赤いジュエルナイトが夜空を飛翔する。その後ろには三騎のジュエルナイト。内に二騎は見知った顔ぶれとなった黒と青のジュエルナイトだ。
戦力的に見れば最悪に等しい。
サーニャは全天周囲モニター越しに赤いジュエルナイトの掌で暴風に煽られる少年を見る。モニターがサーニャの意思を汲み取り、小型ディスプレイを出力し、拡大された少年の姿を映し出す。
明かに顔色が悪い。
「どこかやれたのか? いや、あの感じだと、このコの方が優位に見えたけど……」
格納庫に突入した時のことを思い出す。
少々手荒な真似だったが、相手の虚を突くには絶好の方法だった。それに少年には悪いがちょっとした仕返しのつもりでもあった。
しかし、突入したら突入したで既に事が起きていた。あの少年が仮面の集団に囲まれているようだったが、その半数が打ちのめされてだらしなく伏していた。
「このコはやっぱり……異世界人なの? ん? だとしたら……」
サーニャは再び少年の顔を見る。いや、衣類から露出した肌を出来る限りズーム映像で確認する。
「これは⁉」
露出した身体の節々に赤い湿疹が見られた。
間違いなく風土病だ。
サーニャは急いで赤いジュエルナイトの手をコックピットに近づけてからハッチを開ける。
「こっちに移れるか!」
少年――六花は頷いてから軽く跳躍してコックピットハッチにしがみつく。
サーニャはすかさず手を伸ばし、六花が飛行による強風で飛ばされないように中へと引き入れる。
コックピット内は球体状になっているため、必然的にサーニャにお姫様抱っこされたような体勢になってしまう。
サーニャは少々頬を赤らめるも六花は全く気にしていない様子だった。
それがどうしてだか妙に腹が立つ。
「あの、どうして……?」
六花は頭痛と寒気に襲われながらも問う。
「いいから! それよりコレ! ローゼ様からおそらく今のお前に必要な物が入ってるはずだ」
サーニャは言ってローゼから受け取った巾着袋を手渡す。
次の瞬間、後方から一条の閃光が赤いジュエルナイトの真横を突っ切っていった。その衝撃と余波で機体が少し揺れる。
六花はそんな少しの揺れでも思わず声を漏らしてしまっていた。
「早く巾着を開けろ! あと、変なところを触るな!」
「ご、ごめん……なさい!」
六花は謝るやすぐさま巾着袋を開ける。中身はいかにも身体に悪そうな真っ青な液体が入った小瓶と黄色の丸い形をした錠剤だった。どこからどう見ても薬だ。
「やはりそれが入ってたか」
「あの、これは……?」
「アンタはおそらく風土病に掛かってる。その薬は風土病の特効薬と……小瓶の物は皇族でも選ばれた者にしか所持を許されない『万能の秘薬』よ。ローゼ様は余程アンタのことを助けたいようね」
「命を狙ったのに?」
「いいから早く飲みなさい! 今の状態じゃ、どの道、長くは持ちこたえられないわ! この先に予備のジュエルナイトを隠してるから。アンタも一緒に戦いなさい!」
六花はサーニャの言葉に驚愕を露にする。暗殺に半強制的だったとは言え協力した者に薬を与え、戦うための剣まで与えようと言うのか。ローゼという人間は余程の馬鹿なのか、お人好しなのか。もしくは仮面の男以上の策士なのか。
なんだか面白くなってきた。
不思議と心の中に温かいものを感じる。
意を決した六花は黄色い錠剤を口に含むや否や小瓶の蓋を開け、一息に飲み干す。
「あ、馬鹿! それ物凄く――」
「ま、不味い……」
口の中が爆発したのかと錯覚してしまうほどの苦みを感じる。
「アンタ、最後まで人の話を聞かないタイプなの?」
「ごめんなさい。でも、急に身体が軽く……頭痛も治まった。ブツブツも消えてる。凄いね、さっきの薬」
六花は不思議そうに自分の両手を握ったり開いたりを繰り返す。顔色もすっかりよくなり、今まで負っていた疲労感も全て解消されたようだ。
だが、そんな少年の様子を見てサーニャは目を丸くする。
