蘇晚はふっと唇を尖らせた。
今日の災難は、すべて彼に因るものだった。
たとえ命は拾えたとしても、この苦しみをただ流して済ませる気はなかった。
彼女はそんなに寛大な性分ではない。
もし武を身につけていなければ、きっと「元の蘇氏」と同じく、この場で命を落としていたに違いない。
――ならば、背後で糸を引く者には必ず代償を払わせ、この胸の怨みを晴らしてやる。
傅璟琛の聡明さと手腕を思えば、決して彼女を失望させることはないと信じられた。
彼が自分を重んじていなくとも、彼の母と妹までもが命を落としかけたのだ。
そこまで考えると、ようやく気持ちも落ち着いた。
命懸けの一夜をくぐり抜け、疲労と眠気に抗えず、やがて布団に身を縮めて眠りに落ちた。
その眠りはひどく深かった。
外のざわめきにようやく目を覚ますと、すでに朝日は高く昇っていた。
天井をぼんやりと見つめるうちに、昨夜の出来事が少しずつ思い出される。
身を起こそうとしたとき、肩の傷が引きつり、「シッ」と息を呑んだ。
その時、窓を二度叩く音がした。
続いて、傅璟琛の淡々とした声が外から響く。
「……目が覚めたか」
痛みをこらえて窓を押し開けると、やはり傅璟琛が馬にまたがり、馬車のすぐ傍らについていた。
一晩中眠らずにいたはずなのに、男の顔には疲れも見えず、背筋を伸ばして馬を操る姿は凛然として、道の両側から女たちが恥じらいがちに視線を向けていた。
その様子を見て、蘇晚の眸に興味の色がよぎる。
傅璟琛は確かに端正な顔立ちをしており、その上に気品を備えている。慕われるのも無理はない。
「もう京城に着いたの?」と、彼女は何気なく尋ねた。
「うむ」傅璟琛は低く応じ、ふと彼女に視線を向けた。
その探るような眼差しに気づき、蘇晚は一瞬戸惑って、「どうかしたの?」と問い返す。
黒い眸を細めた彼の目に映るのは、傷のせいで顔色の悪い、唇に血色のない、ひどく細やかで弱々しい姿。とても昨夜、四人の凶悪な匪賊を斬り伏せた者とは思えなかった。
だが事実、密林からは四つの死体が見つかっている。すべてが一刀のもとに仕留められていた。
唯一生き延びた匪徒の証言でも、彼ら五人が揃って森に入り、夜には他の四人が命を落としていたという。
その間、森の中にいたのは蘇氏と彼ら五人だけ。
ならば、四人を斬ったのは間違いなく蘇氏ということになる。
傅璟琛は彼女と三年夫婦でありながら、その内面をよく知らない。
ただ気性はあまり良くなく、自分との婚姻も望んでいなかった――その程度の認識しか持っていなかった。
あの婚礼の日も、科挙を目前に控えていた彼は、花嫁の顔を覆う紅い布をそっと上げただけで、すぐに書斎に籠もり勉学に励み、翌日には書院へと向かった。
その後も何度か家に戻ったが、蘇氏は姿を見せず実家に戻ってしまい、上京の折も彼女は見送りに現れなかった。代わりに義父である里正が見送ってくれただけだった。
状元に及第してからは都に留まり、目まぐるしい日々を送ってきた。
妻の存在を忘れたことはなかったが、共に過ごすことはほとんどなかった。
だからこそ――今の彼女の姿は、どうにも理解できなかった。
気ままにわがままを通すだけの女が、どうして他人を逃がすために自ら危険に身をさらすのか。
しかも四人の凶徒を同時に斬り倒すなど、屈強な男でさえ難しい。それを、ただの婦人がやってのけたのだ。
蘇氏という人間は、どうにも矛盾に満ちている。
傅璟琛は思考を収め、淡々と告げた。
「昨夜、密林から四つの死体が見つかった」