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最先端の設備が整ったプライベートの医療室。照明が眩しくて目を開けていられないほどだった。
手術台の上には、青木美佳(あおき みか)が力尽きたように横たわっていた。顔色は紙のように真っ白で、身体の下には視界を奪うような鮮やかな血の海。濃厚な血の匂いが空気の中で渦巻いていた。
彼女の両目には骨の奥まで染みついたような憎しみがこもり、向かい側に立つ派手な装いの母娘を睨みつけていた。
「私の子供を殺したのね。哲也はあなたたちを絶対に許さないわ」
歯を食いしばって絞り出した言葉だが、その弱りきった声にはもはや脅しの力なんて残っていなかった。
目の前の中年の貴婦人——渡辺志穂(わたなべ しほ)は、美佳の言葉を聞いて、気にも留めず鼻で笑った。動揺の色なんてかけらも見せなかった。
「息子を使って脅しても無駄よ。哲也の意思でなければ、私がこんなことをするかしら?」
彼女は美佳を見つめながら不気味に笑った。その口から出た言葉に、美佳は信じられない思いで目を見開いた。
「嘘よ!哲也がそんなことするわけない。自分の子供にそんなことをするわけがない!」
「ふん。美佳、まだ自分を騙してるの?兄さんを五年も追いかけてたけど、一度でも返事もらったことある?もしあなたが、策略でベッドに潜って既成事実を作ってなかったら、兄さんは責任を取ってあなたと結婚したと思う?」
こう話したのは哲也の妹、美優だった。
目の前に立つ二人——義母と義妹。家族のはずだった二人は、彼女を目の敵にして排除しようとしていた。
普段は哲也がいるからこの母娘は露骨な態度を取らなかったが、今は……
「美優、くだらない挑発はやめなさい。哲也が私をどれだけ嫌っていても、この子を捨てるはずがないわ……」
美佳は分かっていた。あの結婚を手に入れた方法が、決して誉められたものではないことを。
そして、哲也が自分を嫌っていることも。でもあの男は、実の子供まで見捨てるほど冷酷な人間ではないはず。
その言葉が終わった途端、志穂は携帯を取り出し、彼女の目の前で哲也に電話をかけた。
「信じないのなら、哲也の口から聞かせてあげるわ」
数回のコールの後、電話の向こうから哲也の冷たくて低い声が響く——
「どうしたんだ?」
さっきまで美佳を見下ろしていた志穂の態度が、一瞬で変わった。息子の哲也と話す時の志穂は、媚びるような声色になる。
「哲也、子供のことなんだけど、あなたが私に美佳のところへ来るように言ったよね?」
「ああ、どうした?彼女が拒否してるのか?」
哲也の声には、少しの躊躇いもなく、その言葉が美佳の耳に突き刺さった。血の気を失った顔から、さらに色が消えていった。
志穂でも、美優でもない。哲也こそが彼女を殺す形なき刃だった。彼女は不意を突かれ、防御の余地も一切なかった。
志穂と美優が挑発的に笑みを浮かべ、そして志穂は哲也にこう言った。
「そのこと、彼女がどうしても信じなくて、あまり協力的じゃないわ」
電話の向こうが一瞬、静かになった。
「もうすぐ家に着く。彼女が同意しないなら無理強いしなくていい。俺がやる」
哲也の口から発せられたのはあまりにも冷酷な言葉で、あまりにも堂々とした声だった。美佳の心は更に音を立てて引き裂かれていった。
「戻ってきたの?アメリカでまだ処理しないといけないことがあるって言ってたじゃない」
志穂の顔に、一瞬だけかすかな動揺が浮かんだ。
「全部終わった」
「じゃあ……気をつけて帰って来て。こっちはお母さんに任せて」
電話を切ると、志穂はまた威張った様子で、手術台の上で灰のように顔色を失った美佳に視線を向けた。