「もう薬が効いたの? は、早過ぎない? 最短でも十分は掛かるし、それでも目眩や湿疹が残るのに……アンタ、ホントに何者なの?」
「六花……冬木六花! ありがとう。これで戦える」
そうこうしている内に素体状態のジュエルナイトを隠しておいた森の近くまでやってきた。
サーニャは「掴まれ!」と短く言うと赤いジュエルナイトを急加速、急降下させる。
二人は一瞬の殺人的な重力加速度を感じつつも、平然とした面持ちのまま全天周囲モニターに映る森を真っ直ぐ見つめる。
「あそこにあるんだね」
「ええ。でも、向こうの足も速い。乗り移る時間を稼げるかしら」
先程まで強気だったサーニャが途端に弱気になる。相手が手練れだと分かっているからこその不安が過る。
しかし、六花は落ち着いた様子で、
「林に入り込むことはできる?」
「え、できるけど……アンタまさか!」
「大丈夫。一瞬でも速度を落としてくれたら降りられそうだから」
言って六花は操縦桿を握るサーニャの手に自分の手を添えて勝手に操縦し始める。と言うのも、ここで六花が操縦桿を握ってしまえば、ジュエルナイトが騎操師の固有波動を感知する能力が誤作動を起こしてしまい、空中で素体状態に戻ってしまうからだ。
言うなれば丸裸の状態で墜落してしまうのだ。流石のジュエルナイトでも大破、もしくは爆発四散してしまう案件だ。
さらに代わりに操縦すると言うことは、必然的に六花がサーニャの膝の上に座る体勢になってしまう。
サーニャは今度こそ顔を赤くしながらも、操縦桿から手を離してはいけないため、意識だけは操縦に集中させる。
(男の子ってこんな匂いなんだ……)
六花の後頭部がすぐ目の前にあるため、髪から漂う少し汗臭いが癖になる匂いが鼻孔をくすぐる。状況が状況でなければもう少しこうしていたかった。
「それじゃあ、行ってきます」
言われてから気付いた。
いつの間にか木々の直上まで高度が下がり、滑らかな減速を見せてすぐにでも飛び降りられるようになっていた。六花の操縦技術はやはりサーニャより上だった。
六花はそのまま間髪入れずにサーニャの指を借りてコックピットハッチを開けた。
「え、ちょっと!」
サーニャの静止を無視して六花はコックピットから木々が生い茂る林へと消えていった。
「全く。どうして私の周りには、人の話を聞かない無茶ばっかりする人が集まるのやら……」
サーニャは呆れた様子で言うと、背後に迫る三騎のジュエルナイトを睨む。
青と黒のジュエルナイトは話だけしか聞いていないが実力はかなりの物だと聞いている。その後方を飛行するジュエルナイトはおそらく雑兵だろう。特に目立った覇気を感じない。
「たくさん振り回された分、暴れさせてもらう!」
サーニャは言って全身に力を込める。
次の瞬間、サーニャの駆る赤いジュエルナイトに変化が起きた。
赤い宝石のような装甲が発光し、より鋭利な装甲へと変貌する。さらに腰部背面から龍のような尻尾が生え、額からは一本の刃のような角が伸長する。最後に全身が一層鮮やかな赤色へと染まり、発光を終える。
例えるなら赤い一角の龍人。
熱気を帯びたように周りの空間が歪む。
サーニャが本気で戦うと決意した赤いジュエルナイトの本当の姿だ。
「さあ、行くわよ!」
赤い閃光となったサーニャのジュエルナイトが青いジュエルナイトの盾に跳び蹴りを喰らわせる。その威力は凄まじく、防いだはずの青いジュエルナイトが後方に吹っ飛ばされた。その光景に唖然として動けなくなった後方のジュエルナイトへ急接近し、片手で振り上げた剣を左肩から右腰に掛けて振り下ろす。
相手のジュエルナイトは寸でのところで身体を逸らしたが、左腕と両脚を斬り飛ばされ行動不能となった。
まさにあっという間の出来事だった。
これがサーニャの親衛隊長に相応しい本当の実力である。
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