第3章 – Enver と Xelix
> 「ここに近づく前に……
お前自身の罪から生まれた影の試練を越えなければならない。
それはただの試練ではない。お前の心の奥に刻まれた、贖われぬ咎の映しだ。」
エンヴァーの声は低く、しかし竹林の根から静かに響きわたるようだった。
その声は風のように、黙して、しかし魂の奥を貫く。
クセリクスは立ち尽くしていた。
顔は青ざめ、身体は秋の終わりに散る一枚の葉のように震えた。
漂う霧の向こうから、やがてそれは現れた。
赤い布に包まれた、痩せた女。
その笑い声は、石の上で割れた鏡を引きずる音のようだった。
それは「キ」。
憎しみから生まれ、眠ることを忘れた怨念。
人間の姿を借りて現れる影。
クセリクスは一歩下がろうとしたが、地面がそれを拒んだ。
自分の影の中から、二人の子供が這い上がってきた。
壊れた指で足を掴む。
小さな身体、流れる血、砕けた顔、裂けた耳――
だが、その瞳だけが生きていた。
その目は、彼を見ていた。
記憶が溢れ出す。
忘れたはずの夜が蘇る。
あの夜――
飢えた子供たちが道端で手を差し出した。
彼は苛立ち、冷たい心で彼らを蹴った。
小さな身体が道路へと弾かれ――
車のライト、鈍い衝突音、悲鳴。
そして――静寂。
戻らぬ沈黙。
彼らは今、帰ってきた。
子供ではなく、傷の形をした呪いとして。
その身体は壊れ、再び元に戻る。
また壊れ、また戻る。
終わらぬ輪廻の苦しみ。
クセリクスは吐こうとしたが、口から出たのは胃の中身だけではなかった。
数千匹の小蛇、血、虫――
太ももからは長いミミズが這い出し、闇の中で踊っていた。
キは笑った。
小蛇をつまみ、まだ生きたまま飲み込む。
その笑いは、もはや人の声ではなかった。
それは死の笑いだった。
クセリクスは叫ぼうとした。
だが、声は出なかった。
そこにはただの静寂。
ただの寒さ。
そしてただ一人――
エンヴァー。
竹林の主。
魂の声を聞く者。
罪の通訳者。
遠くで彼は静かに座っていた。
冬の風のような微笑みを浮かべながら。
その隣にはマルヴァが立っていた。
震えているのはキへの恐怖ではなかった。
その男――神のように罪を裁く存在への、畏れだった。
一体のキが咆哮し、仲間を呼ぶ。
次の瞬間、群れがクセリクスを取り囲む。
彼の記憶と肉体を食らうために。
だが――
空から赤い光が降り注ぎ、すべてが凍りついた。
クセリクスは崩れ落ちた。
竹と静寂だけが残る。
立ち上がろうとしても、腹の中が引き裂かれるような痛みに襲われる。
また、二人の子供が現れた。
今度は血も涙もなく、ただ立っている。
だが、その目は変わらなかった。
> 「僕たちのものを返して……返さなければ、ずっとついていくよ。」
「私たちは、生まれてきたくて来たわけじゃない。
でも、あなたが全部壊したの。
せめて、この苦しみから解放して……」
彼らの声は反響しない。
だが、心に直接突き刺さる。
クセリクスは言葉を失った。
彼らが誰か、分かっていた。
あの男――雨の夜、安いホテルの部屋で。
二人の子供がその扉を開けた。
彼は既婚者。
家族のある男だった。
その子供たちは、今や傷の姿となり――呪いと化した。
キが彼らを土へと引きずり込む。
クセリクスは走る。
彼らを引き戻そうとする。
だが、手は空を掴むだけだった。
手には一枚の写真が残っていた。
あの男。
その妻と、二人の子供――
彼らだった。
「これは……」と呟く。
遅すぎた悟り。
足取りは乱れ、呼吸は荒くなる。
背後の竹が閉じていく。
前に進むしかなかった。
遠くに、一軒の屋敷が見えた。
大きく、美しいが――その壁からは、古い傷のように黒い血が染み出していた。
震える手で扉に触れる。
冷たい蝶番。
ガラァァアアン――
扉が開いた。
そして、静寂が出迎える。
まるで、亡霊の抱擁のような優しさで。
中には――エンヴァーがいた。
動じることなく座り、
その目は、炎のように鋭く、すべてを支配していた。
だが、彼の微笑みは消えない。
それは、ガスに満ちた部屋で灯る一本の蝋燭のように――美しく、危険だった。
> 「ようこそ、クセリクス嬢。」
その声は深く、底知れぬ闇の底から響くようだった。
「自ら刻んだ傷を見つめるまでは、真に一つにはなれない。
影は恐ろしくなどない――それが自分のものだと否定しない限りは。」