「絶対にこの小説ならウケる! 俺たちで作ったんだから連名でバズろうぜ!」
雨の降りしきる下校の道で、俺こと赤崎 拓海は胸を高鳴らせながら言う。
すると、隣を歩く寺島 藍綴は控えめに笑って、頷いた。
「たっくんなら書けるよ。きっと大作家になる」
「なに言ってんだよ! こんな時間まで書くのに付き合ってもらったんだぞ! お前のアイデアがなきゃあんなイイ感じにならなかった!」
そう。部活にも入っていない俺たちがもうすぐ日が暮れる時間まで学校にいたのは、小説のアイデア出しをしていたからだ。
寺島とは幼稚園からの幼馴染で、親友だ。少し控えめで、前に出るのを好まない。けれど、一緒にいるときにはいつもこいつの冴えた考えに助けられた。
いつの間にか背は追い抜かれてしまって、どこか運動部にでも入ればいいのにと思っているけど、本人曰く「運動オンチだから」と頑なに拒む。
かといって俺自身も運動神経は悪くはないが、体育会系の空気があまり好きじゃない。結局は帰宅部のまま、小説を書くというところに落ち着いている。
でも、こいつと一緒ならそれでもいい。
この間だって、たまたま河原で拾った綺麗な石を元に、寺島は俺にとって斬新なアイデアを提供してくれたのだ。
その石は軽く落としてしまった拍子に二つに割れてしまったけれど、記念としてお互いに半分ずつ持っていることにした。
「あっ」
そんなことを考えていたら、寺島がなにやら目を丸くして声を出す。
目線の先を追うと、そこには子猫がいた。
車が行きかう道路のド真ん中で、子猫が小さく泣きながら歩いていたのだ。
俺はカツン、と傘が落ちる音を背中に聞く。
考える前に動いてしまっていた。
このままじゃあの子猫は車に轢かれてしまう。そんなこと、放っておけるはずない。
俺は無我夢中で濡れた地面を走って、制服が濡れるのにも構わず子猫を拾い上げる。
「たっくんッ!」
そこに親友の焦った声が聞こえた。
同時に、耳をつんざくクラクションの音が響く。
見れば、大型トラックが俺のすぐそこまで迫っていた。
避けようとハンドルを切っているようだが、間に合わない。
俺は地面を蹴ると同時に寺島に向かって子猫を放り投げる。
けれど、濡れていた地面で足を滑らせて、俺は体勢を崩した。
「たっくん――ッ!」
親友の悲痛な叫び。寺島はちゃんと子猫をキャッチしたみたいだ。よかった。
けれど、それがわかったときには、トラックは横滑りして、すぐそこまで来て――。
――俺は俺の体が潰される音を聞いた。
◇ ◇ ◇
死んだ。絶対に死んだ。
そう思考が戻ってきた瞬間、視界が明るくなる。
眩しい。
俺は目を細めつつ、手で顔を覆うと、周囲は真っ白な壁に覆われた広い場所だった。
今さっきまでの曇天はどこにいったのだろう。そもそもここはどこだろう。
もしかして病院――にしてはまるで美術館のような西洋風の広間だ。
「ようこそおいでくださいました」
混乱する俺に、そんな声がかかる。
はっとして前を向くと、そこには豪奢なドレスを身に纏った銀髪の美女がいた。
外人とも日本人ともつかない端正な顔立ちに、ドレスからはみ出る豊満な胸につい目がいってしまう。
すると、美女は「ふふっ」と笑いかけてきた。その美貌と色気に俺の胸がドキリと高鳴る。
マズいマズい。女の人は意外と胸を見られているのがわかるってクラスメイトから聞いた。
今も俺の視線もきっと気づかれていただろう。
けれど、美女は気にした風もなく、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
「まだ何が起こったか。ここがどこであるか。わからなくて戸惑っていらっしゃるでしょう?」
美女は少し首を傾けて言った。
そうだ。俺はトラックに轢かれたはずだ。何が起こったのだろう?
「あ、え、ええと……」
「あら……申し訳ございません。私は【エカチェリーナ・ノヴァ・カルブンクルス】と申します。貴方様のお名前は?」
その響きに、俺は聞き覚えがあるように感じる。なんだったっけ。ついさっき聞いたはずのような……。
いや、そんなことはいい。今は名前を訊かれてるんだ。
「あ、赤崎……赤崎拓海です」
「まぁ素敵なお名前……! タクミ様、とお呼びすればよろしいでしょうか?」
様付け……。まるで中世の貴族のような美女にそう呼ばれると、むず痒いものがある。
「様なんてつけなくても……」
「いいえ。貴方様は私たちが切望した唯一の希望……。丁重におもてなししなくては」
「き、希望?」
「そうですとも。貴方様はこの世界を救う――勇者様なのですから」
その言葉に、俺は再び既視感を感じる。聞き覚えじゃない。文字として見たはずだ。
それがなんなのか、答えに行き着く前に美女は続ける。
「ここはカルブンクルス帝国。私たちは魔王討伐をお願いしたく、貴方様を異世界から召喚いたしました」
帝国、魔王、異世界召喚――そして、俺が最初に目がいった彼女の胸。そこには大きな赤い宝石がはめ込まれていた。
それは決してアクセサリーじゃない。持って生まれてきた彼女の一部だ。そう俺が設定した。
「ま、まさか……」
俺は立ち上がって周囲を見回す。
そこには鎧を身に纏った多くの兵士が並んでいて、各々の持つ槍には宝玉が埋め込まれていた。
間違いない。そうだ。ここは――!
「――俺の書いた小説の世界……!?」
……どうやら俺は、自分が書いた異世界に転生してしまったようだった。
本日より作品記載を始めました!
阿澄飛鳥と申します!
石喰いの勇者、毎日更新をしていく予定ですので、
気になった方はぜひ応援頂けると嬉しいです!
あなたのギフトが私の創作の動機です。もっと動機をください!
創作は大変です、応援してください!
私の小説について何かアイデアがありますか?コメントを残して教えてください。