そう考えると、彼女は無理やり気持ちを落ち着けた。
まさか、転生してきたばかりで、いきなりこんな危機に直面するとは。
この難関を越えられなければ、自分もまた前の持ち主と同じ末路を辿ることになる。
拳を固く握りしめ、蘇晚は険しい表情で両軍の斬り合いを見つめた。
傅家の家丁たちは到底敵う相手ではなく、このままでは全滅は時間の問題だ。そうなれば王氏母娘も、自分も命を落とすしかない。
――黙って死を待つわけにはいかない!
王氏の腕に抱かれていた傅珍珍が顔を上げると、馬車の轅に立っていたはずの蘇晚が、いつの間にか飛び降りており、足元にはすでに一人の匪賊が倒れていた。
鮮やかな血が彼女の裳裾を濡らす。だが彼女はまるで気づかぬかのように刀を振り抜き、さらにもう一人を斬り倒した。
その光景に傅珍珍は恐怖を忘れ、口を大きく開けたまま、呆然と蘇晚を見つめた。
――あの蘇丫丫に、いつからこんな腕前が!?
かつては鶏一羽殺すことすら出来ず、いつも大げさに騒いでいた女だというのに。
もし道中ずっと皆が同じ馬車に乗っていなければ、傅珍珍はきっと、蘇晩が誰かと取り替えられたのではないかと疑ったことだろう。
驚きと疑念が入り混じる中、蘇晚は馬の縄を断ち切り、王氏母娘に向かって叫んだ。
「早く馬に乗って!この道をまっすぐ行けば京城に着けるはず!」
「あなたは……?」傅珍珍が複雑な表情を浮かべる。
その瞬間、背後から忍び寄った賊を、蘇晚は振り返りざまに一刀のもとに突き伏せた。飛び散る血を見ぬふりをし、平静を装って答える。
「私のことは構わない。とにかく急いで行きなさい。私は私で何とかする」
書中では、この匪賊たちは徹底的に追撃し、結局王氏母娘も京城に辿り着けなかった。
傅珍珍はためらう性格ではない。言われるがまま王氏を助けて馬車から飛び降りた。
だが王氏は首を振り、蘇丫丫の手を握って泣きそうな声で言った。「あなたを置いていくなんてできない……」
蘇晚の胸に温かなものが広がった。前の持ち主がどれほど評判の悪い嫁でも、王氏は決して蔑ろにせず、この危機の中でも自分を見捨てないのだ。
「心配はいらない。あなたたちは逃げて。京城でまた会いましょう」
そう言いながら、傅珍珍と共に王氏を馬に乗せた。
傅珍珍もすぐさま馬に跨がり、手綱を握りしめると、そっぽを向いたまま不器用に言った。
「蘇丫丫、死んじゃだめよ。私たちは京城で待ってるから。その時は……わ、私が絶対に兄上に離縁させたりしない!」
蘇晚は鼻で笑ったが、何も言わなかった。
次の瞬間、刀の柄で馬の臀を強く叩いた。
馬は痛みに嘶き、母娘を乗せて矢のように駆け出した。
その背が見えなくなるまで二人を見送った後、蘇晚はさらに二人の匪賊を斬り伏せると、戦い続ける護衛たちを一瞥し、迷わず身を翻して密林へと駆け込んだ。
もし彼らの狙いが自分なら、ここに留まれば王氏母娘は助かる。
やがて賊どもは必ず自分を追って林に入ってくる。
地形に不案内とはいえ、複雑な密林ならば身を隠すことはできる。時を見て一人ずつ仕留め、逆に討ち果たせばいい。
そう心に決め、刀を握り締めたまま、彼女は森の奥へと駆けていった。
やがて、蘇晚の姿が消えたことに匪賊たちも気づいた。
傅家の護衛を片付けると、果たして彼女の予想通り、林の中へと追い込んでいった。
だがいくら走っても蘇晚を見つけられず、賊たちは次第に苛立ちを募らせていった。