「あ!私、わざとじゃないの!」
「ただ中に何があるか見たかっただけ……」
雲井佳乃の驚きの声が聞こえてきた。
城戸洸也の手にあった小犬の骨壷が地面にひっくり返された。
一陣の風が吹き、壷の中の骨灰がプールの中へと舞い散った。
灰色の骨灰が水面に漂っている。
私の目から涙が零れ落ち、視界が霞む中、電話の向こうの洸也に最後の言葉を告げた。
「洸也、今度は死んで謝罪すれば、もうあなたに借りはできないわ……」
言い終えると、私は別荘の三階から身を躍らせた。
体が急速に落下していく。
風の音が耳元で唸り声を上げる。
記憶が脳裏に浮かび上がる。
初めて会った洸也の姿が見える、陽気で正義感あふれる顔で私を背後に守っていた。
初めて生理用品を届けてくれた洸也の姿が見える、顔を真っ赤にしながらも私が痛くないか心配してくれた。
九十九通の恋文を書いてくれた洸也の姿が見える、愛に満ちた表情で一生愛すると誓ってくれた。
走馬灯の最後に、私は短い人生で唯一の甘い思い出を見た。
最後に意識が消え、プールに叩きつけられる瞬間、私は二十八歳の洸也の、驚愕と慌てに満ちた表情を見た。
……
プールサイドで、洸也の顔がプールから跳ね上がった水で濡れた。
骨身に染みる冷たさが、彼を我に返らせた。
骨壷の中の灰色の骨灰を見下ろす。
洸也は私の先ほどの言葉を何度も思い返していた。
彼の頭の中が一瞬真っ白になった。
「洸也、佐々木先輩が飛び降りるときの表情、すごく面白いわ。これを写真展に出したら、絶対話題になるわ!」
佳乃はカメラを手に、何でもないように笑っていた。
「あれ、佐々木先輩、まだ上がってこないの?」
「こんなに寒いし、早く戻りましょうよ!」
佳乃は勝手に洸也の腕を引っ張り、別荘へ向かおうとした。
しかし洸也は微動だにしなかった。
彼はプールを凝視していた。
数秒経っても何の動きもなく、彼は慌てた。
躊躇なくプールに飛び込み、洸也は徐々に硬直していく私の遺体を抱えて岸に上がった。
「きゃあ!」
「洸也、佐々木先輩の体、どうしてこんな状態に…!?」
佳乃は恐怖に震え、私の遺体を指さしながら、恐ろしそうに後退した。
洸也は目の上の水を拭い、私の姿をはっきりと見た。
彼の全身の血が凍りつき、頭の中が真っ白になった。