章 2: 身代わりの花嫁1_2
編集者: Pactera-novel
当然、罪の元凶はバグであり、転生した蓮華だ。
——
「詩織、お前はいったい父の話を聞いているのか？！」
不機嫌な低い声が突然聞こえ、深く考え込んでいた詩織を目覚めさせた。
彼女が顔を上げると、学の不満そうな表情が目に入った。
しかし、このままでは娘を引き寄せられないと思ったのか、彼はすぐに口調を柔らかくした。「父も困っているんだ。蓮華は気ままな性格だから、このままだと何をしでかすか分からない。お前は小さい頃から一番わきまえがあって、蓮華に譲ってきただろう。今回だけ我慢してくれれば、後で必ず埋め合わせをするから、いいかな？」
詩織は黙って彼を見つめた。
学は少し恥ずかしくなり、いらだちを覚えた。あの大きな目で見られると、まるで心の中が全て見透かされているような気がする。だがそんなはずがない。
ただのガキじゃないか。普段から頭もよくないし、とりえも何もなく、後妻の子たちにも及ばない。
彼は頭を抱えながら言った。「父も無理な頼みだとは分かっている。だが、お前の婚約話も良いものではない。阿部家は今、勢いがありすぎて、兵権を握ったまま手放そうとしない。お前の婚約者もその兄も、並外れた将才で軍中に名を轟かせている。このまま兵権が世襲されれば危険極まりない！父はお前の将来を案じて……」
まるで心の底から出た言葉のように聞こえ、学自身も感動していた。
そうだ、彼は娘のためを思っているのだ。島津侯爵家の若奥様になるのは悪くないだろう？そうすれば皇族の縁者になるのだ！
以前、蓮華がある宴会で人々を魅了した後、すぐに島津侯爵家から縁談が来た時、今井家はどれほど喜んだことか。
学は式部卿になったとはいえ、今井家の財産は長年続く貴族たちに比べればずっと劣っている。今はそれを少しずつ埋め合わせ、できれば政界でさらに出世したいと考えていた。
だからこそ、島津侯爵家と仲違いするわけにはいかないのだ！
詩織は冷ややかな目で見ていた。さすが次女に姉の身代わり結婚をさせるという考えを思いつく人だ。不愉快なことも全て「お前のため」に変えてしまう。
元の主人公はまだ十六歳にすらなっておらず、婚約も決まっているため、母親からずっと裏庭に閉じ込められてきた。政界や世間の事情に疎く、本当に脅かされてしまったかもしれない。
しかし、今の彼女は違う。
詩織はあごを少し上げて彼を見つめた。「では、父上は考えましたか？私が本当に嫁いだ場合、どうなるかを。大和が花嫁を見ると、望んでいた人ではないと分かったら、私をどう扱うでしょう？世間は島津侯爵家が姉を娶ると知っているのに、私に変わったとなれば、皆は私をどう見るでしょうか？！」
少女の力強い問いが静かな書斎に響き渡った。
学は心臓が締め付けられる思いで、狼狽えて目をそらした。「父にも難しい立場があるんだ。理解してほしい。さもなければ婚約を断れば、島津侯爵家は父を許さないだろう。そうなれば父の官職も失うかもしれない！」
「では、なぜお姉さんを結婚させないのですか？」詩織はさらに尋ねた。
学は無意識に答えた。「お姉さんはあんなに気まぐれで、式場で大騒ぎするかもしれない——」
「つまり、姉は気まぐれだから婚約したいときはして、結婚したくないときは私に身代わりをさせる。そして私は素直だからというだけで、自分の結婚を犠牲にして姉の尻拭いをしろというのですか？」詩織は言い返した。
学は老けた顔を赤らめた。
確かに、蓮華は気まぐれで、屋敷の人々は彼女のことになると本能的に譲歩してきた。そして彼はこの次女が分別があると思っていたから、当然のように彼女に犠牲を強いていた。
だが、そんなことは認められん！重なる問いに業を煮やし、学の声はつい強くなる。「何を言うか！姉妹は運命共同体だ！姉の評判が悪ければ、妹であるお前も良いはずがない。最初から母親任せにすべきではなかった。良い子ではあるが、大局観が全く足りない。よく覚えておけ、お前をここまで育て上げたのは今井家だ！」
