私が荷物を引きずって母の家に着いた後、高橋彰から電話がかかってきた。
彼は不機嫌な声で言った。「どこに行ったんだ?渡辺恵、もうこんな時期になって、親戚や友人みんなが知ってるのに、家出でもするつもりか?」
私は静かに電話を聞いていた。かつては好きだったあの声が、今はただ耳障りに感じられた。携帯を少し遠ざけてから口を開いた。
「家出するつもりはないわ。結婚前にちょっと気分転換したいだけ。二、三日したら戻るから」
「そうであることを祈るよ」彰は警告するような口調で言った。「お前のそのSNSで見たようなことを真似するなよ」
SNS。
私が好きで見ているSNSをそんな風に言うなんて。
それに彼の心の中で私はいったいどんな人間なの?
結婚前に私が不品行になると思っているの?
彰はさらに付け加えた。「わかってるだろ、俺はきれいな女の子が好きなんだ」
なんて傲慢なんだろう。
私は小さな声で答えた。「わかってるわ」
彰はきれいな女の子が好き。
じゃあ彼の好きな佐藤美央が、彼が想像しているほどきれいじゃないことを知っているのかしら?
そう思った瞬間、私の心に微妙な皮肉が湧き上がった。
でもすぐにその感情を消し去った。
美央がどんな人間であろうと、私には関係ない。
電話を切ると、すぐに親友から電話がかかってきた。
彼女は小声で言った。「もう知ってたの?」
「何を?」私は思わず固まった。
彼女は電話をしながら、SNSで何か情報を送ってきた。
開いてみると。
美央と彰の2ショット写真だった。
キャンドルディナー、花束、ロマンチックな雰囲気。
イケメンと美女、本当に似合っている。
親友は慎重に言った。「……あなたが知ったら病状が悪化するかと思って、教えられなかったの」
「でも、もう知ってたなんて」
「この間ずっと、彰はほとんど美央と一緒にいたわ。私が働いているホテルでも二人を見かけたし」
「あなた、前は彰のことをあんなに好きだったから……私、何も言えなくて……婚約破棄も悪くないと思うわ」
私はじっと彰が投稿したSNSの日付を見つめていた。
なんて素敵なこと。
私の親友でさえ、こんなことを知っていたなんて。
私だけが知らなかった。
みんな彰のために私に黙っていた。
なぜ?
私が病気だから。