篠原一誠は不満げな顔をしかめた。
「彼女は僕のママだ。もう少し敬意を払ってほしい」
案の定彼女のことか。篠原彰は冷たく鼻を鳴らした。
「お前が彼女を見つけたからには分かっているだろうが、彼女は私にとって子供を産むための道具にすぎない。そんな道具は私が欲しければ、手を振るだけでいくらでも集まる。お前が彼女を私のベッドに送り込んだとしても、ただの欲望解消の道具として使うだけだ。絶対に彼女と結婚することはない」
篠原一誠は反論せず、ドアの方へ向かいながら淡々と言った。
「おばあちゃんは絶対に白石美纪という女との結婚を許さないよ。早めに諦めた方がいい」
ドア口で足を止め、振り返って篠原彰を見つめ、真剣に言った。
「あなたの女の子はたくさんあるかもしれないけど、僕のママは一生に一人しかいないんだ!」
そう言うと篠原彰の反応も気にせず、振り返ることもなく書斎を出て行った。
表情が曇ったままの篠原彰が残された。
リビングでは、安藤詩織はすでに身支度を整え、落ち着かない様子で行ったり来たりしていた。
先ほどの篠原彰の人を食いそうな勢いは本当に怖かった。彼女はこの子が叩かれるのではないかと心配していた。
篠原一誠が出てくるのを見ると、急いで彼を引き寄せて点検し、無事を確認してようやく息をついた。
「よかった、何ともないなら私そろそろ行くわ」
彼女はあの恐ろしい男と向き合いたくなかった。
彼女が帰ると聞いて、篠原一誠の整った顔がしわくちゃになり、小さな口をきつく結び、ぶどうのような大きな目に涙が光った。
「ママ、僕を捨てるの?」
見捨てられることを恐れる、かわいそうな表情だった。
安藤詩織の胸がキュッと痛んだ。母性本能がそのまま呼び覚まされた。
篠原彰への恐れも忘れ、前に出て彼を抱き上げ、心を痛めながら言った。「どうして捨てたりするの?ママになると約束したでしょ」
「うん、ママは絶対僕を捨てないって知ってたよ」
篠原一誠はにこにこと言った。
なんだこの急展開は?
安藤詩織は思わず白目をむいた。またこの腹黒な子に計算されたのだ。
「今の言葉、撤回してもまだ間に合う?」
篠原一誠は小さな指を振って、「ママ、僕たち契約書にサインしたでしょ。違反したら千万円の違約金を払わなきゃいけないんだよ」
へへ、千万円!!!
安藤詩織は空笑いを浮かべた。「一誠、ママは冗談を言っただけよ」
「知ってるよ。ママはもうイタズラしちゃダメだよ」篠原一誠は満足げに言った。
安藤詩織は心の中でテーブルをひっくり返した。二人のうち、いったい誰が子供なんだ?
篠原彰がスーツ姿で部屋から出てきた。
二人が母親と息子の絆を見せるような様子を見て、軽蔑するような目で安藤詩織を一瞥した。
この愚かな女は、篠原一誠を普通の子供だと思い込んで、騙されても手伝って金を数えるようなものだ。