愛美は、まだ自分を放す気のない大きな手を見つめた。このままでは、本当に絞め殺されかねない。
次の瞬間、稲妻のような速さで相手の腕をつかみ、右へとひねり上げた。
足で軽く蹴り、「ドン」と音を立てて、目の前の男を脇へと押しのけた。
驚く和久を横目に、彼女は自由を取り戻すと、グラスを持ち上げ、中の赤ワインを一気に飲み干した。
そのグラスを床に投げつけ、仕返しのように音を響かせた。目に一瞬、憎しみが閃いたが、すぐに冷静を取り戻し、甘い声で言う。「ダーリン、こんな危険なゲームはもうやめましょ? もっと別の刺激、試してみない?」
羽織っていた上着を床に落とすと、白い肌が灯の下で艶めいた。まるで熟れた果実のように、見る者を誘う。
特に、黒いストッキングに包まれた長い脚は、まるで魔法でもかけられたように、目を奪った。
和久の心はジェットコースターのように揺れていた。さっきまでの驚きと困惑はどこへやら。今この光景を目にして、かつてない興奮と熱が体の奥から込み上げてくる。
足は思わずベッドへと向かっていた。
愛美は少しずつ後退し、妖精のようにベッドへ身を沈める。美しい瞳が言葉のように語りかける。玉のような指先で誘うように、「もっと近くに来て」と囁いた。
和久は決して近づくつもりはなかった。それでも、足は意思に反して前へと進んでいく。
本来は危険な存在だったはずが、一転して今では、生贄の子羊のようだ。
青いネクタイを強く引き、正気を取り戻そうとする。「お前……俺に、何をした?」
愛美の整った顔立ちには艶があり、美しい目は微笑みながらも、どこか妖しく光った。「あなた、飲みすぎたのよ」
和久は額に手をやり、婚約パーティーで飲んだ酒の量を思い出す。赤も白もかなりの量。特に白酒は度数が高く、二つを混ぜれば酔いが深くなる。理性が薄れていくのも当然だ。
ハンサムな顔は赤みを帯び、理性は少しずつ溶けていく。
体の熱を冷ますには氷水でも浴びなければならないほどだった。
その異なる瞳はすぐに抑制を捨て、ただ本能のままに動く。
ベッドの上の艶やかな女を見つめ、近づきたいという衝動しか残らない。
赤い唇は今この瞬間、最高のご馳走だった。
上着を脱ぎ、ネクタイを外す。
わずか数分で冷たさと距離を失い、別の姿に変わっていく。
その変化の速さに愛美はほほ笑んだ。
さすが、悪魔小林が丹念に調合した空気散布パウダーだ。酒を飲んだ相手には抜群の効き目を見せる。
彼女が前もって解毒剤を飲んでいなければ、今頃は彼以上に惨めだっただろう。
なぜ睡眠薬ではなく、この種の心を惑わす媚薬を使ったのかといえば、小林センセイ様によると、睡眠薬では和久にとって簡単すぎるから、この種の薬を使って一晩中苦しませるべきだと言っていたからだ。
愛美は彼に合わせるふりをして、自分の首、頬、そして赤い唇にキスされるままにしていた……
一秒、二秒、三秒……
十数秒後、親友の笑顔が脳裏をよぎる。美しい瞳に冷たい弧が戻った。
ゲームは、ここまでだ!
右腕を上げ、手刀で和久の腕を打ち落とす。「パシッ」と乾いた音が響いた。
和久のキスする動きは一時的に止まり、凛々しい眉が顰められたが、それもほんの一瞬の停止だった。しかし痛みが引くや否や、彼は体をひねり、腕の中の女を反転させて主導権を奪った。
息を荒げ、理性を失い、ただ本能だけで動く男。その姿を見つめ、愛美は眉をひそめた。
おかしい、どうして彼はまだ気絶しないのか?
この手刀、何度も使ってきたけど、一度も失敗したことなんてなかったはず。
もしかして、さっきは力を十分に出し切れていなかったのか?もう一度やるべきか?
そう思い、再び右腕を上げ、今度は力いっぱいの手刀を振り下ろした!今回は最大の力を使ったように見えた!
しかし、見た目こそ派手だったが、実際の力は……たいしたことなかった。
和久を気絶させるどころか、むしろ男の心の奥底にある支配欲と興奮を掻き立てた!
彼の目には熱狂が満ちあふれ、動きもそれに伴って粗くなった。
愛美はようやく気づいた。何かおかしい……自分の頭も少しクラクラしている?
どういうこと?自分も薬を飲まされたの?
でも前もって解毒剤を飲んだはず。口の中は乾いて……体も次第に熱くなっていく。
二人とも大人だ。だから、この反応が何を意味するかくらい分かっていた。
事態は自分が想像していたのとは違う方向に進んでいた。全く違う方向に!
目の前のハンサムな顔を見つめながら、心の中の疑問と嫁いできた目的について考えていた時。
和久はすでに次の行動に移っていた……