息子が交通事故に遭った!
たった今、車に轢かれて病院に運ばれたという。
言野梓は一目散に言野晃のいる病室へと向かった。息を切らして病室の入り口に着いたとき、中から笑い声が聞こえてきた。
「お姉さん、僕って本当にお姉さんが今まで見た中で一番可愛い男の子なの?僕、知ってること少ないから、簡単に信じちゃうよ?」
この鈴のように澄んだ幼い声に、梓は一瞬固まった。
「晃!」
梓は大股で病室に駆け込み、整った可愛らしい顔を持つイケメンくんが、自分に向かってイタズラっぽく笑うのを見た。
「やぁ、梓ちゃん」
「……」
梓は一瞬呆然とし、すぐにベッドサイドに駆け寄り、少し震える両手で息子の肩を抱きしめた。
「晃、大丈夫だったの?ママは心配で死にそうだったよ!」
「大丈夫大丈夫、梓ちゃん、僕は平気だよ」
晃は可愛らしい手を伸ばして梓の手を優しく叩き、まるで大人のように様子で慰めた。
「晃、ママに教えて、どこか痛くない?」
「お嬢さん、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。晃くんは足を少し捻挫しただけで、大したことはありません。今夜一晩経過観察で入院すれば、明日には退院できますよ」
傍らの若い看護師が梓に安心させる答えを返した。
「本当ですか?本当に大丈夫なんですね?」
「はい、ご安心ください」
看護師さんが確信を持って頷き、梓はようやく完全にほっとした。
「ありがとうございます、看護師さん」
「どういたしまして。それでは親子の時間を、ごゆっくり過ごしてくださいね」
若い看護師は微笑みながら晃の方を見た。
「晃くん、ゆっくり休んでね」
「ありがとう、お姉さん。ちゃんと休むよ」
晃は看護師さんに向かってにっこり笑い、ピンク色の唇の端に、可愛らしい二本の小さな八重歯を見せた。とても愛らしかった。
「息子さんは、本当に面白い子ですね」
若い看護師は振り返って微笑んだが、梓の見間違いじゃなかったら、その看護師さんは少し顔を赤らめていたようだ。
きっとうちのイケメンくんに口説かれたからだろう!
彼女は振り返り、真剣な表情で悠々自適な顔をした息子を見つめた。
「晃、お願いだから5歳の子供らしいことをしなさい。女子を口説くなんて、20年後にして!」
「梓ちゃん、嫉妬してるの?でも安心して、僕が一番好きな子はいつだって君だよ」
「……」
梓は言葉を失った。
もう少し叱りたかったが、息子のゆっとりでチャラい様子を見ると、少なくとも彼が本当に無事だということを確信できた。
「そういえば梓ちゃん、さっき僕を病院に連れてきてくれたお兄さん、すごくかっこよかったよ。僕と同じくらい気品があってね、あの人が僕のパパになるなら、僕は反対しないよ」
梓は気持ちを落ち着けるために水を一口飲んだところだったが、この言葉を聞いて思わず詰まりそうになった。
「晃、変なこと言わないで!」
梓は真剣な表情で叱ってから、すぐに眉をひそめた。
「林田先生が病院に連れてきてくれたんじゃなかったの?」
この子は首を振り、生き生きとした瞳をパチクリさせた。
「あのお兄さんが連れてきてくれたんだよ」
晃はそう言いながら、枕の下から一枚の名刺を取り出して梓に差し出した。
梓は名刺を受け取り、下を向いて見た。
「墨田修……」
この名前はどこかで聞いたことがあるような気がする。どこだっただろう?
梓は疑問に思いながら、もう一度職務の説明を注意深く見ると、美しい瞳を大きく見開いた。
「キング財団の、会長?」
……
梓は自分がそんな偉い人と接触する日が来るとは思ってもみなかった。でも相手が息子を病院に連れてきてくれたのなら、母親として何としてもお礼を言わなければならない。
しかも、看護師さんによれば、あの墨田会長は入院手続きの費用まで立て替えてくれたという。
梓は携帯電話を手に、長い間躊躇した末、ようやく名刺に書かれた一連の数字を押した。
電話は数回鳴った後、ようやく繋がった。
口を開こうとした瞬間、向こうから男性の低い声が聞こえてきた。
「どちら様ですか?」