第2話:崩れ落ちた夢
[雪音の視点]
写真に写っているのは、冬夜と紅が病院の前で手を繋いでいる姿だった。
そして、封筒の底にもう一枚の紙が入っていた。
妊娠検査報告書。
患者名:花咲院紅
妊娠週数:三週
三週。
頭の中で計算が始まる。今日が十月十五日だから、逆算すると......一ヶ月前。
一ヶ月前といえば、冬夜が初めて人工授精の話を持ち出した日だ。
「そんな......」
報告書が手から滑り落ちた。
つまり、冬夜はあの時点で既に紅を妊娠させていたということ?この一ヶ月間、私に同意を求め続けていたのは、自分の行動を正当化するためだけだったの?
膝から力が抜けて、その場にへたり込んだ。
胸は大きな手で締めつけられているように苦しく、息をするのも辛い。
たった二ヶ月前にプロポーズして、来月には結婚式を挙げる予定だったのに。ウェディングドレスも式場も、すべて早めに準備していたのに。私はあの日をずっと楽しみにしていた。冬夜の腕に手を添えて、一緒にバージンロードを歩くあの日を——だけど今、その全ての希望は泡のように消えて、虚空へと消え去ってしまった。
リリリリリ。
携帯の着信音が響いた。
画面を見ると、大学時代の先輩からだった。こんな時に......でも、無視するわけにもいかない。
「はい......」
声がかすれていた。
「雪音ちゃん?どうしたの、声が変よ」
先輩の心配そうな声が聞こえる。
「大丈夫です。何か用事でしょうか」
「実は、前に話した皇都の研究室の件なんだけど......まだ諦めてないのよ。先生があなたの才能をすごく評価してて、どうしても来てほしいって」
皇都の研究室。
以前、先輩から誘われたことがあった。でも、結婚を控えていたから断ったんだ。
「研究期間はどのくらいですか?」
「短ければ一、二ヶ月。長ければ一、二年かな。その間は外部との連絡は基本的に絶たれるけど......どう?」
外部との連絡が絶たれる。
つまり、冬夜とも完全に縁を切れるということ。
「雪音ちゃん?」
「......特別休暇とかは必要ですか?」
「いえ、すぐにでも来てもらえるなら......」
私は壁のカレンダーに目をやった。
十一月一日。結婚式の日に赤いマルが付けられている。
「結婚式の日に向かいます」
「え?結婚式って......」
「はい。その日に皇都へ向かいます」
電話を切って、カレンダーをじっと見つめた。
あと十五日。
二十年以上想い続けた人への気持ちに、終止符を打つまで——