Bab 4: 彼女は帰る――！
Editor: Pactera-novel
修彰と安藤綾が結婚して、まだ一年。修彰は海外での業務処理のため出国していたが、帰国途中で乗っていた飛行機が墜落した。
彼は部下たち数名とともに、孤島に流れ着いたのだ。
そのころ、綾――いや、「元の綾」は、姉の唆しに乗せられて、修彰の叔父であり、長谷家の対立派閥を率いる長谷二郎の陣営に与してしまう。
結果、彼女は利用され尽くし、用済みになった瞬間に切り捨てられた。さらに、修彰の弟たち――長谷和真と長谷昭陽までもが療養院へと追いやられることになる。
この二人、心の病を抱えていた。昭陽は生活すらままならず、和真は他人との関わりを極端に避ける。家の護衛がついていたにもかかわらず、療養院での扱いはお世辞にも良いとは言えず、和真は幾度となく自殺未遂を繰り返した。――そして、その命を救ったのが一人の看護師、清水心音（しみず しんね）だった。
彼女こそが、この物語のヒロインである。
心音は驚くほど根気強く、また子どもたちの扱いにも長けていた。次第に和真と昭陽は心を開き、彼女を信頼するようになる。
彼女の献身と長谷家の支援が重なり、二人は「二郎の思惑どおりに」死ぬこともなかった。
一方、すべてを知った修彰は、慌てて帰国することはせず、長い時間をかけて慎重に計画を練り、帰国と同時に二郎の勢力を徹底的に排除した。
修彰は心音に深く感謝し、
和真と昭陽もまた、彼女なしでは生きていけないほど依存するようになった。そうして時が経つうちに、心音は修彰の心をも動かし――やがて、長谷家の新たな夫人となったのだった。
……一方その頃。
物語の外に弾き出された「元の安藤綾」は、
その結末を受け入れられずにいた。
彼女は心音が自分のすべてを奪ったと信じ込み、嫉妬に狂って彼女を陥れようとする。だが、その策略はことごとく失敗し、
最後は心音の恋人の差し金で暴漢に襲われ、さらに仕組まれた交通事故に巻き込まれて――命を落とした。
以降、物語は完全に男女主人公の世界となり、
「原作の綾」は存在しないも同然になった。
綾――つまり、今この身体を使う彼女は、深く息を吐いた。
「なるほど、ハッピーエンディングってわけね……」
眠る子どもの穏やかな寝顔を見つめながら、
これから自分がどうすべきかを必死に考え始める。
長谷修彰は、この世界の主軸――つまり、この物語の中心そのもの。彼と関わる者だけが「時間」を持ち、存在できる。
それ以外の者は、ただ背景として消えていく。
――ならば、自分が生き延びる道はただ一つ。彼のそばにいること。
けれど、綾にはこの世界に留まる気はなかった。彼女の前の世界――そこにはまだ果たせぬ復讐がある。両親は自分の帰りを待っている。兄は病弱で戦に出られず、自分こそが一族を背負う唯一の存在だった。それなのに、あの老いぼれの皇太后は、忠義を尽くした自分に毒を盛り、命を奪ったのだ。
――あれほど戦場で血を流し、国のために尽くしたというのに！
思い出すだけで怒りが込み上げる。
自分が死ねば、一族もまた滅びる。
だから、帰らなければならない。必ず、あの世界へ戻るのだ――！
決意を固めた綾は、スマートフォンを取り出した。
指先が迷いなく動く。
宛先はただ一人――長谷修彰。短いメッセージを打ち込み、送信ボタンを押す。
そうだ、彼はこの世界の“主役”であり、最も強い運命を持つ男。
彼の近くにいれば、きっと「元の世界へ戻る機会」が巡ってくる。
その瞬間――。
遠い孤島の洞窟。
真っ暗な空間の中、かすかに光が瞬き、すぐに消える。
「……ん……」
低く響く、ワインのように艶やかな声。男の手が闇の中を探り、スマートフォンを手に取る。画面の光がほのかに顔を照らした。
―整った輪郭、長い睫毛、端正な唇。
その横顔は、まるで暗闇の中に浮かぶ彫像のように美しかった。
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