琴と付き合い始め、しかも入籍までしているとは。
頭が混乱してきた。
「真琴が陽斗と一緒になったって？どうしてこんなことに？私がやっとあなたを陽斗という火の海から救い出したと思ったら、今度は真琴が飛び込んだなんて、彼女は一体何を考えているの？」
美穂の顔色は非常に悪かった。
自分の二人の娘が揃って陽斗と関係を持つなんて。
これはいったいどういうことなのか。
女性である彼女でさえ、陽斗の運の良さを妬まずにはいられなかった。
そう思えば思うほど、彼女は心の中で陽斗が憎らしく思えた！
「ママ、もうそういうことよ。私と彰人のことは、様子を見てみるわ。彰人の彼女になるにしても、そう急ぐつもりはないわ。陽斗のことは過去のことだから、もう何も言わないわ。ちょっと疲れたから、部屋に戻るね」
真雪はそう言って、自分の部屋へ戻っていった。
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