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23.07% 二十年の愛を結婚式で断ち切る / Chapter 6: 第6話:五年間の重み

Chương 6: 第6話:五年間の重み

第6話:五年間の重み

[雪音の視点]

大学の事務室で退職届を提出した時、同僚たちの視線が私に集まった。

「雪音さん、本当に辞めちゃうんですか?」

若い助手の田中さんが、驚いたような顔で私を見つめている。

「ええ」

「結婚されるんですよね。専業主婦になるなんて、羨ましいです」

周りの同僚たちも、口々に祝福の言葉をかけてくれる。

私は静かに首を振った。

「結婚式は、中止になりました」

その場の空気が一瞬で凍りついた。

「え......?」

「研究に専念することにしたんです。失礼します」

私は足早にその場を後にした。

家に帰ると、一週間ぶりに冬夜の姿があった。リビングのソファに座って、紅と何かを話している。

「おかえり」

冬夜が振り返った。その隣で、紅が私を見上げて微笑んでいる。

「お疲れさまです」

紅の声は相変わらず甘ったるい。

私は無言で靴を脱いで、リビングに向かった。

「あれ?」

冬夜が部屋を見回している。

「なんか、荷物減ってない?」

「不要なゴミを整理しただけよ」

私は冷静に答えた。

紅がくすくすと笑った。

「雪音さんって、几帳面なんですね。私なんて、片付けが苦手で......冬夜さんにはいつも迷惑をかけちゃって」

そう言いながら、紅は冬夜の腕に寄りかかった。

「そうそう」紅が急に明るい声を上げた。「冬夜さんと旅行に行ったんです。温泉も入って、美味しいものもたくさん食べて......あ、それから」

紅の目が輝いた。

「ウェディングフォトも撮ってもらったんです。すごく素敵に撮れて......雪音さんにも見せてあげたいくらい」

私の胸に、鈍い痛みが走った。

「そう」

「でも、雪音さんには申し訳ないことをしちゃって......」

紅が急に目を潤ませた。

「私のせいで、雪音さんの撮影がなくなっちゃって......本当にごめんなさい」

涙を浮かべながら謝る紅を見て、冬夜の表情が険しくなった。

「雪音」

冬夜が私を睨んだ。

「紅が謝ってるだろ。何か言うことはないのか?」

私は何も答えなかった。

「雪音!」

冬夜の声が荒くなった。

「紅はお前に気を遣って謝ってくれてるんだぞ。それなのに無視するなんて......」

「いいんです」紅が冬夜の袖を引いた。「雪音さんも疲れてるんですよ。きっと」

「そうだな」冬夜が立ち上がった。「今度、三人で食事でもしよう。紅へのお礼も兼ねて」

私を見下ろして、冬夜が言った。

「絶対行けよ」

それは命令だった。

レストランで、冬夜は店員に細かく指示を出していた。

「セロリは抜いてください。彼女、苦手なんで」

紅の嫌いなものを完璧に把握している。

「雪音には、エビのパスタで」

冬夜が私の分まで勝手に注文した。

料理が運ばれてきて、私は箸を手に取った。

でも、口に運ぶ前に気づく。

「私、海鮮アレルギーなの」

私は箸を置いた。

冬夜の動きが止まった。

「え?」

「エビ、食べられないの」

ほんと、笑えるよね。五年も付き合っていたのに、冬夜は私が海鮮アレルギーだってことを知らない。けど、紅の苦手なものは完璧に覚えている。セロリを避けるみたいな細かいことまで。

「ごめん......知らなかった」

冬夜の顔が青ざめた。

「他のものを注文し直そう」

「いいの」

私は水のグラスを手に取った。

「お腹空いてないから」

食事の間、私は水だけを飲んでいた。冬夜は何度も謝ったけれど、私は何も答えなかった。

食後、私のスマートフォンが鳴った。

研究室の先輩からだった。

「はい、雪音です」

『明日から例のプロジェクトが始まるけど、準備はできてる?』

「はい」

『念のため確認するけど、一年か二年は外部との連絡が取れなくなるからね。本当に大丈夫?』

私は冬夜の方を見た。彼は紅の腰に手を添えて、優しくエスコートしている。

「結婚式は中止になりました」

『え?』

「もう、離れる準備はできてます」

その時、背後から声がした。

「誰が、離れるって?」

振り返ると、冬夜が戸惑いの表情で私を見つめていた。


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