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3.84% 二十年の愛を結婚式で断ち切る / Chapter 1: 第1話:命の恩人
二十年の愛を結婚式で断ち切る 二十年の愛を結婚式で断ち切る original

二十年の愛を結婚式で断ち切る

作者: 豆腐メンタル

© WebNovel

章 1: 第1話:命の恩人

第1話:命の恩人

[雪音(ゆきね)の視点]

また、この話か。

リビングのソファに座りながら、私は冬夜(とうや)の言葉を聞き流していた。もう一ヶ月も同じことを繰り返している。

「雪音、聞いてるのか?」

冬夜の声が少し苛立ちを含んでいる。振り返ると、彼はいつものように真剣な表情で私を見つめていた。

「聞いてるよ」

短く答える。これ以上何を言えばいいのかわからない。

「彼女は昔、命を懸けて俺を助けてくれた。だから、今度は俺が彼女の願いを叶える番なんだ」

冬夜はそう言って、テーブルの上に置かれた書類を指差した。人工授精の同意書。花咲院(はなさきいん)紅(べに)という女性の名前が記載されている。

余命一年。

その事実が、私の心に重くのしかかる。

「でも......」

言いかけて、やめた。何を言っても無駄だということを、この一ヶ月で嫌というほど思い知らされた。

冬夜は立ち上がり、ベランダへ向かった。私も後を追う。

夕日が二人の影を長く伸ばしていた。

「冬夜.....来月、私たち結婚するんだよね?でも今、あなたは別の女性と子どもを作ろうとしてる。私は.....私は一体、何なの?」

声が震えていた。

冬夜は振り返らずに答えた。

「君が俺を愛してくれてるなら......理解してくれると信じてた」

愛してる。

確かに愛してる。二十年来の付き合いで、恋人として五年。でも、冬夜はいつも秘密主義だった。心の奥底を見せてくれたことなんて、一度もない。

「理解って......」

そのとき、冬夜の携帯が鳴った。

着信音が響くと、彼の表情がぱっと明るくなった。まるで別人のように。

「もしもし?」

電話の向こうから女性の声が聞こえる。紅だろうか。

「ああ、大丈夫だ。今すぐ行く」

冬夜は電話を切ると、私の方を振り返った。

「もう少しちゃんと考えてみて。俺は君を愛してる。それは変わらない」

そう言い残して、彼は急いで家を出て行った。

一人になったリビングで、私はソファに崩れ落ちた。

愛してる、と言いながら、別の女性のもとへ駆けていく。

これが愛なのだろうか。

ピンポーン。

インターホンが鳴った。冬夜が忘れ物でもしたのだろうか。

ドアを開けると、そこには誰もいなかった。足元に小さな封筒が置かれている。

「紅」

差出人の名前を見て、心臓が跳ね上がった。

震える手で封筒を開ける。中には一枚の写真が入っていた。

その瞬間、世界が止まった。

写真に写っているのは——

立っているのがやっとだった。


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