詩織は顔を上げた。美しく純粋な小さな顔が一層神々しく見え、一語一語を明確に宣言するように言った。「十月間私を胎内に宿してくれたのは母です。苦痛に耐えて私を産み落としてくれたのも母です。私を養育し、言葉を教え、歩くことを教えてくれたのも母です！将来の保証のために、恩義で婚約を結んだのは母方の祖父です。
まして母と私はめったに外出せず、宝石や装飾品もほとんどなく、出費も多くありません。今井家がなくても、母は私を育てられたでしょう。特に私の記憶の中では、あなたが現れる回数は執事にも劣る有様で、これがあなたの言う育てあげたということですか？！」
彼はどうして育ての恩を口にできるのか？
詩織はそこまで言わなかったが、その小さな顔にははっきりとその意味が表れていた。
学の顔色が徐々に青ざめていくのを見て、彼女は最後にはっきりと言い放った。「大義名分で私を縛らないでください。身代わり結婚など受け入れられません。最初にこの縁談を欲しがったのは蓮華姉さんです。今になって婚約を破棄したいなら、自分でするか、自分で嫁ぐかしてください！そうでなければ、恥をかくなら私も一緒に恥をかきましょう！」
言い終えると彼女は立ち上がり、冷淡な口調で言った。「私は疲れました。先に下がります」
そして彼女は振り向いて部屋を出た。
学は後ろから怒鳴った。「待って！誰が出て行っていいと言った？」
詩織は聞こえないふりをして、扉を開けて出て行き、閉める時も特に大きな音を立てた。がたんと二度の音は、まるで学を嘲笑うかのようだった。
書斎の中では一斉に「ぴりぴりっ」という音が鳴り響いた。
*
詩織はもちろん聞こえていたが、恐れてはいなかった。
彼女には既に婚約者がいた。大夏王朝の大将軍家の次男、阿部修一（あべしゅういち）である。阿部家は武門の名家で権勢が強く、長年彼女と母親を守り続けてきた。だからこそ、今井家は彼女に直接手を出せなかったのだ。
たとえ阿部家との婚約を解消したいとしても、彼女と母の承諾なしではできず、阿部家も承知しないだろう。
今の彼らにできるのは彼女の機嫌を取ることだけだ。
突然、耳元で声がした。「詩織？」
詩織が声の方を振り向くと、艶やかで美しい女性が大股で歩いてきた。頭には朱色の髪飾り、首や手首には様々な装飾品を身につけ、歩くたびにちりんちりんと涼やかな音を響かせている。金糸をあしらった衣装が、さらにその豪華さを際立たせていた。
これが小説の女主人公、蓮華だ。名前は清楚に見えるが、実際には彼女自身もこの名前に似つかわしくないと思っている。攻撃的な容姿だけでなく、宝石や装飾品といった俗っぽいものを好み、特に虚栄心が強く、家柄のある令嬢たちを見下すのが好きだった。
小説の言葉を借りれば、彼女は美しいけど毒のある女であり、首輔の心の中の罪深くも忘れられない存在だった。
詩織は黙って彼女を見つめていた。
蓮華は見られて少し居心地悪そうにし、無意識に頬に手をやると、腕輪がちりんと鳴った。化粧が崩れておらず、服も乱れていないことを確認して安心し、近づいて笑って言った。「どうしたの？」
詩織は鼻で笑った。「どれだけ厚かましいのかと見てたの。苦労して求めた縁談なのに急に嫁ぎたくなくなって、父上に私を騙して身代わりに行かせようとするなんて！」
ドカン！
蓮華の頭の中で雷が落ちた。顔が一気に熱くなるのを感じ、あわてて周りを見る。侍女たちが呆気に取られている様子に、恥ずかしさと怒りが爆発しそうだ。「ちょっと何言ってんの！？」
詩織は意味深に彼女を見た。「私が何を言っているか、あなたは知っているでしょう」
詩織はそれ以上何も言わず、人々の間を通り抜けて歩き去った。
蓮華は彼女を捕まえようとしたが、言われた言葉にあまりにも衝撃を受け、すぐには反応できなかった。我に返った時には、すでに数歩も離れていた。周りの侍女や小間使いが皆こっそり自分を見ていることに気付き、怒りで足を踏み鳴らし、書斎に駆け込んだ。「父上！！！」
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